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儚くて美しい物語り

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儚くて美しい世界ってどうしてこんなに魅力的なんだろう。
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#人生

赤い金魚と僕の物語り

風が止み、夕焼けが空を染める頃、静かな町の一角に佇む古びた家。 早くに両親を亡くし、姉は嫁ぎ、広い家にただ一人。生きるために生きている。三十路を目前にし、僕は考えることを諦めていたそんな人生について向き合っていた。金魚鉢の前に座り、水槽の中で穏やかに泳ぐ「金魚」に話しかけて。それは、投影していたのかもしれない。金魚鉢で飼いならされる金魚と僕を。 姪っ子がお祭りで手に入れたその金魚は、飼い猫を理由に僕のもとへと託された。とても小柄で泳ぎ方が少しだけ変な真っ赤な金魚。定期的に水

水鏡の空で

どれだけここにいるのだろう。 彼は静かに空を見上げる。 水面に映る空と、自分の姿だけがそこにある。 まるで、世界に彼しか存在していないかのように。 Ⅰ. 時間の檻 風は吹かず、波は立たない。 水鏡の上で、彼はただ時間の流れを見送っていた。 雲がゆっくりと形を変え、太陽が沈み、星が瞬く。 それだけが、彼に時間の存在を教えてくれる。 彼はふと、自分の指を見つめた。 手の甲に触れると、肌の感触がまだそこにある。 生きているはずなのに、死んでいるような気がした。 この場所に来

境界線を引こう

忘れかけた感情が 心の奥で静かに揺れる 交差する思いの中で 誰かの願いを 自分の願いだと信じていた 自信がなかったから 誰かの夢を追いかけることで 自分の価値を探していた でも もう大丈夫 境界線を引こう どこまでが「誰か」で どこからが「私」なのか 期待に応えなくてもいい 君は ただここにいるだけで 意味のある存在だから そして その手に宿る力は 人のためだけじゃなくていい 君のために 君自身のために 使っても いいんじゃないかな あとがき 🌙 「誰かの願い

時が意味をなくしても

もし、僕が不死身になったら それは「時間が意味をなくすとき」だろう。 陽は昇り、沈む。 風は頬を撫で、花を散らす。 世界の針は進んでも 僕の針は止まり、無限の時間を ただ手のひらに余らせる。 愛する人の涙も、 震える声で誓う言葉も、 「さよなら」の儚い響きさえも、 僕にとって、通り雨のように 過ぎ去ってしまうのだろうか。 君が微笑むたびに胸を打つその感覚も、 君の瞳に映る世界の輝きも、 いずれ薄れていくのだろうか。 僕は怖い。 終わりなき時間の中で、 すべてを失い続け

君は舟であり、盾であり、風だった

影のように寄り添う君は いつもそばにいるのに、 僕は顔を上げるたびに目をそらしてしまう。 見えないふりをして、 繕う笑顔を武器にして、 「邪魔だ」と君を見ようともしなかった。 それでも君はずっとそばにいて、 ひっそりとそこにいて、 僕が進むたびに足跡を埋めてくれた。 悲しみの波が押し寄せた夜、 君は小さな舟になり、 僕を静かな岸へ運んでくれた。 怒りに身を焦がした昼、 君は盾となり、 僕を守ってくれた。 孤独に泣いた朝、 君は静かに寄り添い、 涙を拭く風となった。

透明で美しい酸素

静かな水の底で 息をするたびに 身体は静かに浮かび沈み、 透き通るような冷気が 肌に触れては消えていく 世界が遠くに歪んで見えた 水面から零れ落ちる月光が、 私の影を優しく撫でて、 言葉は水に溶け、何も残らない 声を出しても、何も響かない この沈黙の世界で ただ息をしている 光は、この淀んだ水の先に隠れて 冷酷な水を裂いて進むとき その手に掴もうとするのは、見えない夢の破片 全ては指を通り抜けて、消えていった この深い水の中で 私は何を求めているのか 答えのない響きが 

雲一点と鳥一羽

空を見上げれば 澄んだ青に浮かぶ雲が一つ その傍を羽ばたく鳥が一羽だけ 秋と冬の狭間に揺れる風が 頬をかすめるたびに 私の心は何かを見つけたように 静かにときめく 何もない空が語りかける 「ここにいるだけでいい」 鳥の羽音が奏でるように 「何も足さず、何も引かず」 ただそれだけで この日が少し特別に思えた 雲一点、鳥一羽 それだけで 季節の変わり目の不思議な魔法が 私の日常を彩る あとがき 秋と冬のはざまで 雲一つと鳥を一羽 ただそれだけが、なんとも美しく ただそ

夢の灯を持つリリイと夢を食べるドリアン

リメイク版です 短い動画も制作しました youtubeにて公開しています 併せてごらんください ・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。 夢の灯を持つ妖精リリイと、夢を食べる魔法使いドリアンがいました。 リリイは美しい夢を人々に与える存在として崇められ、ドリアンはその夢を食べてしまう存在として嫌われていました。リリイは人々に希望を与え、輝かしい未来を夢見させ続けていましたが、ドリアンはそんなリリイのことをよく思っていませんでした。 世界ではリ

心の温度差

寝てる間に息も、人生も、世界も そして心も停止しますように そう願わずにはいられない 息を止めてみる この世のつながりからの解放を祈って。 体の重みを全身に感じる 私は、世界で一番遅い速度で 目を閉じる そうすれば、おのずと人生も 止まっていくだろう とても辛い時間を乗り越えた先には 何が待っているのかなんてわからないけど ゆっくり幕を閉じるだろう そのまま、世界も止まってしまえばいいのに そうすれば、私が存在する意味も 何もかもが無になって 刹那的永遠を手にすることが

白妙色の想い

白い彼岸花よ、 なぜ君は白く生まれたか? 色を忘れたのか 色なんていらなかったのか その美しさは、 私の心を打つけれど、 白妙色の中に 秘めた痛みを宿しているようだ 色を失った空の下、 君はどうして静かに咲いているの? その花びらは無音で、 私の内側をそっと見つめているよう。 色を忘れた世界で、 君は何を見つめ、 何を思っているの? その白さの中に、 私の心の空虚な影が映り込む 白い彼岸花よ、 どうか教えて、 なぜこの瞬間、 君がこんなにも美しく、 そして切なく感じる

名もない物語を生きる

この物語の結末をどうしようか ハッピーエンドになるのか ビターエンドになるのか 君とならどんな結末にしようか 「君」という登場人物が 僕に与える影響を考えたい 君だからあの結末にしたいって 僕だけがそう願っていたらごめんだけど 君が思う結末と僕が思う結末が もし一緒ならどれほど嬉しいだろう 君が僕を知ってくれたあの日から 僕の物語りはクライマックスで ハッピーエンドを探してる 君と出会う日までの物語が 全てあの日の為にあったのだから もし全てが夢だとしたら、どうか覚め

星々の導き

あのさ、50年後に運命の人に出会うとするじゃない? その時、私たちの心はきっとキラキラ煌めくよね。 恋人かもしれないし、友達かもしれない。 その瞬間、きっと思うのよ——「もっと早く出会いたかった」って。 でも50年後じゃなくて今出会えたら いえ、出会えたことに気付ければ 運命は変わる気がしない? 私の人生に、やるべき使命があるとするなら、 それを今知りたいって思うの。 だから私は変わりたい。待つだけの運命を手放して、 自分の手で未来を掴みにいくって決めたの! 青い夜空を

リアルvsバーチャル

晴れ渡る空を見ていても、やがて雲が覆い、日が沈む。 繰り返される毎日に、ふと思う。 「あぁ、なんで生きてるんだろう」って。 人生は、永遠にリピートされる再生リストのように、 同じ曲が流れ続けては、聞き飽きて苦しむ。 目を閉じて、ディスプレイの光が世界を包む。 触れられない風景と、指先で感じる温もり。 バーチャルの波間で、浮遊する。 ここでは何もかもが可能で、何もかもが不確か。 リアルは孤独と闘い バーチャルは言葉に浸る 知らない誰かの言葉が、僕の孤独を溶かしていくように。

今を咲かせて

「いつか笑える日が来るように」 そうあなたは私に言うけれど、 私には今、この足元の泥の中で 花を咲かせたいと願う瞬間がある。 未来の晴れ間を待つよりも、 今、この冷たい雨の中で私ができることを探したい。 重い雲の隙間に差し込む一筋の光を探すように、 その光がまだ見えなくても、今、ここで 濡れた頬を拭い、震える心を抱きしめて、 私の「今」をどうにかしたい。 止まない雨の音を聞きながら、 私はこの雨にどう立ち向かうかを考えている。 「いつか」は優しい慰めかもしれないけれど、