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小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第11回:キックオフミーティング

キックオフミーティングは高橋が仕切る形で進んでいった。

誠人の自己紹介に続いて、他の面々が簡単に自己紹介してくれた。

7人のうち2人は誠人の直接のクライアントであるB総研の人間だが、この二人は以前からA社で業務をしているらしく、メンバーとも顔なじみのようだった。

A社の5人は40代後半であろう高橋を筆頭に20~40代と思しき顔ぶれだった。

一番若そうな佐竹という女性はおそらく20代半ば。

なかなかの美人で誠人は楽しみができて嬉しくなった。


ともあれ、キックオフミーティングはこのプロジェクトの概要と今までの経緯の整理から始まった。

・新製品『クラウド清算野郎』の売上が芳しくない

・『クラウド清算野郎』は煩雑だった経費精算の手続きを、清算する従業員が領収書を写真で撮って送るだけで完結するというもの

・発売開始半年で目標数の30%にとどまっている

とのことだった。

「そもそものニーズがないのかなぁ」

高橋が早くもぼやき気味で言う。

「いえ、面倒な経費精算の手間が大幅に削減されるのでそんなことはないと思いますよ」

課長の櫻井が返答する。

「そうだよな。『働き改革が進む中で従業員の負担を大幅に削減できる』という打ち出しは間違ってなかったと思うんだよな」

高橋が首を傾げる。

誠人はすでに答えの端っこが見えてきたような気がした。

とは言え、いきなり切り込むのは躊躇されたので、まずは軽く質問してみる。

「すでに導入された企業様からの評判はどうなんですか?」

櫻井が返答する。

「導入済みの企業の従業員様に経理部を通してアンケートを取ったところ、やっぱり評判はいいんですよね。中には、残業時間が月に10時間以上も減ったという人なんかもいて。まぁ、残業が減って残業代が減るのは痛いとも書いてあるんですが」

「まさか残業代が減るのが売り上げ不振の原因じゃないよな」

高橋が苦笑する。

誠人は続けて核心部分になるかもしれないことを聞いてみた。

「経理の方の評判はどうなんでしょう?」

「あ、それはアンケート項目に入ってないですね。でも経理部側としても今まで大量の紙で処理していたものがすべてクラウド上での処理に代わるわけですから大幅な業務効率の改善になっているはずですよ」

櫻井が答えた。

誠人の仮説はこうだった。

・実際の売る相手は経理部の人たち

・経理部の利便性をもっと全面に打ち出すのが正しい売り方のはず

・ところが現状は清算する側の従業員の利便性を打ち出している

・このギャップが売り上げ不振の一因では

・そもそも導入済みの企業で経理部の利便性が本当に向上しているのか?

導入済み企業の経理の声を聞いてみたいがそれを直接提言するのは少し憚られた。

「『クラウド清算野郎』って御社では当然導入されてるんでよね?」

高橋が笑顔で答える。

「もちろん。私も清算が楽になって助かってるんだよ」

「御社の経理の方が一番経理側の気持ちを分かってるかもしれないですね。一度、御社の経理部にヒアリングをしてみることはできますか?」

「ん、ああ、それだったらすぐにでもできるよ。取引先じゃなくてうちでいいのかい?」

「はい、御社の経理の方が一番『クラウド清算野郎』を使い込んでいると思いますので」

「分かった。じゃあ、今週中のどこかで経理で実際に『クラウド清算野郎』を操作しているメンバーに集まってもらえるよう経理部長にお願いしておくよ」

「ありがとうございます」



キックオフミーティングは1時間できっちり終了した。

A社での今日の会議はそれだけだったが、B総研のメンバーとの会議が午後一から開かれた。

B総研のメンバーは、マネージャーの三瀬とアソシエイトの佃だ。

二人ともコンサルファームの人間らしく物腰は柔らかだが、意志の強そうな眼をしている。

三瀬が話始める。

「八木さん、なんかもう答えが見えているようですね」

「いえ、答えではないんですがそもそもの部分が少しずれている気がしたんで」

「私もすぐにそこに気付きました。まずは、この部分の改革案をこちらサイドで進め始めましょう」

「はい」

佃が続ける。

「A社は今まで経理部の方向けに商品を作ってきました。つまりA社の製品は導入先の企業でも経理の人しか使わなかった。それを拡充しようと従業員の利便性向上に手を拡げたんですよね。ところが、実際は、、、、」

どうやら、3人が考えていることは全く同じようだった。

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