ワイキキ危機一髪! 俺が王家の盾になる

 その夜、いつものように残業を終えた俺は泥の纏わりつくような怠さを感じながら無心で足を動かしていた。魂の相棒、ボッシュ・エメラルドリバーコーヒーが冷蔵庫で俺の帰りを待っている。それだけが心の支えだった。
「ギャアア!」
 女の絶叫。右の団地の方からだ。俺は直ぐに助けに向かう。大通りから外れた閑静な住宅地を街灯の灯りを頼りに走ると、駐輪場の前にそいつらの姿があった。地面にへたり込むOL。その前に立ちふさがる男は三本角の帽子にとんがりブーツ、全身緑コーデで6本のナイフを陽気にジャグリングしている。成程、そりゃ悲鳴をあげるよな。
「オッス俺、タピオカパン! お前を禁断の僻地ネザーランドにぶち込んでやろうか!?」
「誰か助けて!」
 俺は右手のビジネスバッグをタピオカパンの頭めがけて投げつける。バッグはブーメランの如く回転しながら一直線に飛び、奴の後頭部に鈍い音を響かせた。
「ごべふ!?」
 タピオカパンは声を上げて倒れ、宙を舞うナイフが滝のように地面に注がれ小気味良い音を奏でた。緑の不審者はぐったりと伏せり動かない。どうやら夢の国に行ったようだ。
「大丈夫でしたか?」
 俺はOLに尋ねた。が、彼女は既に視界の奥の奥、せっせと走って宵闇に消えてしまった。感謝ぐらいしてくれよ。アドレナリンが急速に鎮まり、仕事疲れがどっと押し寄せてきた。やはり俺には缶コーヒーしかいないのか。本日6杯目のカフェインをキメるべく踵を返し来た道を戻ろうとした、その時。
「見知らぬ町人を助けるとはお前、中々見所がある奴だワイ!」
 甲高い老爺の声がどこからともなく響いた。
「な、何だ?」
「ワイキキキ……ワイはワイキキング! 感動したからお前にこの力をくれてやるワイ!」
 カッ! 青い閃光に目が眩む。光源は、俺の右手!? 俺は直感的に右手を天に翳し、叫んだ。
「波ァ!」
 ゴウ! 俺の右手から光が爆発し、極太のビームが夜空の雲を突き破った!

【続く】

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エンガワ
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