チームとしての『オフ・ザ・ボール』局面
球技スポーツ、とりわけチームスポーツにおいては「オフ・ザ・ボール」の局面をどのように捉えるかが極めて重要だ。
筆者の「オフ・ザ・ボール」に対する認識については過去記事『『ポジショナル・プレー』というコンセプトを』をご参照願いたい。
さて、本記事では「オフ・ザ・ボール」と関連する2つの局面について考えていきたいと思っている。
2つのある局面
「オフ・ザ・ボール」に関連する局面は、大きく2つに分けて考えることができると考えている。それは、ネガティブ・トランジションとポジティブ・トランジションである。
これらの言葉はサッカー用語として広く使われている。
それぞれの局面をバレーボール競技に落とし込んで説明するとすれば、次のようになるのではないかと考えている。
▶︎ネガティブ・トランジション
攻撃から守備への移行局面のこと。具体的に想定されるものとしては「自チームのサーブ、もしくはアタック」プレーが実行されてから守備(ブロックもしくはディグ)のプレーを実行するまでの移行局面
▶︎ポジティブ・トランジション
守備から攻撃への移行局面のこと。具体的に想定されるものとしては「自チームのレセプション、もしくはブロック・ディグ」プレーが実行されてから攻撃(アタック)のプレーを実行するまでの移行局面
そして、これら2つの局面を一言で表現するならば「オフ・ザ・ボール局面※」とも言えるのではないだろうかと考えている。
※ポジティブ・トランジションについては、そのプロセスの中に「セット(トス)」プレー(つまり、オン・ザ・ボール)が含まれることがあるので厳密には「オフ・ザ・ボール局面」とは言えない。
ただ、一方で「セット(トス)」プレーを攻撃(アタック)の起点として捉えることもできなくはないとも思っている。セット(トス)時点でポジティブ・トランジションが完了していると捉えるわけである。このように考えるのであれば「オフ・ザ・ボール局面」と一言で表現してみてもいいかもしれない。
現時点では、局面の本質を捉えて考えるのであれば「オフ・ザ・ボール局面」と表現するのがベストであると考えている。この考えはまた変わるかもしれない。。。
「オフ・ザ・ボール局面」がゲームに占める割合
「オフ・ザ・ボール局面」について整理をここまで進めてきたが、ここではこの局面がゲームに占める割合がどの程度になるのかを考えていきたい。
まず、2015年ワールドカップの上位7チーム同士の対戦全21試合を対象にした統計分析(国立スポーツ科学センター所属、宮脇氏らによる)を紹介したい。
下記は1セットの平均所要時間と1セットあたりのイン・プレー(ラリーをしている時間)時間の分析結果である。
1セット平均時間:28分53秒
1セットあたりのイン・プレー時間:4分59秒98
ゲームにおけるイン・プレー時間が非常に短いことがこの分析から十分わかってもらえるだろう。
さて、ここからはイン・プレー時間における「オフ・ザ・ボール局面」の割合はどの程度になるかを考えてみたい。
オフ・ザ・ボール局面を考える際は、プレーヤーによって個人差が出てくることを前提に話をしていきたい。そして、ここからは分析結果からの話ではなく感覚値の話になることをご了承いただきたい。ご自身でのプレー経験があれば、その経験を元にイメージしてもらえると分かりやすいだろう。
インプレー中の時間は約5分であることは分析結果から出ている。では、1セット中に1人のプレーヤーはボールを何回タッチするだろうか。そして、そのボールタッチ(オン・ザ・ボール)の合計時間はどれくらいになりそうだろうか。ぜひ想像してみてほしい。
個人差があることを前提にしても、イン・プレー中のボールタッチ時間の合計が30秒以上になるプレーヤーはいないのではないだろうか。
では、ここでは仮に1セット間におけるイン・プレー中のボールタッチ時間の合計が30秒だとして、オフ・ザ・ボール局面がゲームに占める割合を考えてみよう。
計算方法は至ってシンプル。
オン・ザ・ボールの時間は30秒。オフ・ザ・ボール時間は5分(300秒)ー30秒=270秒。
インプレー中の90%がオフ・ザ・ボール局面となる。
この数値は正直いい加減なものではあると言わざる得ないが、プレー時間のほとんどがオフ・ザ・ボール局面に属しているということが分かる。
オフ・ザ・ボール局面での仕事
さて、では「オフ・ザ・ボール局面」では一体何をすればいいのだろうか。
一言で言うなら、ゲーム・インテリジェンスの3プロセスを高度なレベルで進行させることである。
ゲーム・インテリジェンスには4つの一連のプロセス(認知・状況判断・決断・実行)が存在している。オフ・ザ・ボール局面においては次なるオン・ザ・ボールに向けて『認知・状況判断・決断』という3プロセスを瞬時に高度なレベルで行うことが求められる。ちなみに、最後のプロセスである『実行』にあたる部分がオン・ザ・ボールである。
ゲーム・インテリジェンスについては以下の記事を参考にしていただきたい。
参考記事:ゲーム・インテリジェンスという視点
しかし、この3プロセスを個人レベルだけで高度に進行させることができたとしてもそれは十分とは言えない。
チームのゲーム・インテリジェンスを高める
バレーボールは、チームスポーツであることを決して忘れてはいけない。ゲーム・インテリジェンスをプレーヤー個人レベルで高度に進行させたとしてもチームとして機能するかどうかはわからない。場合によっては、チームにとってマイナスにもなりかねない。
そこで、チームとしてのゲーム・インテリジェンスを高めるという発想と意識が必要だ。そのために有効なツールがあるとすれば、それはおそらくそのチームにおけるゲームモデルであり、プレー原則となってくるのだろうと考えている。
参考記事:ゲームモデルとプレー原則とプレー動作原理