マッハ狂死郎
クラッシュ・ワン。VRレーシングゲーム。生き残った奴が、勝者。
「終わりだ狂死郎、この直線で止めを刺す!」
快速中学校最強のeレーサー、翔が前方の黒い隼型マシンに叫んだ。路上には二人きり。時速千キロで爆走する彼らの視界を、道路灯たちがネオンの尾を引いて駆け抜けていく。コースは砂漠・夕方。地平に広がる流砂の海と、その僅か上空を浮遊する近未来的サーキット。
「揺り起こせ、僕のダイカストコロニー!」
翔の呼びかけに応え、蜂の巣めいた姿の愛機が吼える。十秒ごとに体内にて生成される自爆特攻ドローン。上限の八機までストックしたそれらを、 一斉に射出する。
「殺れ、デスペラードウイング」
漆黒の隼がギラリと目を光らせ、走りながら猛烈な横回転を始めた。両翼から噴出する暴風が周囲の砂を巻き上げ嵐を起こす。機影は砂塵に紛れ、飛来するドローンたちは標的を見失い右往左往し始めた。
「消えた? 何処へ」
将はレーダーを見る。機体反応は真後ろ。
「不意打ちのつもりか? だが接近戦なら」
翔の言葉が途切れた。彼の目は今、自機の前方から迫る大群に釘付けになっていた。標的を再補足したドローンたちが移動を再開したのだ。最短距離で特攻しようとする彼らは、狂死郎ではなく、その手前に位置する翔のマシンに次々とぶつかり爆散していく。
「ウワァァーッ!?」
絶叫、そして閃光。連続爆破を受けたダイカストCは派手に大破し、翔は勢いよくアスファルトの地面に投げ出された。彼は激痛に悶える。夕暮れに昏く染まる雲の下、炎上するマシンを背に狂死郎が歩いてくる。
「……負けたよ末破狂死郎。でも君は……何者なんだ?」
「復讐者だ」
「復讐?」
「腐り切ったC1協会を、この手でぶっ潰すのさ」
「……何だって?」
翔は己の耳を疑った。C1協会の破壊。それは即ち、日本を裏で牛耳る神威グループの破壊だ。それを、本気で?
「……つまり目的は同じって訳だな、優等生?」
【続く】