小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第8回:会社の将来
週明けの月曜日。
誠人は今日はリモートではなく出社することにした。
誠人の会社ではすべての会議をリモート対応にしているので、どうしても出社しなければいけないということはないのだが、たまにはオフィスの空気も吸っておかないとという気持ちがあった。
リモートワークは気楽な反面、どうしても孤独感にさいなまれてしまう。
通勤は面倒だが、やはりオフィスは自分の居場所という感じがする。
オフィスに着くと5人程度の社員がすでにデスクについていた。
営業部は総勢23名なので、4分の1くらいが出社しているということになる。
久々に会うメンバーもいたので、雑談にも花が咲く。
ただ話の内容はどうしても暗くなってしまう。
「コロナは少なくとも来年いっぱいまでは続くんじゃないか」
「旅行業はいよいよ壊滅するのでは」
「また、給料が下がるらしいぜ」
「そんなことより、退職勧奨が結構派手にはじまってるって知ってるか?うちの部で先週辞めた笠木さんだって、『親の介護』とか言ってたが実際はかなりハードな退職勧奨があったんだってさ」
「うちの会社も早期退職の募集が始まるんじゃないか?」
そんなことを話しながらも、誠人は会社が潰れるとか自分が会社を辞めさせられるということは今一つ実感が沸かなかった。
業界最大手の誠人の会社が万が一倒産ということになったら、日本経済全体への影響だって少なくないだろう。
退職した人たちだって、50代が中心でまだ30代前半の自分は早期退職リストには入ってこないだろう。
とは言え、会社の財務状況が危機的なことは疑いようがなかった。
コロナがこの先何年も長引くようであれば、以前のように「憧れの会社」ではなくなるのではないか?
そう思うと今フリーランスの仕事を探し始めているのはとてもいいことかもしれない。
昼食もグループで食べに行くのは禁じられているので、コンビニで冷やし中華とおにぎりを買ってきてデスクで食べることにした。
味気ないうえに、飲み物も買うと800円を超える出費になんとも言えない気持ちになる。
冷やし中華をすすりながらiPhoneを眺めるとみらいワークスからメールが来ていた。
また新規の案件紹介だった。
・大手事業会社の営業支援
・サービス販売の課題解決にファームのメンバーと一緒に取り組んで頂きたい
・報酬 80~95万円/月 ※100%稼働時
・稼働率 40%
今度は”マーケティング”ではなく、”営業”となっている。
せっかく週末にマーケティングの勉強をしたのになと思いながらも、誠人は嬉しかった。
早速返事を打つ。
『案件のご紹介、ありがとうございます。ぜひ詳細をお伺いさせてください』
すぐに返信が来た。
『今日にでもお話しできますか?』
『今日は出社しているんですが、16時ごろなら時間取れます』
出社している社員が少ないので会議室は簡単に予約できるようになっていた。
誠人が会議室に入った16時ちょうどに携帯が鳴った。
『すいません、当日にお時間いただいちゃって』
前回とは違う初対面の営業担当だが、この会社の人たちは本当に愛想がいい。
『いえいえ、全然大丈夫です』
『早速、案件の詳細なんですが』
今回の詳細はこうだ。
・クラウド経理システムを販売している企業がエンドクライアント
・半年ほど前に新サービスを始めたが、売れ行きが芳しくないのでコンサルティング会社に依頼
・コンサルティング会社でも人員不足のため、その支援をお願いしたい
・具体的な業務内容は営業計画の構築。ディスカッションへの参加と会議等のファシリテーション並びにドキュメンテーション
・当面3か月で計画の構築まで行うが、その後も参加可能なら営業の実働にも参加して欲しい
前回の内容よりはかなり自分でもイメージできた。
『ぜひ、応募してください』
『では、先方さんにまずはレジュメを提出させていただきますので、しばらくお待ちくださいね』
20分ほどで会話は終了。
あとは待つだけとなった。
その日の18時過ぎ、業務を終えて帰ろうとする前にiPhoneを確認すると先ほどのみらいワークスの担当者からメールが来ていた。
『早速先方さんと面談が入りましたので、明日以降で八木さんの都合のいい時間を複数あげていただけますか?』
レジュメだけで契約が決まるわけではないようだ。
だが、面談まで行くというのは可能性が高いのでは?
誠人はオフィスの皆に感づかれないように候補日を返信した。
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