小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第13回:一人でお祝い
フリーコンサルタントとしての業務初日を終えた八木誠人。
なかなかいい感じに進んだので、ちょっとしたお祝いを一人でしようと駅前の餃子の王将に出かけた。
残念ながら、王将ではコロナの影響で酒類の提供が自粛されていた。
餃子と一緒にビールを飲みたかった誠人はどうしたものかと迷っていたが、思わぬ人から声を掛けられた。
「あ、あれ、佐竹さん、、、でしたよね?」
「はい、佐竹です」
王将の前で真剣に迷っているなんとも間抜けなタイミングで遭遇してしまった相手は、誠人のフリーコンサルタントとして記念すべき一社目のエンドクライアントであるA社の佐竹めぐみだった。
Web会議でもなかなかの美人に見えたが、実際に会うと可愛らしさも含んでいてとても好印象だった。
「佐竹さん、今お帰りですか?」
「はい」
「もしかして、家がこの近くなんですか?」
「法北町なんでここから歩いて10分くらいです」
「えー、僕は法南町なんですよ」
「ほんとに?奇遇ですね。今からお食事ですか?」
格好をつけてもしょうがないので、正直に答えることにした。
「いや、王将でビールと餃子でもと思ったんですが、ビールが飲めないみたいなんで迷ってたんです」
「ふふ、そうなんですか?私もすっかり家飲みが定着しちゃいました」
笑うとめぐみはもっと魅力的に映った。
「じゃあ、僕もお持ち帰りにして家で飲もうかな」
「お家でビールと餃子いいですね。私もスーパーよって帰ります」
行こうとするめぐみに誠人は声を掛けた。
「あの、佐竹さん。今日の会議どうでした?僕、お役に立ててる感じでしたか?」
めぐみは一瞬戸惑ったような顔を見せたが、すぐに微笑んで答えてくれた。
「あのあと社内の人間だけでラップアップをしたんですけど、高橋がすごく褒めてましたよ。『やっぱり外部の意見を聞いたほうが、凝り固まった議論が前に進む』って。私も八木さんたちに入ってもらってとっても良かったと思ってます」
誠人は嬉しかった。
まだ初日とは言え、どうやらいい印象を持ってもらったようだ。
それ以上にめぐみに褒められるということが嬉しかったのかもしれない。
「ありがとうございます!今度の会議もよろしくお願いしますね」
誠人は餃子二人前とチャーハンを王将で持ち帰りで買って、そのあとコンビニによって500mlのビールを2本買って帰宅した。
ビールを缶のまま飲んで、餃子を一つ口に入れる。
うまい。
王将でビールが飲めないと分かったときは悔しくてしょうがなかったが、思いのほかいいお祝いになった。
また、今日web会議で出会ったばかりで気になっていためぐみと実際に会って話せた上に家がすぐ近くということも分かった。
仕事の評判も悪くないようだった。
いい気分で餃子、チャーハン、ビールを平らげるのに20分しか掛からなかった。
一人飲みはこれが残念なところだ。
何気なくパソコンを開いてメールチェックをすると、先ほど送った議事録にめぐみが返信をくれていた。
『議事録の送付ありがとうございます。
とても分かりやすくて助かります。
今後とも、よろしくお願いします』
全返信なので事務的ではあったが誠人は思わず微笑んでしまった。
そして、少し酔いが回っているが今後のB社との取り組みについて考えてみた。
まずは経理部へのアンケート。
設問がシンプルなので、回答のパターンは2つしかないだろう。
つまり、『クラウド清算野郎』が経理部にきちんとした便益を提供できているかどうかだけだ。
誠人を含むB総研チームの予想は「経理部は『クラウド清算野郎』に満足していない」だったが、その原因までは予想できていない。
あるいは逆に「経理部も『クラウド清算野郎』に満足している」という結果が出た場合に、今後どう進めていけばいいだろうか?
いろんなパターンを考察してみるが、それ以上の考えは思い浮かばなかった。
でも、これからこういう課題をめぐみらと解決してくことはとても楽しみに思えた。
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