子どもは考える葦である
静岡県バレーボール協会が主催するスポーツ指導者バレーボール競技「上級指導員(コーチ2)」養成講習会に受講生として参加してきました。
どの講義も素晴らしいものばかりでしたが、その中でも特に印象に残った内容を当記事ではまとめていきたいと思います。
叱らなくても指導できる
今回、私が感銘を受けた講師の先生は池上正さん。
略歴:大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼年代や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。10月1日にジェフを退団。同年春より「NPO法人L,K.O.市原アカデミー」理事長。
講義テーマは「叱らなくても指導はできる」でした。
テーマを知ったとき、どのような講義なのだろうか?と考えてみました。
そこでまず一番に考えたのは、コーチングをする上で感情的になってしまうことがないよう、しっかりコーチ自身の感情をコントロールしてコーチングをしていきましょう。
といった、いわばアンガー・マネジメント的内容だと考えていました。
これまでの自分のコーチング経験でも、プレーヤーに対して感情的になってしまうことが多々あり、どのように感情をコントロールすればいいのか?といったことを学べるのだろうと思っていました。
しかし実際は想像していたような内容ではなく、プレーヤー自身が自分で考え、アクションを起こしていけるようにするにはどのようなコーチングを実践していくのかといった内容でした。
コーチング上のスキルについて学ぶというのではなくコーチングは何のために行うのかといったもっと根本的で本質的な問題について深く考える機会となりました。
叱られると人はどうなるのか
まず、池上さんの考えるコーチングで、コーチがプレーヤーに対して大きな声を出して怒鳴ったり、威圧的に叱ったりするといったことは一切ありません。
こうした池上さんの考えるコーチング哲学の根本にあるのは、プレーヤーは自分がスポーツを好きで、楽しいからやっているというものです。
人がスポーツをしようとする動機。それは本来的には、
ただ楽しいから。やりたいから。
スポーツを始めたときはみんな同じだったはずです。ですので、コーチングにおいて、その原点を決して忘れてはいけません。
しかし、長年コーチングをしているうちにだんだん勘違いをするようになり、試合に勝つことや結果を残すことばかり考えるようになってしまいます。(私も過去のコーチング経験の中でこうした状態になっていたと反省することは多々あります)
そうして、コーチの思った通りにプレーヤーが動けなかったり、試合に勝てなかったりすると、怒りの感情が湧いてきて、その感情をなぜかコーチがプレーヤーにぶつけたりしてしまうといった変な事態が起こるのです。
そして、そんな時にコーチが使う殺し文句はこれです。
「君のためを思って言っている(怒っている)んだよ。」
こうした殺し文句を利用して、知らず知らず自分の思い通りにプレーヤーをコントロールしようとしまうのです。
こうした言葉を発しているとき、コーチは心から「プレーヤーのため」だと思い込み(それはほとんどが大きな勘違いで、結局は自分のためである)怒りをぶちまけて怒鳴ったり、最悪の場合は体罰をしてしまうといった事態に至るのだと思います。(「怒る」と「叱る」は違うという表現はコーチする側の論理で、結局はプレーヤーを威圧することでプレーヤーの行動をコントロールしようとする行為)
さて、こうしてコーチから、コーチングの一貫(??)として叱られる(最悪の場合、体罰を受ける)プレーヤーたちの頭の中には何が起こっているのでしょうか?
その答えや。。。
なんとも恐ろしいことがプレーヤーたちの頭の中で起こっています。
脳の一部が変形し、萎縮する
これは脳科学の研究からも実証されています。
関連記事:体罰・暴言で子どもの脳が「萎縮」「変形」 厚労省研究班が注意喚起
おそらく、皆さんも経験したことがあるかと思いますが、怒鳴られたり激しく叱責されたときには「なぜ怒られたのか?何がいけなかったのか?」と考える以前に、「ただただ怖い。怒られたくない。」といった恐怖の感情に支配され、思考停止状態になってしまいます。
こうしたことを繰り返し繰り返し経験するプレーヤーの脳は萎縮して変形し、どんどんと思考停止状態へと追い込まれていくのです。
そうです。叱ってはいけない理由。
それはプレーヤーの思考する力を奪ってしまうからなのです。
では、どうすればプレーヤーの考える力を奪ってしまうことなく、より良い方向に導いていく(プレー面だけではなく、人間としても)ことができるのでしょうか。
ただ問いかける
ただコーチはプレーヤーに問いかけるのです。
「どうすればもっと良くなる?」
「どうすれば次は失敗しないだろうか?」
各々の状況によって様々な問いかけ方があると思いますが、とにかくすぐに答えをコーチが言ってしまわないことが重要です。
では、なぜコーチが答えをすぐに言ってしまってはいけないのか。
それは、子どもから考えるチャンスを奪ってしまうことになるというのもありますが、もう一つ大事な理由があります。
それは、答えは唯一1つしかないものであるとプレーヤーが思ってしまうからです。
実際スポーツをしている中(実生活の中でも)で、正解はただ一つだけしかないといった場面はないと言ってもよいかと思います。
答えが一つではないということを選手たちが本当に理解するには、自分なりの答えを自分自身で考え出す以外に方法はないと言えます。
だからこそ、コーチは答えを言ってしまいそうなところを「グッ」とこらえてプレーヤーに問うのです。
考え、行動するができないこともある。それもよし。
ただただ問いかける。
これは、コーチにとっても難しいことですが、プレーヤーにとっても難しいことです。
選手からすぐに答えが出ないことも多々あると思いますし、いざ考えて実行してみても望むような結果が出ないといったも多々起こります。
しかし、そうした失敗経験をすることさえもプレーヤーには必要なのです。
コーチが答えをサッとプレーヤーに教えてしまったほうが、そこで起こっている問題だけを解決するには早いのかもしれません。しかし、また別の問題や課題を目の前にしたときにも、その都度コーチが答えを出してあげないといつまでたっても自分で問題解決をすることができるようになりません。
ですので、一見遠回りのように思えたとしても、プレーヤーに考えさせ、問いを繰り返していくことのほうの方が彼らの自分で考え、解決する力を育んでいくことに繋がると考えられます。
「最初はできなかった。でも色々試してみたらできるようになった。」
こうした一連のプロセス(失敗→思考→行動→成功)を経験することがプレーヤーのかけがえのない財産になるのです。
学ぶことをやめたら教えることをやめなければならない
子供に問いかけるだけ。
そんなこと誰でもできるんじゃないか?
と思われたかたもいるかもしれません。
しかし、それは違います。
先述したように、問いかけ続ければプレーヤーたちはそれぞれ彼ら・彼女らなりの答えを出してきます。
答えは一つではなく無限にあります。
プレーヤーたちが出した答えが、良い結果を生むのかどうかをコーチは見極める力が必要です。
プレーヤーらが出してくる様々な答えを見極めるためには、コーチ自身が正解はただ一つしかないと思っていてはダメです。コーチ自身がそうした信念(思い込み)を持ってしまった瞬間から、プレーヤーの出した答えを否定する可能性がかなり高まるからです。
だからこそ、コーチはプレーヤーたちが出してくるあらゆる答えを見極められる力を身につけるため、良きコーチであり続けるため永遠に学び続けなければなりません。
最後にご紹介
池上正さんの人柄や指導についての考え方を感じ取ってもらえると思う動画をご紹介します。ぜひとも参考にしてみてください。初めて見る方にはなかなか衝撃的かもしれません。