
大規模修繕工事で足場を使わない工法についてのQ&A

これまで、マンションの大規模修繕工事や設備配管の改修工事、長期修繕計画の見直しや管理会社の変更など、多岐に渡って、管理組合運営に関する仕事をさせていただいてきました。その中で管理組合のみなさんからいただいた大規模修繕工事での足場を使わない工法についての質問を少し深掘りしてみます。
無足場工法を検討するべきか?
先日、大規模修繕工事の設計業務において、あるマンションの方から、大規模修繕工事は足場を架ける費用が高いので、足場がなくても工事を行える無足場工法は検討したのかというご質問をいただきました。
大規模修繕工事はいわゆる足場を架けて行う工事と言われており、大規模修繕工事は足場に費用がかかるというご意見やイメージをお持ちの方が多くいらっしゃると思います。大規模修繕工事において、足場を架ける工事は、直接仮設工事と言います。直接仮設工事の費用は、おおよそ大規模修繕工事の全体の費用の約2割から3割前後です。
足場を架けないで大規模修繕工事を行ったとしても、その費用がゼロになるというわけではありません。足場を架けない代わりに屋上からブランコと言う職人さんが1人乗る仮設物などを吊るして、作業を行うことになるので、その為の費用がかかります。
AIに聞いた!無足場工法のメリット
大規模修繕工事で足場を架けないで工事を行う場合のメリットとデメリットについて、最近話題のAIにそれぞれ3点をあげてもらうように聞いてみたところ次のような回答でした。
まずはメリットの1点目は、「足場の設置や解体には多大な費用がかかります。足場を架けないことで、その費用を削減でき、全体的な修繕コストが抑えられます。」とのことですが、多大な費用というのがあいまいで、また、費用を削減というとゼロなるようなイメージですが、先ほど申し上げたとおり、仮設工事に関する費用はゼロにはなりません。仮設工事に関する工事費は抑えることはできますが、費用を抑えられても、足場がなくて十分な工事ができるのか?という疑問は当然あります。
メリットの2点目は、「足場を設置する時間が不要なため、工事全体の期間が短縮され、工事の開始から終了までの時間が短くなります。」とのことですが、これも足場を設置する時間は不要になりますが、ブランコなどを吊る為の仮設物の設置が必要になりますので、直接仮設工事に関する時間はゼロにはなりません。逆にブランコの方が足場より、作業効率が悪いので、下地補修や塗装工事などについて、足場とブランコで同じように作業を行う場合は、ブランコで行う作業の方が工事期間は長くなるのでないかと思います。
最後、メリットの3点目としては、「足場がないため、窓の開閉やベランダの使用が制限されることが少なく、住民の生活への影響が軽減されます。」とのことです。これについては、間違っていて、窓の開閉やベランダの使用が制限されるのは、足場を架けて工事をするかしないかではなく、窓廻りやベランダにおいて、どのような工事を行うかです。ベランダの床のシートの張り替えや防水工事を行う場合は、足場の有る無しに関係なく、ベランダの使用制限が必要となります。無足場工法でもベランダ面だけは足場を架けて工事を行うこともあります。
AIに聞いた!無足場工法のデメリット
逆にデメリットとして、AIは次の3点があげました。
まずデメリットの1点目として、「足場がないことで、作業員の安全性が低下する可能性があります。特に高所作業では、安全対策がより重要になります。」とのことですが、しっかりとした取り付けをすれば、必ずしもブランコなどの作業は安全性が低下するということは無いと思います。
デメリットの2点目は「足場を使用しない場合、特定の作業に制約が生じることがあります。例えば、広範囲にわたる外壁修繕や塗装作業が難しくなることがあります。」とのことです。広範囲の外壁修繕や塗装工事でもブランコを付け替えれば、作業を行うことができますが、足場に比べて、当然、効率は悪くなります。ブランコで作業を行う場合、大規模修繕工事で行う外壁の高圧洗浄は、無足場工法では行わないようなので、特定の作業に制約は生じます。
最後にデメリットの3点目としては、「作業のアクセスが制限されるため、細部の作業が難しくなり、仕上がりの品質が足場を使った場合に比べて劣る可能性があります。」とのことです。これは確実にあると思います。塗装工事はブランコでもそれほど問題なく作業はできるかと思いますが、ひび割れ部分のUカットやタイルの張り替えなどの大規模修繕工事では一番重要な下地補修については、ブランコで行うのはなかなかたいへんな作業です。
また、一般的に大規模修繕工事では、各工程において、施工会社による現場の自主検査、品質管理部の社内検査、監理者の検査、管理組合の検査などを行いますが、特に重要な外壁下地補修について、それらの検査を行うことできませんので、仕上りや品質について問題があってもそれを指摘し、是正を求めることが難しくなります。
足場や現場事務所などの仮設工事については、大規模修繕工事が完了すれば、撤去しますので、できたらそれらの費用を抑えたいという考えは当然のことですが、今回ご質問いただいた管理組合では、仮設工事について諸々検討のうえ、足場を架設して工事を行う方向で検討を進めています。
タワーマンションにおいては、足場を架設せずにゴンドラにて工事を行いますが、それは費用を抑える為ということではなく、マンションの高さにより、足場を架けることができないため、ゴンドラでの工事を計画するということであり、20階を超えるタワーマンションでも可能であれば足場を架設して工事を行うこともあります。大規模修繕工事では、仮設工事において、足場を架けるのか、架けずに工事をするのかということだけではなく、それ以外の工事についても、それぞれの工法のメリットとデメリットを考慮して、工事の内容や規模に応じた最適な方法を選ぶことが重要です。
また、AIの回答は必ずしも正しくないということが分かります。AIはインターネットなどに現在ある情報をもとに回答を作成しますので、それだけ世間一般にある情報は必ずしも正しくないということが言えるかと思います。