リレーストーリー「どすこいスパイ大作戦#14」
第14話「黒幕の正体」
朝6時―――
今日も日の出とともに1日が始まった。
しかし、蒙古龍はまんじりともしない朝を迎えていた。
爆破作戦の決行を宣言されてグッスリと眠れる肝っ玉は、蒙古龍には持ち合わせていなかった。
いつもと同じ朝稽古の風景。
だが、ひとつだけ違うことがある。
それは、土佐嵐の姿が見えないことだ。
「女将さん、嵐関は?まさかお寝坊っすか?」
蒙古龍はできるだけとぼけた口調で尋ねた。
「ああ、昨日から実家に帰ったよ。なんでもご不幸があったとかでさ。あんたも親孝行だけはしとくんだよ」
気っぷのいい女将さんだが、会話の端々に優しさが垣間見える。
蒙古龍にはそんな言葉も上の空だ。
なぜなら土佐嵐とは昨日、スカイツリーでバッタリ遭ったのだから。
そのとき、実家で不幸があったなんて素振りはまったく見せていなかったのだから。
蒙古龍は、朝稽古を終えると、ある場所へと向かった。
昨日も訪れた東京スカイツリーだ。
爆破作戦が遂行されているのに、蒙古龍が落ち着き払っているのには理由がある。
昨晩、LINEが届いた。
送り主はポッポ。
そう、MGBのトップコードネームからだ。
“我々は振り回されたようだ。まずはスカイツリーの爆破作戦を制止せよ。爆破予定時刻は16時だ。そして爆弾が仕掛けられた場所は……”
現在、午前11時。
部屋では昼ちゃんこの時間だ。
つまり、爆破時間までは、まだ猶予があるということ。
今日の昼ちゃんこは、蒙古龍が大好きな月に一度のカレーちゃんこだった。当然のことながら、蒙古龍は昼飯抜きでここに来ている。
「あーあ、カレーちゃんこ食いたかったなあ」
「ほう、カレーちゃんこか。そりゃあ、残念だったなあ」
耳馴染みのある声に振り向くと、そこには黒豹丸の姿があった。
「時間通りですね」
蒙古龍が言い終わらないうちに、黒豹丸は駆け出した。
「ついてこい」
まるで相撲取りとは思えないほどの俊敏さだ。
昨晩のMGBからの連絡後、蒙古龍は黒豹丸にLINEを入れた。
無論、今日の作戦についてだ。
黒豹丸は黒豹丸で新情報を入手していた。
入手先は教えてくれなかったが「確度の高い」ものだという。
お互いの情報を照らし合わせて出た答えは、ひとつ。
“天望デッキに爆弾が仕掛けられている”
エレベーターを乗り継ぎ、慣れた足取りで天望デッキに着く二人。
周りにはスカイツリーからの眺めを楽しむカップル達の姿が。
幸せそうな人々を尻目に黒豹丸が蒙古龍に囁いた。
「1番から回れ。俺は12番から逆に回る」
1番とは柱の番号のこと。
スカイツリーの天望デッキには番号が振られた12本の柱がある。
今回の爆破作戦は、天望デッキの柱12本を爆破し、その上の天望回廊ごと吹き飛ばす……二人はそう読んでいる。
6番と7番の柱の間で落ち合うと、二人はつぶやいた。
「やっぱりあったな」
「あったっすね」
1本1本の柱に設置された12個の爆弾。
そのすべてを二人は目視で確認した。
この天望デッキは地上350メートルの地点にある。
もしも、ここから上が吹っ飛ばされたら、スカイツリーは東京タワーぐらいの高さになってしまうかもしれない・・・。
蒙古龍の頭にそんな余計なことがよぎっていると、黒豹丸が口を開いた。
「こりゃあ、ゆうべ立てた作戦どおりだな。黒幕を引っ捕まえて、爆破を阻止するしかねえぞ」
「そうっすね」
黒豹丸と蒙古龍は、まるで腹をくくったかのように小さな息を吐いた。
「で、ヤツの居場所がわかるんだって?」
「はい。自分の推理が正しいなら、ヤツは絶対にあそこに立ち寄るはずっす」
「それじゃ、いっちょお礼参りに行くとするか」
「了解っす」
黒豹丸と蒙古龍は黒幕がきっとやってくるであろう、あの場所へと向かったのだった……。
(つづく)