
個食と黙食
個食はともかくとして「黙食」なんて言葉今まであっただろうか。今ちょっと調べてみたら、仏教の教えで「黙食(もくじき)」というものがあるようで、幼稚園や小学校などで食事のマナーとして取り入れられているとか。とはいえ皆でワイワイと食卓を囲むのは楽しいもの。そんな当たり前の光景を封じられてしまうことなど誰が予想しただろう。少なくとも食べ終わったら即マスクをして会話をするという、以前からすると不自然極まりない行為を是とするこのご時世、いつまで続くのか。
真逆のことを言うようだが「個食」いわゆる「ひとり飯」については個人的には大好きだ。人と一緒に食事をするのが苦手なわけではないけれど、自分の行きたい店に行って気兼ねなく食べたいものを食べる、そんな機会を大切にしたいと思っている。
「個食(ひとり飯)」は正直とても好きだ
「孤独のグルメ」よろしく、ひとりで行ける美味しい店を常に探し求めている。和食中心のカフェ飯に蕎麦、タイやベトナム等のアジアン系が特に好き。色々なおかずが少量ずつ載ったプレートや、小鉢がいくつも付いた和定食なんて最高。カレーやラーメン、丼ものといった単品メニューを選ぶことは歳と共に減ってきたけれど、レトロな喫茶店の懐かしさあふれるナポリタンやオムライスにはつい惹かれてしまう。
そんなひとり飯を心置きなく楽しんでいるけれど、以前は行きたくても躊躇することが多かった。特に日本橋でOLをしていた頃。会社の周りはランチ天国といっても過言ではないほどの飲食店に恵まれ、なんならランチブログが書けるくらいに外でのひとりランチが出来たはずだ。しかし外でランチに行こうとすれば同僚から悪気のない横槍が入る。
「ひとりで外で食べるなんて信じられない。友達いないんじゃないかって思われそう(笑)私には無理」
そんな軽口を言われて腹が立った。そこまでなら価値観の違いでスルー出来るけれど、昼休みにふらっと外でランチをすれば「どこに行った」「何を食べた」はもちろん「誰と行った、一人?なんで?」と根掘り葉掘り訊かれた。もはや5W1Hの報告義務のようだ。大して仲が良くなくとも一緒に会議室でお昼を食べなければいけないような暗黙ルールのあった会社はここ以外にも経験しているから珍しい事でもないのだろうけれど、もうシンプルに面倒くさい。何なの?一人ランチは許可制なんですか? というわけであまりに面倒なのでランチ開拓を諦め、そのまま数年後に日本橋の職場を去ってしまった。惜しい事をしたと思う。
今の会社の同僚たちは(現状テレワークではあるけれど)基本はバラバラにランチを取っていた。連れ立つことはあまりなく、いい意味でドライだ。一緒に行かない代わりに、どの店の何が美味しいという情報を共有してくれるので有難い。ここ十数年の間に「おひとりさま」という言葉も浸透し、世の中も女性の一人飯や一人旅を受け入れてくれている(ちなみに一人旅も大好きだ)。現にオフィス街のランチ風景を見ると、女性よりも男性の方が連れ立っている姿を見るのは気のせいか。
ここまで書いて、私は他人と一緒に食事をするのが嫌いなのか?とも思ったけれど決してそうではない。ただ、もう今は大好きな人達とだけ食卓を囲めればいいかな。気の進まないメンツとのランチで消耗するのはもうとっくに卒業したようだ。しかしコロナの状況下で、個食を推奨されるというのも皮肉な話だ。
「黙食」は時と場合による
複数人で食卓を囲むことは楽しい。それは弾むお喋りがあってこそのこと。店によっては「黙食」ポスターが貼られており、時世柄ごもっともだとは思うものの不自然さは拭えないでいる。美味しい食事を前に、誰も何も話さず黙々と食べる。それぞれが一人飯ならまだしも、グループでそれはきつい。
しかし時折、文字通り「黙って食え」と言いたくなる場面もあった。友人とランチをした際に、マシンガントークが止まらない彼女。運ばれてきた料理もそこそこに喋りまくる。出来たての一番美味しいタイミングで食べてほしい料理は冷めていき、喋りながらの手持ち無沙汰で皿の上をいじりだして、結局ぐちゃぐちゃにして残してしまうのを見るとがっかりする。食に興味がないのかな?それで「よく食べるね」なんて言われるもんだから、そもそも食に対する価値観が違うのだと諦めるしかない。
それも極端な例だが、黙食で困ったこともあった。
かなり前だが、オーガニック&ヴィーガンを売りにしたカフェで食事をした時のこと。白と生成りを基調としたナチュラルな雰囲気の内装と、ごくわずかに絞った席数。先客はすべて一人客。私も一人だったから居心地が良い……筈だった。
ジャズやボサノバみたいなカフェに合うような音楽などは流れていない。自然の音だけがBGMである、といえば聞こえはいいのだが、誰も話さず食事に夢中になっているこの空間、ひたすら前後左右から咀嚼音しか聞こえてこないのだ。ちなみに私は人の咀嚼音がとても苦手で、その場に食べ方の汚い人は居なかったけれどそれでもきつい。そこに万が一くちゃらーが居たら多分暴れるじゃ済まなかったと思う。イヤホンなり耳栓を持っていれば良かったのかも知れないが、せめて話し声でもあれば紛れたのになと今更になって思い返した。
どちらが良いかではないけれど
一人での食事、仲間や家族との食事、どちらも好きだしいずれかが良いとか良くないということではない(極端な例ばかり挙げてしまったが……)。食事の場さえも「縛り」を作らざるを得ないこの状況、早く収束してほしいと思い続けてもう1年以上になる。一人での食事はこれからも楽しみたいし、気の合う女友達とのカフェ巡りもしたいし、仲間とワインを飲みながら語り合える日が来るのを切望している。
ちなみにタイトル画像は、もう何年も前になるけれど友人と自由が丘「TODAY’S SPECIAL」さんでお茶とスイーツを楽しんだ時のもの。なつかしい。
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