ゲーム・インテリジェンスという視点
ゲーム・インテリジェンスの高いプレーヤー
ゲーム・インテリジェンス。直訳すると「試合における知性」といったところだろうか。
バレーボール経験のある読者なら分かるだろう。試合前の練習でフリースパイクをバコバコ打ち込んでいるプレーヤーが試合に入ると残念な意味で別人のようになってしまうようなことがある。
また逆パターンもあるだろう。フリースパイクでは目立たないプレーヤーが試合になると多くのアタックを決めるといった光景を見たことがあるのではないだろうか。
つまり後者が、ゲーム・インテリジェンスの高いプレーヤーと言えるだろう。本記事では、ゲーム・インテリジェンスについて理解を深めていきたいと思う。
『認知・状況判断・決断・実行』というプロセス
ゲーム・インテリジェンスには4つの一連のプロセスが存在している。それは、『認知・状況判断・決断・実行』というプロセスである。
『認知』▶︎コート上で何が起こっているのかを認知する
『状況判断』▶︎認知した情報を元に頭で理解して、状況を予測する
『決断』▶︎状況判断したいつくかの実行すべき選択肢を1つに絞り込む
『実行』▶︎選択したプレーを行う
4つのプロセスにかかる時間
では、この4プロセスにはどのくらいの時間がかかっているのだろうか。
サッカーの場合だと平均して3秒程度とのことらしい(詳しい計測方法までは調べていないが)が、バレーボールに関して言うと3秒よりも短いのではないかと思う。その理由は単純に、ボールの移動距離の短さとボール保持ができないというルール特性の2点からである。
まず、サッカーに比べてバレーボールのコートははるかに小さい。よって、プレーヤーのボールタッチから次のボールタッチまでボール移動距離は短く、その時間も比例して短くなると考えられる。
次に、バレーボールにおいてボールを保持(キャッチ)することは一切許されない。そのため、4つのプロセスにかかる時間はボール保持が可能なサッカーと比較して短くなることが予測される。
4プロセスのどこでミスが起こるのか
では、4プロセスのどこでミスが起こっているのだろうか。
これもサッカーの場合だが、70パーセントは『認知・状況判断・決断』プロセス内で起こっているそうだ。
では、バレーボールにおいてはこのパーセンテージはどのようになるのだろうか。
ここについても私の個人的推測にすぎないが、多少の差はあれどサッカーのそれとさほど変わらないのではないかと思っている。
このことについて当初考え始めたとき、先述したボール保持ができないというバレーボールのルール特性が『実行』プロセスの難易度を高め、『実行』プロセスでのミスがサッカーと比較して多いのではないかという仮説を立てた。
しかし、よくよく考えてみるとその前段階プロセスである『認知・状況判断・決断』におけるミスが、あたかも『実行』というプレーの結果として最も可視化されやすいプロセスで露呈しているのではないかと考えるようになったのである。
『実行』ではなく『認知・状況判断・決断』を”観よう”
バレーボールは1つのミスが即失点に繋がってしまうスポーツである。そのため、バレーボールの試合をただただ漠然と見ていると多くのミスは『実行』プロセスで起こっているようかのように ”見える” 傾向にある。
しかし、よく ”観てみれば”、 実行よりも前段階の『認知・状況判断・決断』プロセスにおいてミスが発生しているということがかなり高い割合で起こっていると分かるだろう。
だからこそ、プレーヤーやコーチは4つのプロセスのどの段階においてミスが発生しているのかに対して意識的になる必要がある。
プレーの結果(レセプションでボールをはじいた。アタックをネットにかけてしまったなど)ばかりに囚われていると『実行』プロセスばかりに目がいってしまう。そうなると、ゲーム中にある『認知・状況判断・決断」のプロセスがごっそりと省かれてしまった短調な反復練習を繰り返し、ただただ時間を浪費してしまう恐れがあるので注意する必要がある。
プレーヤーやコーチには、プレーの結果(実行)ばかりに目をむけるのではなく、そのプレーの結果を引き起こしたであろう一連のプロセス(認知・状況判断・決断)にしっかりと目をむけ、高い解像度でプレーを "観る"ことが求められる。