そして、私は母となった。中編
このノートには、出産する前日から当日の記録が残されている。私にとって人生で一度きりとなった、生命誕生の神秘的な時間の記録だ。
そんな風に表現すると、表紙のボッティチェッリ「ヴィーナスの誕生」が妙にマッチして、中身のハードルをあげてしまいそうだがまんざらでもない。
殴り書きの文字はリアルということで、多めに見て欲しい。ヴィーナスだって、切羽詰まったらきっとこんな字だ。
これから母となろうとする人、母となり多くの経験を積まれている人、母だった時間を懐かしむ人、そして母を想う人。色々な人を想像しながら、とある35歳の女性が母になる直前のページをゆるりと綴る。
出産直前に発覚、マジ!?へその緒が首に巻き付いている!編はこちら。
11月9日(火)出産予定日だった日の夜
へその緒を首にまきつけた胎児と共に、母と主人と予約していた徒歩3分の焼き肉屋さんへ向かう。
何かの拍子に解けてくれないものかしら。
気になるお腹もさすりつつ、
ジュウジュウ、パクパク。ジュウジュウ、パクパク。
相変わらず、美味い。
完、食。
出産の兆候はこれっぽっちも、ない。
「でもまあジンクス通り、陣痛くるかもね。」
と言い残し、今日は産まれそうもないなと確信した母はホテルに戻った。
どうにかして、へその緒を解いてもらわねば・・・
やり方分かるかなあ。
満腹でさらに大きくなったお腹をさすりながら、お腹の様子を探る。
「がんばれ!やればできる!・・はず。」
まだ見ぬ我が子にひたすら念を送る。
11月9日(火)21:00頃 ヤバい!歩けない!
もしかすると陣痛がきたりするかも~
帰宅してからは、部屋でお腹のさすりながら解け具合を想像していた。
トイレでもいこうかなー
(妊娠後期の妊婦は頻尿である)
その時だった!
痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃいーーー!!!
象のように浮腫んだ足に電気が走り、崩れ落ちるように座り込む。
(妊娠後期の妊婦は足が浮腫むのである)
今まで経験したことのない感覚。
自分の足が自分の足でないような、
ピリピリしていて立つことすらできない!
一体、全体、これ、何ですのーーーーーーー!!!
その時のノート。
ほとんど覚えていないけど、なんだか辛そう。(まるで他人ごと)
20分ぐらい続いてたんだ。(なんか左足が疼くわ)
今思えば、準備が整った合図だったのかな???
出来れば、別の知らせ方でも良かった。
11月10日(水)いよいよなのか!?どっち!?
お風呂も入って、入院セットも枕元にスタンバイ。
「何かあれば、電話してくださいね」
と病院から言われてるし、
いよいよなのかと感覚も研ぎ澄まされる。
しかし、如何せん初めての事なので「陣痛」の痛みの度合いがよく分からない。波があるし、この痛みの時間を測ることにした。
我ながら、結構冷静なのね。
(この殴り書きの文字は、もうすぐ陣痛が始まる妊婦さんの記録だよ。)
そうそう、途中で電話したんだった。
普通に落ち着いて話もできているし、昼間の診察で子宮口も全然開いてなかったようだから、もう少し自宅で様子見てみようって言われた。
深夜の2時でも優しく電話応対してくれた看護師さんに感謝。
そして、言われたとおり様子を見つつも、
間隔が狭まってきたので、再び電話。
とりあえず、病院に来てもらって様子みましょうかとなる。
待ってました、その言葉。ありがたいー。
ということで、とりあえず病院へ行くことになった。
本格的な陣痛でない場合、一旦帰宅させられる事もあるらしい。
(初産はフライング気味に病院行ってしまうのである)
主人に、朝方到着予定の父と妹が来たら、そこにあるリモアのスーツケースを持って病院に来てもらうように伝えた。
タクシー乗っている間に陣痛きたりしませんように!!!
ドラマの影響って結構あると思います。
巻き付いたへその緒、どうか解けていますように!!!
もう、ただただ願うしかなかった。
無事にするっポンって安産で生まれますように!!!
ポーンって飛び出てくるイメージしまくり。
時刻は、午前4:00すぎ。
妊婦を乗せたタクシーは病院へと急ぐ。
病院まで車で5分。(近い)
タクシーの運転手さんも乗ってきたのが、冷静な妊婦さんだったので、ひと安心した様子。軽い世間話してる間にすぐ到着。
乗車中は不思議とお痛みの波もおさまった。
あれ?もしや一時帰宅コース?
しかし全く痛くないわけでもない。
今から、どうなるの!?
今日産まれるのーー!?
へその緒大丈夫なのーー!?
後編につづく。
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最初は前編・後編で書き始めたんですけど、ノート見ながら綴ってるうちに細かい記憶を思い出したりで。なんとなく3つに分けてみました。
出産って人それぞれ。私は人生で一度っきりの経験になったので、未知なる経験を記したこのノートは宝物です。^^