人生リハーサル脚本

あらすじ
佐々木勝には毎日が2回ずつある。同じ出来事が2日続けて起こるため、1回目を失敗しても2回目に成功すれば良い。1回目に成功したなら、2回目も同じことを繰り返す。そんな風にして誰もが羨むエリート会社員にまで成り上がった。
そんな勝は人生で初めて部下のかおりに恋心を抱く。勝はかおりを食事に誘うも2回ともかおりの心を掴むことができなかった。勝は毎日が3回あれば良いのにと切望した。
そんなことを考えていた矢先、音信不通であったかつての親友正から呼び出される。そこで勝は正の余命が迫っていること、実は正も毎日が2回ずつあることを知る。
正との再会の後、勝は毎日が2回ずつある事は本当に幸せなのかを考えさせられる。そして勝は同じ毎日を2回過ごすのではなく、違いのある毎日を2回を過ごすことを決意する。
登場人物
・佐々木勝・ささきまさる(27)同じ日が2回続く。外資系企業勤務のエリート社員。
・田中かおり・たなかかおり(25)勝の部下。勝の意中の相手。
高木正・たかぎただし(27)勝の親友。余命半年。勝と同様に同じ日が2回続く。

翔一・しょういち(25)勝行きつけのバーの店員。


以下脚本

「人生リハーサル」
1 T一回目

2 お洒落なレストラン 外観 夜
   着飾った男女が食事をしている店内。
   スーツ姿の佐々木勝(27)が、座っているテーブルにスーツ姿の田中かおり(25)がやってくる。
かおり「お待たせしました。先輩」
勝「俺も今来たとこだから」
   かおり、席について周りを見回す。
かおり「スーツ着てるの、私だけですね」
勝「そんなことないよ。それより、何頼む?」
   メニューを差し出す勝。
かおり「値段、書いてないんですね」
勝「今日は俺のおごりだから、気にせず頼ん
で良いよ」
かおり「なんか申し訳ないです」
勝「俺が誘ったんだし、甘えれば良いよ」
   かおり少し黙る。
かおり「甘えるって・・・」
   ×   ×   ×
   テーブルにデザートが運ばれてくる。
勝「今夜、これから」
かおり「すみません。これから用事あるんで」
勝「そ、そっか」

3 T2回目

4 カジュアルなレストラン 外観 夜
   ガヤガヤとした店内。
   大学生の男女数名が騒ぎながら食事をしている。
   シャツ姿の勝が座っているテーブルにスーツ姿のかおりがやってくる。
かおり「お待たせしました。先輩」
勝「待ってないから大丈夫だよ」
   かおり、席について周りを見回す。
かおり「なんか、にぎやかですね」
   2人の背後でさわぐ大学生の男女。
勝「もっと高い店が良かった?」
かおり「いえ、そういう訳では・・・」
   さらに騒がしくなる背後の大学生達
勝「店、変えようか?」
かおり「えっ」
勝「ほら、行こう」
   立ち上がりながらかおりの手をつかむ勝。
かおり「いやっ・・・」
   静まり返る店内。そのままかおりは走って席を離れる。
   勝、一人取り残されて茫然とする。

5 おしゃれなバー 室内
   勝がカウンターでお酒を飲んでいる。正面でグラスを拭いているバーテンダーの翔一(25)に向かって話をしている。
勝「人生で初めての失恋だー」
   グラスの酒を一気に飲み干す勝。
翔一「相当応えてますね」
勝「だって、今まで失敗なんてして来なかっ
た俺だよ?」
翔一「女心は分からないものですね」
勝「1回目は高い店で失敗したからー2回目は安い店にしたのにー。あともう一回あったら成功してたかなー」
翔一「勝さん、初めての失恋じゃないじゃないですか」
勝「え?初めてだよ。俺には毎日が2回あんだから」
翔一「またまた、そんなこと言っちゃって。一日は1回ですよ。そろそろ酔ってるんじゃないですか?」 
勝「それが、俺には一日が2回あんだよー。本当に翔ちゃんは信じないよね」
翔一「勝さん、酔ってる時しか俺に話かけないじゃないですかー。もうすぐ、店閉めるんで」
勝「ったく、俺には2回あるんだよー。あー3回目があれば、上手くいったのかよー」
   その場を離れる翔一。
   勝の携帯が音を立てる。
   携帯のディスプレイには正の表示
勝「正・・・?」

6 T1回目

7 病院 外観 昼
   勝が建物を見上げ入り口から入ってゆく。

8 同 病室
   ベッドに横たわる高木正(27)が部屋に入ってきた勝を見てリクライニングを上げる。
正「久しぶりだな」
勝「半年ぶりに連絡よこしたと思ったら・・
・。お前、病気なのか?何で俺に言ってく
れなかった?」
   入口に立ち尽くす勝。
正「悪い・・・。とりあえず、座れよ」
   勝、ベッド近くの椅子に座る。
正「俺はがんだ。余命はあと半年だ。でも良
かったよ。あと1年で開放される」
勝「余命って・・・良かったって・・・ふざけんな!」
   泣き始める勝。
正「・・・」
   姿勢を正す正。
正「勝、信じられないかもしれないけど、病人が頭を狂わせたとでも思って聞いてくれ」
   泣く勝の肩を叩く正。
勝「・・・・」
正「俺には一日が2回ある」
   不意に頭を上げる勝。
正「ばかげてるだろ?」
勝「・・・俺にも2回ある・・・」
正「えっ・・・」
   お互いを見つめあう二人。
勝「冗談・・・じゃないよな?」
正「はははっ・・・。こんな近くにいたのに気付かなかったなんて」
勝「いつからだ?」 
   身を乗り出す勝。
正「幼い頃、俺は高熱が一週間続いた。一周間経って熱が引いたと思ったら、毎日が2回訪れるようになった。それを母親に言ったら熱のせいでおかしくなったって言われた。けど、その日から毎日が2回訪れる」
勝「俺は・・・確か事故に合ったんだ。車に引かれて、目を覚ました日から・・・」
   目を合わせる二人。
正「今日は、何回目だ?」
勝「一回目だよ。2回目だったら、いちいち驚かない」
正「そうか・・・俺も1回目だ」
   首をかしげる勝。
勝「2回目に会ったら、お前は1回目の俺のことを覚えているのか?」
正「1回目の時点で俺たちがこの話をしている時点で、そういうことになるな」
勝「だからさっき、一年って・・・」
正「そうだ。あと一年」
   椅子から勢い良く立ち上がる勝。
勝「俺は1回目も2回目も、毎日お前に会いに来る!お前とあと過ごせるのは、1年しか無いんだ!」
   下を向く正。
正「そうだな・・・」

9 T2回目

10 正の病室 夕方
   ベッドに横たわる正の病室に勝が入ってくる。
   正の様子を見てベッドに駆け寄る勝。
勝「正!大丈夫か?」
   ゆっくりと勝を見上げる正。
正「悪い、ちょっと調子悪くて。お前、1回
目と時間ずらしただろ?」
勝「ごめん・・・」
正「謝んなくて良いよ・・・病気には1回目
も2回目も関係ないからな・・・」
   はっと何かを思いついたような勝。
正「他のやつとは違って、1日が2回あるっ
て理解した時は、最高の気分だったよ・・・何もかも上手くやれた・・・。そのツケが今、回ってくるとは・・・」
   せき込む正の背中をさする勝。
勝「病気には抗えない・・・のか」
正「・・・お前が俺と同じって知ってたら、ここには呼ばなかった・・・俺はまるで死神だな」
   静かに椅子から立ち上がり病室を出る勝。

11 おしゃれなバー 室内
   勝はグラスを片手に翔一に話しかける。
勝「なあ、翔ちゃん。一日が2回あったらど
うする?」
翔一「またその話ですか?」
勝「今日は酔ってない」
   考え込む翔一。
翔一「・・・そうですねー。とりあえず、一
回目は自分の好きなことして過ごしますか
ねー。で、2回目に普通の生活を送るかな
ー」
勝「2回目に普通の生活?」
翔一「はい。だって、ようは1週間が14日になったらってことですよね?だったら同じ日を2回過ごすより、違う日を2回過ごしたほうが良いじゃないですかー」
   目を見開く勝。
勝「でも、1回目に失敗しておけば2回目成功するぞ?たとえば、車に引かれる人を助けることだって出来る」
   考え込む翔一。
翔一「俺、そーゆー預言者?とか世界救う系の主人公ポジとか嫌いなんで。第一、それで2回目も人助けられなかったら最悪じゃないですか」
   静止する勝。
翔一「おーい?大丈夫ですか?また飲みすぎました?」
   翔一、勝の目の前で手を振り視界を合わせようとする。
勝「そうか・・・違う日を2回送れば良いのか・・・」
翔一「もー。真剣な顔して、どしたんですか?本当にその話好きですよね?もしかして、パラレルワールド系の本とか執筆してますー?」
   いぶかしげな表情で勝を見つめる翔一。
勝「翔ちゃん・・・ありがとう!」
   勝、グラスを置いて店を出てゆく

12 T1回目
 
13 正の病室 外観昼
   勢いよくドアを開く勝。それに驚いて起き上がる正。
勝「正!俺、分かった」
   ベッドに勢いよく近づく勝。
正「ちょ・・・急にどしたんだよ」
勝「ごめん。俺、これから半年しか正の所に
は来れない」
正「・・・ふふっ。そっか。良かった」
勝「俺、同じ日を2回過ごすなんて馬鹿なことしてたな・・・3回なんてもっと馬鹿だ」
正「3回?」
勝「俺、失恋してさ・・・3回あったら良かったとか思ってた。でも、毎日は1回きりだから、楽しめるんだよな」
正「ふふっ・・・そうだな」
勝N「それから半年後、正はあっけなくあの世へ行ってしまった。俺は、今、14日を毎日一回ずつ生きている」


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