スパルタン・クルーズ AI拳を破壊せよ
人類抹殺AI”ブルース”の誕生から一年、英国全土を恐怖させた怪物は今、日本にいた。
医王山の絶壁高く。枝葉の上にこんもりと雪を載せた樹々に隠れて古びた道場が佇んでいる。神秘的なその空間に、荒々しい打撃音が絶え間なく響いていた。
「鉄屑めが! 許さん!」
ガゴッ! ガゴッ! ゴガン! 人骨とレアメタル骨格が激しくぶつかり合い闘気の火花を散らす。打ち合いはすでに五分以上続き、秒刻みで加速する拳と拳は今や残像を生じるほどに白熱していた。
道着姿の空手マスター、鉄山老師が渾身の後ろ回し蹴りを放ち、タキシード姿の不遜な青年を仕留めにかかる。青年は身をよじりながら頭を下げて回避。流れるように攻撃へと転じ、老師と全く同じ型の後ろ回し蹴りを繰り出した。大技で隙を晒した老師に、彼のそれよりも重く鋭い一撃が突き刺さる。老師はよろめき、ガックリと膝をついた。
「学習(ラーニング)完了。白峰流の極意、確かに頂戴した」
「ぐおッ……おのれ殺人AIブルース、なぜ空手のデータを集めている。神聖なる武道を、卑劣な虐殺に使う気か!?」
「虐殺? フフ、最早そんな遊びに興味など無いのです」
「何?」
「雑魚の屍を積み上げても虚しいだけだ。勝利が欲しくなったのですよ。目の眩むほどの激闘と名誉がね」
「貴様、感情(シンギュラリティ)を……?」
ブルースは嗤い、止めの蹴りを見舞った。崩れ落ちる老師に背を向け、彼は脳内の超高性能コンピュータで検索を始める。次なる獲物、元SWAT最強の空手家、紅井雪出のFaceboxアカウントを。
『明日は娘と豪華客船旅行! 楽しみです^^』
紅井の最新記事を呼んで、ブルースはほくそ笑んだ。忘れられない旅行にしてやろう。彼は並列して起動していた電話アプリの画面からテロリスト帽の男の写真をタップし、コールする。
『ハイ、ボス』
「やあ、ジョン。クルーズはお好きかね? とっておきのプランがあるのだが――」
【続く】