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育成における留意事項#24

「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第24回です。前章では「教える」と「教えない」を使い分けることの重要性について解説をしました。本記事ではバレーボール以外の多様な経験を大切にすることの重要性について解説をしていきたいと思います。

世界のトップレベルで活躍する一流のアスリートの子ども時代を見てみると、特定のスポーツだけに取り組むのではなく、複数のスポーツに慣れ親しんでいるといったケースが多いように思います。

果たして子ども時代にはスポーツとどのような関わりをするのが良いのでしょうか。また、スポーツに取り組む以外の時間をどのように過ごすことが大切なのでしょうか。

マルチスポーツを経験することの意味

複数のスポーツ(マルチスポーツ)に親しむことの重要性についてスポーツ庁はHP上で次のように述べ、実際に令和6年度からはマルチスポーツの推進事業をスタートさせています。

マルチスポーツについて
 子どもたちのスポーツ活動の一層の充実を図るべく、特にジュニア期の子供たちを対象に、ニーズに応じながらスポーツに親しむ環境(マルチスポーツ環境)を構築していくことが極めて重要です。
他競技を経験することは身体機能の向上やケガの防止だけでなく、複数のコミュニティへ所属を通じて、子供たち自身の社会性や協調性等を育む機会の増加にもつながるなど教育的意義も大きいです。
 スポーツ庁では、我が国に適した『日本型マルチスポーツ』環境を構築・充実していくために必要となる取組等を実施していくこととしており、令和6年度から「地域における子供たちの多様なスポーツ機会創出支援事業」を実施しています(筑波大学に委託)。

スポーツ庁HP

スポーツ庁がその重要性を訴えるマルチスポーツですが、次にマルチスポーツに取り組むことによって得られる具体的なメリットについて考えていきたいと思います。

マルチスポーツのメリット

運動能力の向上

マルチスポーツに親しむことは俊敏性、柔軟性、瞬発力など様々なスポーツで必要とされる能力を総合的にバランスよく高めることに寄与します。また、異なるスポーツで培った動きを他のスポーツに応用し、創造的なプレーをする能力を獲得することにも繋がります。

非認知能力の向上

非認知能力とは意欲や協調性などの、テストで数値化することが難しい能力のことを言います。マルチスポーツに取り組むことで、たくさんの新しいチャレンジに出会う機会を持つようになります。そのため、何にでも挑戦する意欲やその過程で獲得する忍耐力、成功体験にによって得られる自信、他者との協調性など、様々な非認知の能力を身につけることができます。

怪我のリスクを下げる

マルチスポーツに取り組むことは、特定のスポーツだけに取り組む際に起こりがちな特定の身体部位に負担をかけることで起こる怪我のリスクを下げ、身体全体をバランスよく鍛えることができます。

燃え尽き症候群のリスクを下げる

マルチスポーツに取り組むことで、特定のスポーツだけに取り組む際に起こりがちな勝利至上主義に陥ることなく、様々なスポーツの「楽しさ」を経験できるため、長期的にスポーツ活動に関わることができます。

自分の適正に合ったスポーツを選択できる

マルチスポーツに取り組むことで、自分の適正や好みにあったスポーツが何かを知ることができ、最終的にプレーヤーが自分に一番フィットするターゲットスポーツを選択することができます。

マルチスポーツに親しんだ一流のアスリートたち

さて、ここからは実際に子ども時代にマルチスポーツに親しんだ様々な競技で活躍している(していた)一流のアスリートに関する記事を紹介したいと思います。

石川祐希(競技:バレーボール)

ロジャー・フェデラー(競技:テニス)

大谷翔平(競技:野球)

バレーボールにおけるマルチスポーツを考える

ここまで、一般的なマルチスポーツに取り組むことの重要性やマルチスポーツに親しんできた一流アスリートの紹介をしてきました。ここからは、特にバレーボールにおけるマルチスポーツについて少し深掘りをしていきたいと思います。

意地悪な学習環境にあるバレーボール

過去に本メソッド(バレーボールにおけるLTAD#3)でも触れましたが、バレーボールは早期に専門特化すべきでない領域、つまり子ども時代にマルチスポーツに取り組むことが特に有効なスポーツであると言えます。

デイビット・エプスタイン氏は『RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる』の中で、あらゆるキャリア形成(仕事やスポーツなど)において早期に専門特化すべきである領域と早期に専門特化すべきではない領域が存在すると述べています。
そして、その領域が親切な学習環境か、それとも意地悪な学習環境に属するのかによって専門特化すべき時期が決定されると主張しています。

親切な学習環境とは、ルールが明確かつ厳格で、同様のパターンが何度も繰り返され、成否のフィードバックが正確に即時的に提供されるような環境と言えます。具体例としてはゴルフやビリヤードといったものが挙げられます。

これに対して、意地悪な学習環境とは、状況が刻一刻と変わり予測不能な出来事が常に起き、同じパターンを繰り返すことが少なく、成否のフィードバックにも曖昧さが残ってしまうような環境と言えます。

バレーボールはまさにこうした学習環境にあるスポーツの代表だと言えます。こうした学習環境では、子ども時代に様々なスポーツや運動経験を通じて、自分なりの解決方法やスキルを獲得していくことが重要とされています。これらは一見非効率に見えるような学習プロセスにも感じますが、意地悪な環境においては、様々な体験や知識の「幅」を拡げることが長期的な視点での成功には不可欠なのです。

幼少期からでも始められるバルシューレ

本格的にマルチスポーツに取り組み始める前段階として推奨したいのがバルシューレと呼ばれるボール運動プログラムです。これは、ボール・ゲームを中心とした運動プログラムとして,ドイツ・ハイデルベルク大学スポーツ科学研究所のクラウス・ロート(Klaus Roth)教授によって開発されたもので、ボール・ゲームをプレーする上での土台となるコーディネーション能力や汎用性のある運動スキル・戦術をバランスよく学習することができます。スポーツに取り組むことがまだ難しい幼少期からでも楽しみながら取り組むことができ、将来バレーボールをプレーするための土台作りにも非常に有効なプログラムだと言えます。

スポーツだけではない多様な経験の重要性

最後にバランスのとれたアスリートを育成していくためには、スポーツだけに取り組むのではなく、スポーツ以外のことを学ぶ時間や文化的な体験、家族と過ごす時間、趣味の時間、友達と遊ぶ時間などもとても大切であることを強調したいと思います。

プレーヤーのバレーボールのスキルを向上させ、試合に勝利することだけを考えれば、上記で挙げたような時間の使い方は短期的に見て無駄にも見えるかもしれません。

しかし、プレーヤーの人生という長期的な視点にたってみると、こうした時間を過ごすことが将来的に人間としてもアスリートとしても成熟していくためには極めて大切なのではないでしょうか。そして、こうした時間がプレーヤーの人生の豊かさや幸せに繋がるという事実も決して忘れてはいけないと思います。

▶︎雑賀雄太のプロフィール

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バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。