二次創作【鬼燈街事件帖】『鬼ノ骸』⑯

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【用語集】
退魔師――人に害を成す妖(あやかし)を鎮圧する人達
退魔寮――各地の退魔師達を統制する管理局
式鬼――各退魔師が使役する獣

【登場人物】
楠 いろは(くすのき いろは)
葛木 政善(かつらぎ まさよし)
いろはの式鬼 雪丸(ゆきまる)
律鳴(りつなり)
律鳴の式鬼 醤油(しょうゆ)
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第十六話『エピローグ』
文字数約1700
<いろは視点>


 数週間後。
 地元の鬼燈街に戻った政くんとわたし。
 そんな政くんのスマホに、動画ファイルが送られてきた。

「はいはい、今映ってますよ」と、画面の裏側から醤油さんの声。

 正面には可愛いショートカットの女の子の姿がある。おでこには二本の角が。きっと結子ちゃんだ。長い髪はバッサリと切られたようである。

「こんばんは、いろはと政善! 見てみて、可愛い服を買ってもらったんだよ!」

 楽しそうにする結子ちゃんを見ると、こっちまで嬉しい気持ちになる。ちょっと心配していたんだ。あの後、どうなったのかを。

「それでね。それでね。今から悪いおばけを食べにいくんだけど、あやこの支度が全然終わらないの!」
「なんだようるせぇなぁ~……今から屠殺場に行くんだろう? ならお色直しはいるだろうが」
「とさつじょー? 醤油、それなんのこと?」
「あーいや。何と申して良いのなら。ちょっとした比喩ですね。だいぶ軽めの」

 気まずい補足をしなければならない醤油さん、可哀想。

「は? なに、ちょっとまって? なにそれ撮ってんの?」
「えぇ、それはもう。楠氏と葛木氏に向けたビデオメッセージとして」
「おいマジかよ!? 人のすっぴんを映すんじゃねーよ!」

 ガシャーンドガドガ! と、割れやすい何かを投げられたような炸裂音が響き渡る。
 律鳴さんも……相変わらずだな。

 幻鬼骸を封印したあとの事。
 まず、安心して欲しいことがある。
 放出された魂は、きちんと律鳴さんが供養して、昇らせてくれたこと。
 それと。
 幻鬼骸から産まれた結子ちゃんを、律鳴さんは自分の子供として育てることにしたこと。

 結子ちゃんについて、退魔寮には黙っている。
 知られたら、きっと面倒なことになるだろうから……律鳴さんは、『幻鬼骸はいい感じに・・・・・眠った』とだけ報告し、私達もそれに習った。実に異例であった事件だったため、退魔寮からこの件に関して深い追及は無かった。

 あれ以降、老齢の鬼が訪れることはなくなったらしい。
 だが幻鬼骸の『余韻』が各所に多く残っているようで、それの後始末を彼女達はしているという話だった。

「こんどまたこっちに来てよ! 一緒に遊ぼう!」

 キラキラに輝く笑みを湛える結子ちゃん。

 あれから律鳴さんは結子ちゃんを同行させ、私と醤油さんが苦労して始末していた、悪鬼化した鬼のあやかしの魂を食べさせているらしい。
 こんないたいけな少女が、あんなのをぺろりと平らげてしまうのは想像できないけれど……そのような特殊な力を正しく扱えるよう教育すれば、頼もしいことこの上ないだろう。

 でも、しっかりとした教育か……うーん。律鳴さんにできるだろうか?

「結子氏。もう少し時間がかかるようですし、算数のドリルでも終わすのはどうでしょう」
「えぇー!? 今日はお仕事なんだからいいでしょう!?」
「駄目ですよ。こういうのは日々の積み重ねが大事なのですから」

……私の想いは杞憂だったようだ。真面目な醤油さんがいれば安心だろう。

「それじゃあいろはと政善! またね!」

 動画は終わる。

「ねぇ、政くん」
「なに」
「結子ちゃんのこと……退魔寮に黙ってて大丈夫かな」

 わたしが言うと、政くん。

「悪い友達も持つべきだ。って、律鳴さんも言ってたしな」

 なるほど? 規律に厳しい政くんも、少しは丸くなったみたい。

 わたしはあの時の事を思い出した。

 駅で呪いを受けて。
 白蛇の神様に会って。
 色んなお洒落をして。
 幻鬼骸に連れ去られて。
 夜空に蛍のような魂が昇って……。

 政くんは……私が取り込まれた時。助けに来てくれた。
 あんなにボロボロになって。死ぬかもしれなかったのに。

 本当に……死ぬかもしれなかったんだぞ?

 それに、知ってるよ?
 泣いてくれたことも。

 でも政くんは。最後まであきらめなかった。
 そして最後まで、政くんでいてくれた。

 いつだって……わたしの傍に。
 いてくれたんだよね。

 あの時の事を思い出していたら……わたしは胸が熱くなり、いつのまにか。わたしは……彼の手を、握っていたのだ。

「ん?」

 何気なく顔を覗いてきた政くん。

「ねぇ、政くん……ううん」

 わたしは茶を濁した。
 好き。だなんて。唐突に言ったら、びっくりしちゃうからね。政くん。

 

✼••┈┈┈┈••✼ END ✼••┈┈┈┈••✼

 

 


一話 https://note.com/saikiyosino/n/n93344f041af6
二話 https://note.com/saikiyosino/n/nb1a44379bee2
三話 https://note.com/saikiyosino/n/n6deed4f6d0dc
四話 https://note.com/saikiyosino/n/n5bf48265c048
五話 https://note.com/saikiyosino/n/n6f162570eef1
六①話 https://note.com/saikiyosino/n/nb58c7bfb100b
六②話 https://note.com/saikiyosino/n/nece67c2df5e8
七話 https://note.com/saikiyosino/n/nfc54b9d1b2d7
八話 https://note.com/saikiyosino/n/n7c4ad9e93547
九話 https://note.com/saikiyosino/n/n24cc71db129d
十話 https://note.com/saikiyosino/n/n357641d759b4
十一話 https://note.com/saikiyosino/n/nc3a48a125c9f
十二話 https://note.com/saikiyosino/n/nf81badb3865d
十三話 https://note.com/saikiyosino/n/nb45a2520e70f
十四話 https://note.com/saikiyosino/n/n286e80ddb1ec
十五話 https://note.com/saikiyosino/n/n49bc3e3892a0
十六話 いまここ

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