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「サワー」という響き

高校生の頃、愛読していた漫画がある。吉田まゆみ先生の「アイドルを探せ」という作品。東京で一人暮らしをする女子大生が主な登場人物で、恋愛、友情、学生生活、就職、結婚への思い……といった、当時の自分にとって「少し先に経験するであろうもの」がリアルに描かれていた。当時(1980年代中盤)といえば一般の(本当に一般なのかは怪しいが)女子大生がバラエティ番組に進出した時代ではなかったかと思う。「オールナイトフジ」だったか、どのみち私の住む地方では放映していなかったので詳細は聞きかじりだが、そんな時代背景も相まってか女子大生を主人公に据えたこのマンガはヒットしていた(菊池桃子主演で映画化されるくらいに)。私のような田舎の女子高生は東京への憧れも込みで当時夢中になって読み耽っていた。

その登場人物たちが居酒屋でサワーを飲んでいる場面がよくあった。ストーリーを大きく左右するほどではないまでも、とかく「飲み」の場で彼らは重要な動きをする。大体はその場にいない(うまくいっていない)恋人のことが軸になる。

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当時未成年のワタクシ、「サワー」がどんなものか全く知らず。ビールに日本酒、ウイスキー、ワインくらいなら親が飲んでいたかドラマやCMで飲んでいるシーンを見たことのあるお酒だったが、「サワー」というと連想するのが白っぽいプラ容器に入ったストローの付いた清涼飲料水だった。

まさにこちらのこと。今も購入できることに少々驚いた。

もちろん居酒屋で供されるサワーはこちらではなく、画像内にある氷の入ったタンブラーのことだろう。炭酸とかジュースとかでお酒を割ったであろうことは想像出来たが、如何せん居酒屋に行けるような立場でもなく(昭和時代の緩さは置いといて)大学生になったらサワーを飲むんだ、と謎の誓いを立てていた。

さて時は過ぎ、上京した私は学内の大規模コンパに参加した。そこで初めて出会ったのだ、憧れの「サワー」に。今となってはレモンサワーかライムサワーか、はたまた青リンゴサワーか覚えているはずもない。氷の満たされたタンブラーはキンキンに冷たくて、予想通りの炭酸とほんのりお酒の苦さ、何らかのフルーツフレーバー。感動するような美味しさはなかったけれどそもそも美味しさを求めてはいなかったかも知れない。どちらかというと、居酒屋でお酒を飲みながら楽しむ自分にとっての「場の小道具」に近い印象だった。それはかつて漫画で読んだ時と似たような感覚に近かったのだと思う。ストーリーを邪魔しない程度の気の利いた飲み物。これが高級なワインだったらそうもいかないかも知れない。現に、サワーを口にして「美味しい」といった味についての感想は見られなかったと思う。

冷えたタンブラーを傾けて、可もなく不可もない味を感じて、大人として生きる自分をほんの少しだけ感じた夜。ああ、私は大学生になって、居酒屋でサワーを飲んでいるんだなと。今思うと笑ってしまうけれど、上京して肩肘張ってて、それでも田舎者と顔に書いてあったような頃の話。

今ではサワーの種類もクオリティも当時とは全然違う。レモンサワーひとつ取ってもタンブラーを埋め尽くさんばかりのカットレモンが入っていたり、強炭酸もあれば塩レモンサワー、麴レモンサワーなど多様でしかも美味しい。レモンサワー缶も今や群雄割拠状態だし、なんなら自宅でも簡単に作れちゃう。我が家にもソーダメーカーがあるので、いつでも飲みたい時に炭酸水作って焼酎入れてレモンを絞ればそれでOK。「サワー」ってなんだろう、いつか飲んでみたいなあ、なんて思っていた高校生の私が聞いたら何て思うだろうか。

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南城さいき
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