救出作戦05

異世界ディベロッパーズ!
22:16 06/05/21
文字数約3200
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05

 ガンコムで作った(ちょっと大きな)抜け穴を通り、二人は基地の中へ潜入することに成功した。

 壁の向こうは複数並んだ倉庫の裏に繋がっており、細い裏路地のようになっている。パトロールの目も行き届いていないのは、エントリー前の広域スキャン時点で確認済みだ。

「赤外線センサーとか無いよなぁ」

《おいユーレイ、上の見張りは殺さなくてもいいのかよ。上から見られちゃうよ》

「ワンちゃん、殺すのは最後の手段だ。一人殺せば、定時連絡で返事がないのがすぐバレる」

《ていじれんらく? どういう意味だっけ》

「五分とか三分とか、一定の間隔で各自が状況報告をリーダーに寄こすんだ。だから返事がないって事は、トラブルがあったってことになる」

《なるほど賢いなぁ。でも、そんなことしてんのかなアイツら》

「それは知らんが、石橋を叩きすぎるって事はない。こういう組織化されてる集団ってのは、それぞれ役割があるんだ。負担を軽減するためにな。だからお立ち台のちゃんねー共は多分、外側しか見てないだろう」

《お前やけに詳しいよな。流石はオニカズチのサイスズだ。前は、軍隊にでもいたの?》

「俺が? 莫迦言え、軍隊は頭が良くないと入れない。自慢話で恐縮だが、俺は二桁の足し算も出来ないんだぞ。単なる、手取り十四万のクソ派遣社員だったさ」

《でもいまのとこ頭いいじゃん。難しい言葉とか、色々知ってるし》

「それはあれだな。その~……あんまし人に言う事じゃないけど。幼稚園の頃から俺は、英才教育を受けてきたんだ。あとは独学で」

《へぇ~、お前、意外と頑張り屋さんなんだ。どんな勉強をしていたの?》

「そうだな。例えばロボットや銃火器の取り扱い、立ち回りなんか。あとは剣と魔法の扱い方。その用途」

《凄いじゃん。それなのに、どうして魔法は使えないんだ?》

「魔法どころか、銃も剣も、機械の操作も。俺の国では実習する機会ってのが一度も無かったんだよ。危なっかしいからダメだって……だから全部座学で済ませてた。ちなみに、今やってる動きや敵の挙動の読み方は、メタノレギアっていうVR訓練で習得した。タフなノルマだったよ」

 何も知らぬ幼い影狼に対し、真面目なトーンで語るユーレイ。
 ゲームや漫画を『英才教育』と称する彼は頑なに、これら知識は全部ゲームで得た『にわか知識』だとは言わない……なんとも意地の悪い男である。

 犬耳と尻尾を揺らしながら、彼等はカースドールの置かれてあるゾーンへと順調に進んでいた。
 話ながら進めたのは、警備に当たっている歩哨の数が思いのほか少なかったためである。カースドールの存在が、その理由なのだろうか?

 また、消音効果や夜の闇に紛れる影化など、ワンちゃんの憑依による灰色コンッポジットブレイズがとても効果的に機能している事もあげられる。

 そして、ユーレイの装備である便利なテクノロジー、各種センサーが有能過ぎたというのもある。単純に、サーマルやエックスレイなどのビジョンを切り替えれば、たとえ壁の向こう側にいようが、視覚的に分かりやすく『ここに敵がいる』と察知できる。

 つまり、消音、影化、挙句の果てにはウォールハック(透視)と、今の状況にうってつけなスキルをユーレイは備え持っていた。

 闇に紛れたユーレイのすぐ目の前を、歩哨が通り過ぎて行く。

 敵の目は簡単に欺くことができる。

 ユーレイは壁の向こうを視認し、音の出ない全力疾走を行い、影化して闇に溶け込みながら。いよいよ目的地にたどり着いた。

 身長五メートル程の、ずんぐりとした機体が並ぶ敷地内。

「カースドール……ぶっさいくだなぁ~――」

 ユーレイは汚い緑色をしたカースドールに近づき、見上げながら言う。

「芋ったいこの、クソだせぇ感じ……敵ながら、マジでクールだ。全然悪くねぇ……そこだけは認める……うん? 直で見て分かったけど、なんだこれ、苔むしてる? うお、けっこう分厚いな。フカフカだ。あとビチャビチャ」

 汚い緑色の正体は、どうやら背の高い苔のような植物のようだ。
 実をいうところ、このカースドールは全身が苔で覆われており、大判なギリースーツを上から被っているような風貌であった。

「ぐっちょり濡れてるから、サーマルで見えなかったのか。マジで石像かと思った……」

 肩幅が広く横長の動体で、ブリーフタイプの腰間接。
 頭部はある様で無く、胴体の上部中央にひし形の出っ張りがちょっぴり突き出だしてるだけだ。
 そこに横長のアイラインが無ければ、素人には頭部だと分からなかったかもしれない。

 ユーレイは頭を突っ込んでアーマーの裏側を覗き込む。

 カースドールはメインフレームにアーマーを着せただけ、といった印象の、隙間の多い外装をしている。

 裏側から見た感じ、どうにもこのアーマーは一品物ではないようだ。色んな所から集めてきたのであろう、謎の鉄板を継ぎはぎして溶接した跡があったからである。

 マニピュレーターは五本指。足には太い三本爪。

 隙間から体を離して、ユーレイは他のカースドールにも頭を突っ込んで裏側を覗き込む。

 どの機体もフォルムは一緒だが、継ぎはぎ跡がそれぞれ違うようだ。

《どう? 動かせそう?》

「ざっと見てるんだけど……このマリモロボットの手作り感ヤバイな。特にこのコケティッシュな苔スーツ。森林仕様って事なら、寝てたらマジで地形と同化するぞ」

《見た目もあると思うけど、その苔はたぶん、魔法を防御する奴だと思うよ》

「なんですって? 苔で魔法を防御?」

《そう。その苔ってさ、魔法を『つるっ』て受け流すんだ。葉っぱが雨水をつるって滴らすみたいに》

「マジかよ天然の対魔法流体装甲ってわけ? ビームコーティングの魔法版だ。考えたもんだな。摩耗しても水やってりゃ勝手に増えるだろうし、そこら辺で栽培しとけば、ランニングコストもリーズナブルか。ははー、増殖装甲でもあるって訳ね……俺のバイオアーマーと同じだな……」

《おいユーレイ。専門的な難しい話はここでするなよ。するなら僕にも分かる様に言ってよ!》

「あー、いやスマン。それどころじゃなかったな」

《お前、本当にこういうのが好きなんだな?》

「この手作り感がマジでヤバイ。このブッとい腕とか脚も。このクソだせぇフォルムが相当にイカす。そもそもフレームにアーマーを被せてるだけってのが――」

《分かったもういいよ! こんな汚い乗り物のどこがいいんだ。それで、どうするのさ。動かせるの?》

「試してみる。あぁ、どっから乗るんだこれ……ワンちゃん、俺は調べるのに集中するから。憑依を解除して、周りを見張っててくれないか……あっ、ヤバ。そうか、俺のブレイズが引っ込められないから、ひとつになってたんだっけ?」

《そうだよ。でもお前。いつの間にか僕が手伝わなくても、引っ込められるようになってるじゃん》

「あえっ、うそ」

《だって今、僕はなにもしてないよ?》

「マジか」

《きっと僕の感覚が流れて行ったんだな》

 感覚の流れ。意識の共有……これまでの経験から、ユーレイは思う。

 確かに、彼は体の内側へ自身のブレイズを『引っ張る』ような意識をいつのまにか持っていた。
 それは物理的な筋肉の収縮ではなく、あくまで『感覚的』な、意識的な挙動である……今ならば彼は、ブレイズの収縮と、その逆の放散まで行えるような気がした。

《よし。じゃあ離れるよ? 本当はまだちょっと、お前とひとつになってたいけど》

「あら。これまた何で」

《だってこの中だと、お花の匂いがいつもよりいっぱいするんだもん》

 お花の匂い……眉を潜めるユーレイは、苦笑するようで困ったような、微妙な表情をした。

「その話か、ネネッケ先生にも言われたよ。虹色のブレイズからお花の香りがしますねって。でも自分じゃ嗅げないし、マジで意味分からんのだが」

《いいじゃん、いい匂いで。たぶんみんな好きだよこれ?》

「マジかよ……この俺様は超ド硬派なドーテーsoオールドボーイなんだぜ? むせかえるほどの死と硝煙の匂いが漂う真の漢だってのに。なんでフローラルな香りがしてんだ? 便所の芳香剤か俺は。実に遺憾だね」

《どうせ今から血まみれになるんだ。お花の匂いさせてたほうが絶対いいよ。ねぇユーレイ、後でまた僕に嗅がせてよ》

「分かったから。もうさっさと離れろ」

《はいはい。絶対だよ!》

「あぁ……」

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