エコロジカル・アプローチ@バレーボール【8/16】「言語化」の留意点
エコロジカル・アプローチ@バレーボール【7/16】「言語化」はどこまで可能か?からの続きです。
「言語化」について重要なこととして、さらに書籍で述べられていることを紹介しておきたいと思います。
「言語化できず、言語化すると不正確になる可能性がある知識」と「言語化によって他人と共有するための知識」を区別することが重要だということですね。「この区分が正しいならば」と書かれていますが、私は正しいと考えています。
「言語化できず、言語化すると不正確になる可能性がある知識」は【暗黙知】と言われることもあり、それに対して「言語化によって他人と共有するための知識」は【形式知】と言われることもあります。そして、企業など成果を上げるべき集団では「暗黙知を形式知に転換するナレッジマネジメントが重要」とされているようです。
しかし、前回で紹介したように、「こうすればできる」というのは人それぞれの感覚であり、スキルを習得するとは「未知の状況に対し、自分で、その時の自分自身の、その場での解を出せる力」を身につけることなので、スキル習得においてはむしろ「言語化できず、言語化すると不正確になる可能性がある」ものと位置づけることの方が重要なのです。
運動に関して言葉を使うこと、言語化することにについて、さらに次のように書かれています。
言語化された「運動のコツ」について、以前に個人のnoteでこんな記事を書いたことがありました。
内容を一言で言うと
やりたいことができるようになるには【試行錯誤】で感覚をつかむしかないし、「感覚」は教えられない。
ということになりますが、人はどうしても「こうすればいい」というのを求めがちだし、それを教えたい(言葉で説明できる)と思ってしまうんですね。なかなか難しいことだからこそ、教えなければならないと思ってしまう。
一流選手の「こんな感じでやれば上手くできる」という言葉には特に期待が集まりますが、その通りにやったら上手くいくということはほとんどなく、あくまで「試行錯誤のヒント」にはなるかもしれないものという認識が必要でしょう。
それは、その人なりにいろいろできている状況で、ある時に、たまたま意識してみたら上手くいったことを「このプレーはこれを意識すれば上手くいく」と言っているだけの可能性が高いからです。
また、「自分がやっていると思っていること」と「実際に起きていること」は違うのが普通で、一流選手の言う「こうすれば上手くいく」のようには当の本人はやっていないということはよくあります。「意識」と「やっていること」とは違うので、やるべきことと真逆のことを意識して上手くいくことすらあるのです。
動作のやり方の「感覚」は言葉にすることができません。
しかし、「その動作の結果として起きること」は言葉で表すことができるので、「それが起きる(起きるようにする)感覚」という形でなら、その「感覚」を表すことが可能です。つまり、「何が起きるべきか」という物理現象として表すしかないということになります。
動作学習の課題「身につけるべき感覚」を整理する(体系づける)ために、「何が起きるべきかという物理現象」として表したものが【動作原理】であり、それが、教科書「コーチングバレーボール」における技術指導の軸として位置づけられています。
「何が起きるべきか」というイメージがあれば、試行錯誤で「それが起きる動作」を自分のものにしていくことができます。どうすればそれが起きるのか探す手伝いをするのが指導者の役目であり、それは「試行錯誤で動作を学習していくための環境」を用意するということです。そのために指導者は「何が起きるべきかという物理現象」を理解する必要があるのです。
2023.8.25 追記
20世紀最大の哲学者について書かれたnote「ウィトゲンシュタイン(言語ゲーム)」を紹介していただきました。「言語化」についてとても重要なポイントが書かれています。
・「言葉の意味は文脈によって決定される」
・「何も知らない」子どもからすれば「基礎」と言われても、そもそも「全体」を知らないので、その意味を把握することができない
どちらも当然すぎる話ですね。
2023.12.28 追記
「言語化」について、大事なことがとても分かりやすく書かれている記事があったので貼付けておきます。「言語化」の限界と役目を知り、どう利用すべきかをしっかり押さえておきたいですね。