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取材◆八尾⑤2024/09/26
これは、大阪府八尾市の商業施設「LINOAS」の冬のビジュアルの仕事に際した取材日記である。
冬は八尾空港を描くことになった。八尾空港は国管理空港で、一般の旅客機はおらず、主に報道関係や操縦訓練に使われる小型の飛行機やヘリコプター、自衛隊等が利用している場所だ。大阪で生まれ育ったのに、こんな空港が存在することを初めて知った。
今日はそんな八尾空港へ資料写真を撮りに行く。
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前回、母方の祖父母が八尾に住んでいた件が発覚したのだが、いつも祖父母の代わりに仏花を買いに行っている花屋のお父様も、八尾に住んでいらっしゃったことが判明した。ちょうど前回描いたケーブルカーの近くの駅にお住まいだったようだ。恥ずかしながら祖父が花を買いに行くたび孫の情報を話しまくっていたらしく、花屋のご夫婦は私のInstagramをフォローしてくださっている。私が「いつもの、ください」と言うと、サッと花束を見繕ってくださる気さくな方々だ。
加えて、今度は父方の祖父の知り合いが、八尾空港でパイロットの教官として勤めていたことを父から聞いた。彼は祖父の零戦仲間で、プライベートで自らの操縦により山口へ行く途中で行方不明になってしまったとのことだ。この仕事で関わるまで全くゆかりがないと思っていた八尾だが、自分の周りの人間の、聞いたことのない記憶を知ることができ楽しい。
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八尾空港は、地下鉄谷町線「八尾南」駅から徒歩15分ほどの場所にある。
行く途中、天王寺駅で谷町線へ乗り換えようとしたところ間違えて改札を出てしまい、同じようにアホな乗客に毎日悩まされているであろう雰囲気の駅員に、乗り換え用の紙を書いてもらった。(何故間違えたのかを早口で説明すると、普段使う梅田駅では、御堂筋線「梅田駅」から谷町線「東梅田駅」に乗り換える際に改札を出るのだ。私は阪急ユーザーなので、普段「南森町駅」でも改札を出てから谷町線に乗り換えるし、云々…)
谷町線の車内には、遠足と思われる小学生がわんさか乗っていた。みんな、先生の「乗客の邪魔にならないよう」との命に従い、おとなしくドア横に固まって立っている。学校は、勉強だけでなく集団行動を学ぶための場所でもあるんだと実感した。
途中で停車した駅の向かい側にミャクミャクとコラボした車両がいて、それを見たやんちゃな小学生男子たちが「かーわいっ」「かわい!」と口を押さえながら口々に言っていてかわいい。彼らの「かわいい」という一言にも関西の訛りを感じながら、東京へ行くと、小学生もパツパツのスーツを着てギラついたサラリーマンもみんな標準語で、いつも変にむず痒くなるのを思い出した。
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終点の八尾南駅に到着。
まだ残暑というかほぼ真夏の気温で、気を引き締めて外に出た。私は夏が苦手だ。飛行機は午前中に良く飛んでいるらしいが、今は14:00である。
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さいきん珊瑚の絵を描いていて、参考にと観た映像で珊瑚の調査へ行く人たちが乗っていた簡易飛行機が何もかもペラペラしていて怖かったことを思い出した。小型飛行機やヘリコプターはとても揺れそうだ。
街には学校のチャイムや、ヘリコプターの音が響いている。
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八尾空港への行き方を調べると、下記のブログで行き方が写真と共に案内されていたので、記事をスマホで見ながら歩く。
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ブログには行き方が丁寧に写真付きで掲載されていたのだが、我流で行ったところ、案の定道を見失った。取り敢えず大きな音が延々としている方へ向かってみる。ずっと、ある方向からヘリコプターの爆音が聞こえてくるのだ。
道路沿いに、昔川だったように見える場所が続いていて、ポツポツと遊具が置かれている。形状を見るに干上がった川だと思うのだが、遊具は常設のようだし、これがなんなのか分からない。知っている人がいたら教えてほしい。
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空港の周辺は、住宅と工場が多い。
大きな音を立てる業種にはぴったりの場所だろう。
空港のものと思われるフェンスの向かい側に、平然と住居が並んでいてびっくりした。発着の邪魔にならないよう背の低い建物ばかりで、防音のためか二重になったガラス窓の家も多い。
フェンスに、ちょうど人が入れるくらいの隙間が開いていた。これは中へ入っていいのだろうか?何かの警報がなったらどうしようと思いながら、恐る恐る足を踏み入れた。
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フェンスの先を歩いていくと、大きな道路に出た。聞こえてくるヘリコプターの爆音はまだ遠いようで、滑走路の場所もわからない。フェンスは背の高い雑草に覆われていて、中が全く見えなかった。
いつも街を取材で歩く時、目的地以外も多角的に知りたいため地図を頼らないようにしているが、今日はすでに30分ほど迷っており、暑くてしんどいので観念してスマホのMapを調べた。ただ、空港の地図は広い余白が表示されるだけであまり役に立たない。とりあえず、爆音の響く場所へ近づけそうな道を歩いていくことにした。
夏の勢いのままに雑草がわんさか生えていて、歩道が通れない場所もあり、時々車道を歩く。車も、歩いている人もほとんど見当たらない。
道なりにいくと、遊覧飛行の看板や朝日航空、大阪航空株式会社、共立航空撮影、第一航空株式会社など航空関係の企業の建物が連なって建っていた。
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飛行機が屋根に乗った謎のカフェもあった。飛行機が好きな人は、大興奮する場所だろう。
再びスマホでMapを見て、もしかしてこれは行き止まりに向かって歩いているかもしれないと気づいた。前後に延々と伸びる車道に呆然としつつ、もうここまで来たら行くところまで行こうと思って足を進める。
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途中で建物の陰に入り休憩しながら、ついに立ち入り禁止のところまでたどり着いた。
真横で工事が行われていて警備員たちに怪訝な目で見られながら、到達記念に行き止まりの看板を撮影した。駅からここまで、一度も「おじさん」以外の人間を見ていない。
引き返し、先ほどの飛行機が屋根に乗ったカフェに入ってみるか検討した。
ただ、いつものごとく一人で飲食店に入るのが苦手で勇気が出ない。それに今日はまだひとつも飛行機が撮れていないので、そのまま通り過ぎることにした。
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フェンスの隙間へ戻り、さっきと反対側へ歩く。産業廃棄物保管場所にほていさまが佇んでいた。不気味で面白い。
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周辺に自販機はたくさんあるが、店はほぼない。
工場の間の道を延々と歩く。ここは一体どこなんだ?そして、滑走路はどこにあるのか。空を見上げても発着する飛行機は来ない。暑さで疲れて、だんだん気力がなくなってきた。
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絶対に空港の周辺には居るはずなのだが、相変わらず空港の周りは大量の雑草で中が見えず、陽を遮る陰もない。やっと一機ヘリコプターが来たので、ぼんやり空を眺めた。滑走路は高台へのぼらないと見えないが、工場や住居ばかりで一般人が立ち入れる場所はなく、低い建物ばかりだ。
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気分が後ろを向いてきて、滑走路を描く案を諦めて別の場所にしようかと思い始めた。LINOASの冬のビジュアルは時期的にクリスマス感を出さねばならないのだが、ここには一般人が立ち寄れる施設もカフェもなく、クリスマスのカップルとかロマンには程遠い。この場所を描くなら、周辺の工場の作業員が飛行機を見ながらケーキを食べているとか、農家のおばさんのクリスマスとかがいいかもしれない。そういう人たちにスポットが当たる絵もいいなと思った。
すでに1時間半ほど炎天下を歩き続けていて、何も成果が得られずしょんぼりしていたところ、民家の植え込みに全ての天使の首が取れてしまったオブジェがあり、シュールでツボに入る。
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夕方になるにつれて影が長くなり、工場のそばで涼みながらピクミンブルームをしていると、日が建物の後ろに落ちて急に涼しくなった。
最後の力を出して駅に戻ろうとした時、目の前に先述のブログに載っていた写真の看板が現れた。やっと正規ルートに戻れたのだ!途端に元気が出て、今度は記事に載っている行き方を丁寧に辿って滑走路へ向かう。
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細長い道が工場や住宅沿いに伸びていて、滑走路が見下ろせるようになっていた。ずっと雑草の下から背伸びをし続け、どこからも見えなかった飛行機をやっと見ることができた。嬉しい。地面からおよそ50cmの足元にしか柵がなく、気をつけながら飛行機を見る。
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帰宅時間と重なっているからか、後ろでは自転車に乗った学生や主婦が往来している。
飛行機は頻繁に発着しないため、待っている間スマホを触る。一人なら但だぼうっとしていてもいいのだが、少し離れたところに一眼を構えた自転車のおじさんがいたため、ほんのりと漂う気まずさを濁したかった。
晩御飯を近くで食べられないか検索すると「手作りハンバーグ卵」という店があと1時間で開店することがわかった。タイミングが合えば入ってもいいな…と思い巡らせながら、そのままスマホで現在地を確認。どうやらさっき迷い込んだ行き止まりの道は、2本ある滑走路の中心に食い込む場所だったらしい。
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少しずつ場所に慣れてきて、滑走路の向こうに並んでいる建物をじっくり眺めた。思っていたより飛行機は小さく、写真に撮ると拡大しすぎてボケてしまう。飛行機が来ても速いため写真に写すのが難しく、構造もわからないためどのパーツがなんの役割を果たしているかも判断がつかず、途方に暮れた。
一旦どこかで構造を勉強してから見ないと、LINOASのポスターのB1サイズに耐えられる絵が描けないだろうと思い、今日は「雰囲気をつかむ」を最終目的とすることにする。
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西日がきつく、後ろの工場の建物の影にお邪魔して滑走路を見守る。と、飛び立つ飛行機があった。羽が左右にべボン、ベボンと揺れていて怖い。眉を下げながら見送った。
遠くでヘリコプターがホバリングしていて、上に飛んでは着陸するという垂直運動を繰り返している。操縦訓練だろうか?今日ずっと街で鳴り続けていた爆音はこれだったのだ!じっと見守っていると、突然ヘリコプターが上下運動を辞めて遠くへ飛んで行ってしまった。爆音が遠ざかり静寂が訪れた空港に、工場でかかっているラジオ(おそらくFM802だ)が聞こえてくる。
今日は一回もまともに飛行機が撮れなかった。後日、もう一度来よう。日が落ちて傘を畳むと、両手が空いてかなり楽になった。
夕方の風に髪を煽られながらぼんやり歩く。
いつのまにか空腹も疲れも落ち着いてきたし、一旦次回の自分へ任せて帰ることにした。
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帰宅ラッシュで、周辺の建物から人がワラワラと出てきて一方向へ向かっている。この集団に付いていけば駅に戻れる気がして、Mapを調べずに、工場から出てきたおじさんの後をついていった。
ところが、彼は途中で小さな草原に停めてあった車へ乗り込んでしまった。電車ではなく車通勤組だったのだ!付いてきたのを悟られないよう、「いえ、ここが私の家への通り道なんです」という顔をキープしつつ、そのまままっすぐ行くとすぐ駅へ着いた。間一髪である。
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クーラーの効いた谷町線に座り、今日の日記をスマホのメモにまとめながら帰る。乗り換えた御堂筋線は満員だった。今日は汗をかいたので気を遣う。
スーパーで、白ワインと冷凍餃子を買って帰った。家で飲みながら、飛行機を描こう。