しずくが滴って「淡路島」となる平家物語
平家物語・剣の巻では、イザナギ・イザナミによる国産みは次のように始まっています。
第七代伊弉諾・伊弉冉より天の浮橋のもとにて初めて和合の交わりあり。下界なきことを思ひ、天の逆矛をもって大海の底をさぐり給ふ。ひきあげまします矛のしたたり島となる。「あは、地よ」とのたまえば、淡路島と申しけり
これは日本書紀本文の国産み物語の展開とかなり違います。
平家物語・剣の巻でも、日本書紀本文でもイザナギ・イザナミが天の浮橋に立つのは同じです。
この後、天之瓊矛(日本書紀本文による。平家物語では天の逆矛)を使って、下界を探るのですが、その際、日本書紀本文では「底下に豈国無けむや」、つまり、下界に国があるだろうか?と言って探り、滄溟=青海原があると分かると言う展開です。
剣の巻は、矛で大海の底を探ったとしていますが、日本書紀本文では、大海がそこにあるかどうかは、当初は自明の事ではなかったわけです。
また、矛で探ったら青海原があったと述べていて、大海の「底」とは言っていません。
天の浮橋の下に海があることが初めから前提になっており、その海の「底」を探ったと言うのは、日本書紀本文にはない平家物語の記述なのです。
そして、日本書紀では、滴る「潮」が島になったとしていますが、平家物語・剣の巻では、「矛のしたたり」から島が生まれます。「潮」とは書いていません。
海の「底」を探ったので、矛に海底の泥がついていて、そのシズクが落ちて島になったとも読めます。
しかし、平家物語・剣の巻が日本書紀・本文と最大の違う点は、シズクから出来たのが「オノゴロ島」でなく、「淡路島」だと言う点です。
日本書紀本文は、シズクが滴ってオノゴロ島となり、そこでイザナギ・イザナミの男女の交わりが行われて、淡路島等が生まれてきます。しかし、平家物語・剣の巻では、天の浮橋で交わりがあって、シズクが滴って淡路島が生まれたとしているのです。
なお、イザナギ・イザナミが「あは、地よ」と言ったので淡路島と言うようになったとは、日本書紀本文には書かれていません。
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