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儚くて美しい物語り

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儚くて美しい世界ってどうしてこんなに魅力的なんだろう。
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#絵本の世界

赤い金魚と僕の物語り

風が止み、夕焼けが空を染める頃、静かな町の一角に佇む古びた家。 早くに両親を亡くし、姉は嫁ぎ、広い家にただ一人。生きるために生きている。三十路を目前にし、僕は考えることを諦めていたそんな人生について向き合っていた。金魚鉢の前に座り、水槽の中で穏やかに泳ぐ「金魚」に話しかけて。それは、投影していたのかもしれない。金魚鉢で飼いならされる金魚と僕を。 姪っ子がお祭りで手に入れたその金魚は、飼い猫を理由に僕のもとへと託された。とても小柄で泳ぎ方が少しだけ変な真っ赤な金魚。定期的に水

萎花

冬の冷たい風が吹き、 萎れた花がひっそりと佇む。 その姿に何を感じるか そんな問いばかりが響いて仕方ない。 水が足りないのか、 光を求めているのか、 それとも、 希望が欠けているのか。 花の涙のように、 凍てついた空気を切り裂く風、 何が必要か分からない私をどう思っているのか、 ただその花は沈黙している。 冷えた手で触れてみても、 その温もりはすぐに消えしまう。 萎れた花の答えは何か ただ静かに「春は必ず来る」と願うことなのか。 萎花と希望を胸に。 あとがき 雪が

君は舟であり、盾であり、風だった

影のように寄り添う君は いつもそばにいるのに、 僕は顔を上げるたびに目をそらしてしまう。 見えないふりをして、 繕う笑顔を武器にして、 「邪魔だ」と君を見ようともしなかった。 それでも君はずっとそばにいて、 ひっそりとそこにいて、 僕が進むたびに足跡を埋めてくれた。 悲しみの波が押し寄せた夜、 君は小さな舟になり、 僕を静かな岸へ運んでくれた。 怒りに身を焦がした昼、 君は盾となり、 僕を守ってくれた。 孤独に泣いた朝、 君は静かに寄り添い、 涙を拭く風となった。

透明で美しい酸素

静かな水の底で 息をするたびに 身体は静かに浮かび沈み、 透き通るような冷気が 肌に触れては消えていく 世界が遠くに歪んで見えた 水面から零れ落ちる月光が、 私の影を優しく撫でて、 言葉は水に溶け、何も残らない 声を出しても、何も響かない この沈黙の世界で ただ息をしている 光は、この淀んだ水の先に隠れて 冷酷な水を裂いて進むとき その手に掴もうとするのは、見えない夢の破片 全ては指を通り抜けて、消えていった この深い水の中で 私は何を求めているのか 答えのない響きが 

雪が降るガラスの世界

スノードームの中の小さな世界 降り続く白い雪が 静かな奇跡を描く 祖母がくれた小さな宝物 小さな手で何度も振り、 雪を舞わせ、儚い夢を蘇らせた 言葉はなく、ただそこに座り ひとつの世界が広がっていく ガラスの中、舞い続ける雪 あの日の小さな部屋の片隅で 私は静かな美しさを見つめていた ただ静かに、ただ緩やかに 降り積もる白のひとひら その瞬間、永遠を見ていたような スノードームを見つめながら 心はその小さな世界へ滑り込み 雪の中を歩き、木立に隠れる小さな家

青い夜空の輝石

夢に出てきた少年は、とても優しい顔をしていた。 どこかで会ったことがあるような気がするけれど、なぜか思い出せない。 そんな彼が僕に向かって穏やかに微笑みながら言った。 「君は君のままでいいんだよ。」 そのたった一言が心に深く響き、腑に落ちるような安心感が僕を包んだ。まるで心の奥にずっと求めていた答えがそこにあったように感じた。 ふと夜空を見上げると、無数の星がきらめいていた。 「こんなに夜は美しかったんだね」 そう僕が呟くと、少年はそっと手を差し出し、魔法のように

狐の嫁入り

晴れ渡る空にひそやかに落ちる雫 光と雨の境界線、映るは狐の嫁入り 人間に姿を見られてはならない たった一つの掟 姿を見られたなら、その身は霧と化し、 永遠に消え去る運命 風が木々の間を通り抜け、静寂を破ることなく、葉がささやく 湿った大地の香りが漂い、足元の影を静かに包み込む 狐たちは風のように森の奥深くへと逃れ 誰の目にも届かぬ影となる 雨はその秘密を守るため、 細やかな絹の糸がヴェールのように降り続け 全ての悪を洗い流す 日はその力を分け与えるため、 黄

夢の灯を持つリリイと夢を食べるドリアン

リメイク版です 短い動画も制作しました youtubeにて公開しています 併せてごらんください ・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。 夢の灯を持つ妖精リリイと、夢を食べる魔法使いドリアンがいました。 リリイは美しい夢を人々に与える存在として崇められ、ドリアンはその夢を食べてしまう存在として嫌われていました。リリイは人々に希望を与え、輝かしい未来を夢見させ続けていましたが、ドリアンはそんなリリイのことをよく思っていませんでした。 世界ではリ

星々の導き

あのさ、50年後に運命の人に出会うとするじゃない? その時、私たちの心はきっとキラキラ煌めくよね。 恋人かもしれないし、友達かもしれない。 その瞬間、きっと思うのよ——「もっと早く出会いたかった」って。 でも50年後じゃなくて今出会えたら いえ、出会えたことに気付ければ 運命は変わる気がしない? 私の人生に、やるべき使命があるとするなら、 それを今知りたいって思うの。 だから私は変わりたい。待つだけの運命を手放して、 自分の手で未来を掴みにいくって決めたの! 青い夜空を

レンズの先

同じものを見ているはずなのに 写真にすると世界が違った 私の見る世界は現実的で そこにある物が当然映るのだけど 彼女が映し出す世界は、幻想的で美しかった 同じものなのに、儚かった 同じ夏空を見上げては 「キレイな空だね」って言うと彼女は 「私には、ちょっと切なく見える」って答えが返ってくる。 私の目が捉えるのはただの青、 無垢で広がる空が、私の視界にはただの空虚として映る。 けれど、彼女の目が捉えた空は、 夢の中に広がる青さの中に 深い海の底のような静けさを孕み、 それ

逆さまくじら

ある晴れた日、小さな村に住む少女は、一人海辺に座っていました。潮風がそよそよと吹き、波が静かに寄せては返す音が聞こえてきます。太陽は真上から照りつけ、肌をじりじりと刺すようでしたが、少女は気にせずに空を見上げていました。 少女は今日も、何かを待つように空を見上げていました。誰よりも小さな少女はいつも馬鹿にされていました。そんな時は、いつもこうやって海辺に座り空を眺めます。彼女がまだ幼かったころ、世界を旅する船に乗って村にやって来た大きな男の人と出会いました。その出会いが彼女

星に願いを

星に願いを込める少女がいました 少女は体が弱く、長い間家で過ごしていました。窓から外を見るとお友達が遊んでいる姿が見えるので、いつも夜だけ窓を開けました。そして、少女は願うのです「いつかお空に行けたら、お星さまとお友達になりたいな」 ある晩、いつものように窓辺に座って星を見上げていると、部屋が青緑の柔らかな光で満たされました。窓からその光が入ると、小さな星たちがふわりと現れ優しく少女に話しかけました。 「こんばんは、僕たちは星の世界から君を助けに来たよ。」 少女は驚きと

追いかける風

人間は怖い。一昔前、人間の友達が出来た。僕は化けて人間と遊んでいた。冷やかしてやろうと思ったんだけど、すんごく楽しくていつしか友達になっていたんだ。 あの日は風が少し強くって、でも一緒に遊んでいたら突風が吹いて、僕は驚いて耳としっぽが出てきちゃったんだ。そしたら友達がすごく怖い顔をして大人たちを呼んで、僕を追いかけまわしてきたんだ。怖かった僕は森の中に逃げ込んだ。 友達だと思ってたのに、悲しかった。あれ以来人間が怖い。だらか僕は人間にちょっと悪戯をしては驚かすんだ。自分の