小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第1回:フリーコンサルタント?
「では、あとはいつも通りに3社に見積もりを取って進めてください。今日はお疲れさまでした」
誠人はオンライン会議から退出した。
時間は午後7時40分。在宅でこの時間なので、出勤していたらマンションに着くのは9時を過ぎていただろう。
コロナで出勤は週1日まで抑えられているが、仕事はなんとかこなしている。
むしろ最近ではオンライン/リモートでの仕事にもすっかり慣れて、通勤がない仕事の仕方が少し快適になってきた。
しかし・・・。
誠人は思う。
こんな状態があと何年続くのか?
これで俺は成長できているのか?
そもそもどうなりたくてこの仕事をやっているのか?
来月には33歳になる。新卒で入社して、かれこれ丸10年だ。
誠人の勤める会社は日本最大手の旅行代理店。内定が決まったときには皆にうらやましがられたものだ。
ところが、このコロナのあおりで業績はガタ落ち。GO TOキャンペーンで一度は持ち直したが、それも一瞬のことだった。社内では早期退職の公募とともに個別の退職勧奨も進み、多くの同僚たちが会社を去っていった。
彼らは今なにをやっているのだろう。
連絡してみてもいいのだが、なにか気遣いや忖度の気持ちが働いて誠人から動くことはできなかった。
いつ自分もリストラの対象になるか分からない。
年齢的に誠人はまだまだ対象外だとは思うが、この状態が続けばあながち非現実的な話ではなくなってくる。
そもそも、会社だっていつまで存続するか分からない。倒産はしなくても、じりじりと給料が下がっていくことはほぼ間違いないだろう。
「終身雇用制の終焉」というのは、最近よく言われるので何となく意識していたが、これほどまでに「自分事」として考えるようになったのはここ3か月ばかりのことだ。
そう言えば、今田さんはどうしてるんだろう?
なにやら、転職でほかの会社に入りなおすのではなくフリーランスとして自分でやっていくとか言って、9か月前に早期退職制度を利用して辞めていった。
今田は、誠人より14年先輩の確か47歳。47歳でフリーとして生活できるだけの収入を得られるのだろうか?
家族も確か奥さんと子供が2人いたはず。高校生と中学生だったと思うので何かとお金も掛かるだろう。
そんなことを考えているとき、誠人の携帯電話が震えた。
なんと、今田からのメッセージだった。
「誠人、元気にしてるか?ところでお前、フリーコンサルタントに興味ない?収入はうまくやれば倍くらいには余裕でなれるぜ」
誠人はすぐに今田に電話していた。
今田のマンションを訪れるのは初めてだった。
やや郊外ではあるが、大きな駅の目の前にそびえるマンションを見て、少しうらやましく思いながらインターホンを押して部屋へ入った。
本当なら、飲みにでも行きたいのだがこのコロナ禍の中飲み屋もやっておらず、じっくり話したいということもあって、今田のマンションで夕食を共にすることにした。
「そんな生き方があるのか。。。」
誠人は大きくため息をついた。
今田の話は要約するとこうだ。
・これからの日本では終身雇用制は終わり、企業が必要な時に必要なスキルを持った人材を雇用するジョブ型雇用の時代になる
・現在、フリーコンサルタントの市場が日本でも広まっており、その数は副業でコンサルタントを実施している人も含めると50万人とも100万人とも言われている。
・今田はフリーランスに転身して9か月ですでに月収はサラリーマン時代の2倍以上になった。
・フリーランスはその名の通り、全てが自由。会社での人間関係のしがらみや意味のない会議などから解放され、本当にやりたい仕事だけができる。
なんとも魅力的な話だった。
なにより、生き生きとして語る今田の口調は会社員時代より何倍も輝いているように聞こえた。
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