朝日新聞 音楽人File(3)
2009年に朝日新聞に連載した書き下ろし記事その3です。ライブについて。
Saigenji(3)
ライブとは「ハレ」の場
2009年7月22日
写真
Saigenji=安藤由華撮影
ライブとは「非日常」の空間だ、と思う。つまり「ハレ」と「ケ」で区別するなら「ハレ」、祭りに近い感覚が根本的にある、と感じる。そしてライブとは、人前で演奏することが常に緊張感を伴い、オーディエンスの表情を目の当たりにする、という意味で、音楽における最もシビアかつストレートな現場であり、最前線であると思う。
ギター1本担いで、年間150本以上のライブをやっていたのは、大学卒業後の24~28歳ごろのことだ。ちょうど「クラブシーン」なるアヤしげな夜の世界が隆盛を見せていた時期であり、DJイベントやライブイベント、普通のライブハウスやカフェなど、全国津々浦々、ある時は深夜2時や4時ごろまで、暗がりの中で演奏した。もちろん終わったら浴びる程強い酒を酌み交わし、時には1日3本のライブをハシゴすることもあった。出会いが出会いを呼び、様々な場所に出かけ、本当にたくさんの人と会った。
今の僕の音楽の基本は、その「狂ったように」ライブをやっていた時期に培われたものだ、と思う。あの頃は人前に出ていないと不安で、来た話は全部引き受けていた。キツいこともうれしいこともあったけど、ライブとは「ハレ」の場であり、音楽の原点は「人間の喜び」なんだと体で分かることが出来たのは本当に大きかったと思う。
その後シンガポールやパリ、ソウルなど外国の様々な場所で演奏する機会があったけど、音楽が「ハレ」の場であり、お客さんの笑顔が何よりの喜びである、というのは本当に何一つ変わらなかった。そしてそこから広がる出会いの求心力は、それはそれはポジティブなエネルギーにあふれたもので、強靱(きょうじん)な波のように波及してゆく。
僕は音楽とは一種の「大道芸」だと思っている。一見さんの心をつかみ、引き込み、音楽が時間とともに瞬間的に消えてゆく宿命を共有すること、それは音楽の大きな喜びの一つだ、と感じる。僕は大きな誇りを持ってその世界に邁進(まいしん)して行きたいと思っている。もちろん人生の時間すべてを使ってだ。
https://www.asahi.com/showbiz/column/ongakujin/TKY200907220287.html