第四話「各セクションのプロフェッショナル達 その1 編立」
この頃は私、佐藤もサイフクの新しい分野への挑戦とも言える
「キッチンアイテム」の商品開発で頻繁にサイフクへ通っていた。
商品開発メンバーのお一人で、いつも寡黙にメモをとっていたのが田中さん。
声を発する機会はそう多くはないけれど、肝心なところでみんなが
「田中さん、これってできますか?」と聞いていたのが印象的だった。
1人で黙々とやるのが楽しい
———田中さんとこうして向き合ってお話しするのって、
初めてかもしれませんね。
田中:そうですねぇ(笑)。
———田中さん、寒くないのですか?
田中:ああ、冬でも半袖かもしれません。
私のデスクのある1階は、機械がたくさんあって、その熱で年中気温が高めなんです。
———なるほど〜。
———田中さんがニットの業界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?
田中:もともと両親がニット会社に勤務していて、地元ですし、自然とこの道に入りました。最初に入った会社では、当時「ゴルフウェア」ばかり作っていました。ゴルフが大人気だった時代でした。黙々と作業をするのが好きなんです。
「編立」ひとすじ。
———それから30年という事ですが、田中さんは「編立(あみたて)」チームのリーダーじゃないですか。
「編立」は本⽣産前にサンプル商品を作り上げる大事なところで、全てはここから始まるといってもいいところだと、工場見学で学びましたよ!
田中:そんな大袈裟なことではないですが・・・(謙虚な田中さん)
———料理で言うところのレシピ作りと試作の段階です。それが一番面倒で、一番大事(笑)
田中:まず、コンピューター上で「柄」を組み立てます。
コンピューターでニットを編む機械用のデータに直す作業をします。
その上で、「柄」「風合い」などを見るために「小さいサンプル」を作ります。
それから「大きいサンプル」を実際に作ってみます。
難しいのは、「編み柄」と「糸」の相性です。
例えば柄の中に「ジャガード織り」が入る「インターシャ」というもの、これがすごく流行したんです。これは昭和世代の人には懐かしいかもしれません。
アーガイル柄といえばわかりやすいでしょうか?
———わかりやすい!
田中:このように「柄」にも流行があるのですが、最近は無地系が人気です。
———そうすると田中さんのお仕事は楽になるのですか?
田中:そう思われるかもしれませんが、今はさまざまな素材の「糸」があります。また「風合い」も、求められるものが複雑なので、以前とは違った難しさがあります。
また編み機もうちには80台近くあって、それぞれ用途が違うので、途方もない作業になります。
———田中さん、眠れませんね。
田中:一応、1人じゃないので(笑)
チームには9人います。「柄サンプル」を作る人間が5人、「本生産」をする人間が4人。うち1人は新人です。
デザイン画が上がってきたら、糸、納期など営業などともすり合わせながら、次のセクションにつないでいきます。
———新人さんがいらっしゃるなんて、活気ありますね!
田中:それは嬉しいのですが、やはり「経験」がものをいう部分があって、なかなか覚えにくい、教えづらい世界でもあるので、人材育成は大きなテーマです。
田中さんが思う、ニットの現在地。
———30年と言う中でやはり変化は大きいでしょうか。
田中:この業界に入った時は、ある一定のものをひたすら作り続ける、という感じでしたが、今は原料が貴重なので、カットをしたり余分になる部分をいかに減らして、コストを抑えるか、という工夫が必要になります。
それでいて、美しいデザインや素敵な商品にするのは当たり前。
想像力を持って立体的にニットを作って、切る作業をしなくてもいいように「編立」で頑張らなくてはいけないと思っています。
まだまだ挑戦できることはたくさんあります。
そう言って、コンピューターのあるデスクに戻った田中さん。
緻密で細かい作業を感じさせないほど、ほっこりした風合いをニットから感じられるのは、田中さんのような技術者がいてこそなのだと思った。
そして、田中さんのデスクは美しく、きちんと整頓されていた。