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【ありえない?!】北の大地で感じた厳しさと温かさと【北海道プロアマClassicゲスト紀行】 文:沖中祐也
衝撃のサイレント役満
「8000/16000」
1回戦の東場のことだった。
親リーチに躊躇せず押していた上家が手牌を倒す。
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四暗刻、役満である。
Classicルールにおける役満は、サッカーで言うといきなり5点入るくらいには大きい。
しかし、私が驚いたのはこの四暗刻自体ではなく、周りの反応に対してだった。
「はい」
粛々と点棒を払う同卓者。
近くの打ち手たちも一切見向きをしない。
いやいや、役満よ?
同卓者は伊勢海老のようにのけぞり、近くの人は逃げていった猫のように振り返るでしょう。普通。
今どきのフリー雀荘なら写真まで撮る人がいる。
ところが何事もなかったように牌を落とし、局が進んでいく。
みんな打ち慣れていて、摸打が早い。そして強い。
たまたま強者が揃った卓だったのかなとも思ったが、2回戦以降も同様にハイレベルだった。
正直面食らった。
いろいろな土地でプロアマに参加しているが、ここまで競技麻雀熱が高い会場は初めてかもしれない。
北海道の人たちは、なぜこんなに強いのか。
仮説を立ててみる。
仮説①・常に死と隣り合わせ
時計の針を少しだけ巻き戻そう。
私と伊藤高志は、会場である「麻雀スクール・アエル」を見つけ出せず、極寒のすすきので迷っていた。
北海道の寒さは「寒い」ではなく「痛い」だ。
Googleマップで調べていると、むき出しの手に痛さが襲いかかってくる。
なお、北海道で歩きながらスマホを見ている人はいない。
マナーとかではない。見ながら歩くと滑って転ぶから危険なのだ。
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寒気に震え、手がかじかむ。
このままの状態では危険だと、体がアラートを発してくる。
あれ、100m毎にコンビニがあるな。
本土の500mが北海道の100mってとこか。
歩行にも緊張感が走り、迷った瞬間に死が迫ってくる。
そう、北海道の外出は常に命がけなのだ。
強引な仮説ではあるが、この緊張感が麻雀にも表れているのではないだろうか。
仮説②・インドア派にならざるを得ない
なんとかアエルを見つけだし死を回避したものの、時間はギリギリ。
急いで6階までエレベーターで上がり、降りたところが会場だった。
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白を貴重とした清潔感溢れる広い店内に、ぎっしりと参加者が座っている。
あれ、今日最終節だよね?
通常、最終節はポイント的に厳しくなったり、逆に余裕があって保存したりで、どうしても参加者が減るものだ。
ところが北海道のプロアマは、最初に募集した数時間後に全節の参加が埋まり、最終節になってもキャンセルする人がほとんどいないそうな。
というわけで13卓52名が集結したというわけ。
最初の挨拶で皆様の凝り固まった心をほぐそうと、小粋なギャグを入れたのだが滑った。
記事の最後に付録として挨拶の台本を添付しておくが、北海道はよく滑るから注意である。
そうして1回戦、冒頭の四暗刻をツモられデカいラス目となるも、南場に1つ良い選択ができた。
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ホンイツのチャンス手ではあるが、このとき4pが1枚、3pが2枚場に飛んでいてかなり苦しかった。
そこへ打たれた5pをチー。
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この鳴きにより、生牌の2pポンでもテンパイする形に。
単純にテンパイ受け入れが増えるだけではなく、5pチーして4pを切ったことにより2pが盲点になる。
最終的に自力で2pをツモリ、この形でアガることができた。
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良かったのはこのアガリくらいで、以降は防戦一方。
それにしてもみんな早くて強い。
全員1節前に全節予約してきたような競技熱の高い猛者ばかりだ。面構えからして違う。
ふざけた挨拶なんかするんじゃなかったぜ。
想像するに、外がこれだけ寒いと必然的に室内での遊びしかできず、自然とゲーム脳が成熟してくるのかもしれない。
仮説③・アエルの温かさ
最終戦でトップをとるも時すでに遅く
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ゲストとしては恥ずかしい結果になった。
伊藤高志に勝ったことだけが救いだが、念の為坂本さんには内緒にしておいてもらいたい。
さて、これだけ参加者がみんな強いと書くと初~中級者の方は「私なんかが参加していいのかな」と、気後れしてしまうかもしれない。
たしかにみんな強くて厳しい。
その一方で、厳しさの中に温かさを感じる。
以前タチアイニーンにてこういう質問があった。
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「点数計算できなくても参加して大丈夫か?」
という質問に対し、北海道本部長の鷲見さんはこう答えた。
「点数計算ができなくても参加することは可能なのですが、点数計算を覚えたほうが麻雀をより楽しめるので僕としては覚えることをオススメします。わからないことがあれば教えますので一緒に覚えていきましょう」
このイケメンな答えに北海道の全てが集約されているように感じる。
参加者はみんな強いといっても決して相手を蔑ろにしたギスギスした雰囲気ではなく、みんなで切磋琢磨していこうという温かい空気を感じるのだ。
一例として、点数計算が怪しいまま参加したささりょんさんという女性の方を挙げる。
(*掲載許可をいただきました)
自身のやる気も大きいとは思うのだが、ささりょんさんが周りの参加者やプロに支えられ、この8節でとても強くなった実感を得ていることが、このnoteに記されている。
ただただ初心者歓迎を掲げるだけではなく、ちゃんと育てて一緒に成長していくような土壌が、このアエルに備わっているように感じた。
さらに驚いたことがある。
4回戦が終了すると、対面の方が卓掃をしだしたのだ。
「あれ、プロの方でしたか?」
「いえ、違います」
「じゃあアエルのメンバーさん?」
「いや、通りがかりの常連です」
誰に命ぜられることもなく、参加者やプロの方たちが卓掃をしているのだ。
正直、会として参加者にやらせるのはよろしくないのでは、と眉をひそめる本部の方がいるかもしれない。
しかし、もうこれがアエルの自然なんだと思う。
そういえばサイドテーブルにおしぼりやゴミが残っているのをみたことがない。
自分たちの大切な場をキレイに。
そんな気持ちが伝わってくる。
10年前、伊藤聖一さんと奏子さんはこの地に競技麻雀を根付かせようと、アエルを作った。
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「あなたたちは普及のプロになりなさい」
土田浩翔さんにそう諭され、2人はただひたすらに良い環境で競技麻雀を打てる場所を模索した。
私を含め多くの選手は自分が打ちたい活躍したい、ばかりで普及を真剣に考えている人はほとんどいないと言っていい。
しかし、伊藤夫婦や本部長の鷲見さんを始めとする、北海道本部の選手たちはみな他人に温かく、本当に麻雀を広めたいという気持ちが伝わってくる。
今でこそ当たり前になってはいるが、10年前といえばいわゆるノーレートのフリーは冒険であり、最初の数年はお客さんも少なく赤字続きだったという。
やっと軌道に乗ってきたところでコロナ禍となり、年配のお客さんがほとんどいなくなってしまい、存続の危機に。
それでも、競技麻雀の魅力を信じ10年間ひたすら頑張ってきたのだろう。
語り尽くせないほどの危機やトラブルがありそれを乗り越えてきたわけだが、私はその姿こそこの目で見たわけではない。
しかし、今日の数時間の体験でアエルの10年間の活動や、やりたかったことを垣間見ることができた。こんなに温かい会場は初めてである。
厳しい寒さがあるからこそ、温かさが身にしみる。
アエルも、北海道も、そしてそこに根付く麻雀打ちたちも。
その一端を感じることができて、良かった。
ただ麻雀打ちとして負けたままでは悔しい。
もっと活躍して来年も呼ばれるように頑張る次第である。
素敵な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。
付録・冒頭の挨拶台本
みなさんおはようございます。名古屋から来ました。
最高位戦東海支部の沖中祐也です。
半年前くらいに今日のゲストのオファーがきたんですけど、その日から今日をとてもとっても楽しみにしていました。
というのも、前回北海道に訪れたのが25年前とかで、たしか麻将連合さんのミューカップだったと記憶しています。
当時20そこそこの若造で、まだプロ入りする前だったんですけど、ミューカップはいいところなく負け、1人も知り合いがいなかったので誰とも会話せずホテルに戻り、やけになって街に繰り出したらぼったくられました。
ぼったくられの詳細は最高位戦の威信にかけて言えないのですが(ここで一同大爆笑)とにかくほろ苦い思い出だけが残ったのです。
時は25年ほど流れて、現在。
東海支部から北海道の活動を眺めていますが、みなさまのアツさと温かさを感じています。
今日って最終節ですよね?
私と伊藤高志のような、ちょっと男性ホルモン強めの2人の影響で、こんなに集まったとは思えないので、みなさん本当に競技麻雀が好きなんだなと感じております。
というわけで、本日は最終節ということで条件のある方や、条件はなくとも1節単位で頑張るという方、いろんな方がいるとは思いますが、私も全力で麻雀を打ち、そして勝って、みなさまとの会話を楽しみ、夜は街に繰り出さないよう大人しくして、最高の思い出にしたいと考えおります。
本日はみなさん、よろしくお願いします。
著:沖中 祐也(最高位戦日本プロ麻雀協会)