トロンボーンの口調【毎週ショートショートnote】
駆け出しの声優・松井に、アニメのアフレコの仕事が舞い込んだ。
松井の役は、トロンボーン。
擬人化した楽器たちの学園ものらしい。
松井は、別の楽器を担当する声優仲間に役作りについて尋ねてみた。
「僕はコントラバスだから、なるべく低い声でやってみるよ」
「私はフルートなので、透き通るような声を意識してみます」
「俺はトランペット。とにかくデカい声を出すぜ」
松井は悩んだ。
どんな口調でトロンボーンを演じればよいのだろう。
必死で考えた結果、トロンボーンだけにトロンとした口調で挑戦してみることにした。
収録当日、松井は睡眠不足の状態でスタジオに赴き、精一杯眠そうな声で頑張った。
数ヶ月後、アニメの初回放送が終わると、SNSには、「トロンボーンの口調のせいで、寝落ちしてしまった」という意見が多数投稿されていた。
「さあ、今夜も始まりました。おやすみレディオ。早速数えていきましょう。羊が一匹、羊が二匹…」
その後、松井は睡眠導入ラジオスターとして新たな地位を確立するのであった。