∞の王子さま! 八王子学園戦乱編

 ドゥン! その音は八王子学園校舎の壁から放たれ、空気を伝わり、半径百メートル以内の生徒達の心をときめかせた。
「きゅんっ!? い、今のは?」
「壁ドンよ。それもこの音……暁の第五王子、旭川遼来様の壁ドゥンだわ!」
 生徒達は皆浮足立ち、曇天の中、黄色いイチョウ並木に背を向け佇む男を見つめる。
 その男、旭川遼来はイケメンだった。金のジェットモヒカンに逆十字の首飾り。ブレザーは逞しい胸板を見せつけるように開き、ブーツとスラックスの間から垣間見える素足は肉感的だ。
「おい見ろ。リョウ様が壁ドンを見せつけているあのお方。神風の第八王子、渡風北斗様だぜ!」
 神風の王子、渡風北斗。風紀的着こなしの黒髪ロング美男子。薬指には白金のリングが輝く。
「本当だ。第六王子織田信長公への敗北から立ち直ったのか?」
 周囲の喧騒とは裏腹に、二人に流れる空気は剣呑である。睨み合う二人を、壁ドン内の少女は不安げに見つめる。
「千代を離せ」
「離せ? なら力づくで来いや」
「北斗くん、私大丈夫だから。気にしないで」
 その言葉に遼来はニヤつく。そして千代の右手を自らの第二ボタンへと持っていき――
「んっ……」
 千代は顔を赤らめて呻いた。宛がわれた指は昂り、王子のボタンを艶めかしく弄んでいる。
「やめろ」
 北斗が遼来に詰め寄る。
「心を捻じ曲げるのは止せ」
「腑抜けが。王子なら壁ドンを重ねろ。突風に髪を靡かせて奪い取れよ。今のテメエを見てると苛つくぜ」
 遼来の顔が怒りに歪む。北斗は押し黙った。
「下のモンは王子目指して日々精進してんだ。末席に名を連ねながら情けねえ姿を見せ続けるってんなら、俺が引導を渡してやるよ」
 瞬間、イケメン力の高まりに雲が裂けた。眩い陽光が彼らを照らし、シベリアの寒風がどこからともなく吹き荒れる。臨戦態勢である。二人が合意すれば直ちにイケメン空間が形成され、PVバトルが始まるだろう。
「受けろや、ランク戦」

【続く】

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エンガワ
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