夢でできた友達【こんにちはエッセイ #2】
さっき夢を見た。
生まれて初めて知らない人が夢に出てきた。
その内容を記す。
対面座席の電車で話しかけられた。風貌は生配信主の恭ちゃんをふた周りぐらい小さくしたような坊主の青年。顔に覇気はなく、声もどこか弱弱しかった。マスクはしていなかった。服は覚えていない。おそらく一般的なものだったのであろう。
「伊藤さんですか?」
もちろん僕は伊藤では無い。
違いますと返事をすると、どこか安心したような顔をして会話は終わった。
場面は急に変わった。
夢あるあるだ。
雨が降ってきたのでコンビニにかけこんだ。
結構長い行列ができていた。
行列に並ばない質であるが、夢は人格も変えるのだろうか。
缶ビールとコンビニ傘を手に取り列に並んだ(僕が進んで缶ビールを買ったことは1度もない。夢の僕は僕ではなかった)。
するとさっきの青年に後ろから話しかけられた。
「曲作ってくださいよ」
電車の中とはまるで違う明るい表情。まるでプロアーティストに話しかけるように。
自分はもちろんミュージシャンでもなんでもない。
歌も歌えないし、楽器もできない。
その旨を伝えると、
「そっかー。まあいいですけどね。」
何が目的かわからないが、好かれてる気配は感じたので彼の持ってる氷結を奢ることにした。
僕は何故か荷物がいっぱいだったので僕の手荷物を彼に持たせた。
名前を聞いた。
セイと言うらしい。
なぜ自分に曲を作るようにお願いしたかを聞いた。
彼は答えなかった。
レジ精算の番が来た。
店員のお姉さんがすごく可愛かった。
普段の自分じゃ絶対にないのだが、コンビニの店員さんと世間話をした。
セイはどこか不機嫌だった。
お姉さんはマスクをしていなかった。
なぜ僕はこんなにもマスクの在り方を気にしてるのだろう。
精算が終わってコンビニを出たら自分の住むアパートの前だった。
(僕のアパートの前にコンビニはない)。
家が目の前なら傘いらなかったな。
後先考えずにもったいない買い物をするところは現実の自分と同じようだ。
セイは椅子に座っていたので氷結を渡して乾杯した。
僕はなぜかセイへ母性のようなものを抱いていた。
理由はわからないが、何かをしてあげたいと思った。
彼の素性が知りたくて車に乗せた。
目の前のアパートから離れるように全く知らない道に車を走らせた。
今書いてて思ったけど、飲酒運転だ。夢に法はなかった。
なぜ自分に声をかけたのか聞いた。
最初は電車で乗ってきた時に伊藤という男かと思ったらしい。
でも違った。
伊藤は何者か。
聞くとこによると放火魔らしい。
初耳だ。
「数ヶ月前に起きた火災知らないですか?」
さすがに殺人系のショッキングな内容のニュース以外を詰め込めるほど僕の脳みその容量は大きくない。
普段どこに住んでるのか。
家はないらしい。
なぜか。
火災でなくなったと。
なるほど。
「これからまた遊びに誘っていいですか? 自分、身寄りがいなくて」
もちろん承諾した。
彼はすごく喜んでいた。
こんな出会いで友達ができることは今までなかったので、なんだか嬉しかった。
僕が右にハンドルを切った瞬間、僕は夢から醒めた。
友達が1人消えた。