8、あとがき
私の2冊目の短編集を読んでくださり、ありがとうございます。
ここに収録してある7つの短編は私が投稿時代に書いたものでして、
6pのおまけ漫画を除いて、全て投稿済み。
賞を受賞した作品も落ちた作品もあります。
中でも思い出深いのは最初の作品「蝕の日、僕たちは舟に乗り」でしょうか。
つけペンを握りしめ、前かがみになって何時間も漫画を描き続けた私に、
首の激痛が襲ったのは27歳の時でした。
それ以来、漫画を描いては首を痛めることを繰り返し
「もう、漫画家というハードな仕事を自分はできないだろうな。」と思っても
ぼつぼつ漫画を描いて、仕上がった作品はすべて投稿していました。
しかし時間がかかる趣味は、いくら旦那に理解があるといっても肩身はとっても狭いです。
首が少し良くなって描き始めると今度は乳がんが発覚したり
その治療を終えて、また描き始めると、盛大に手を痛めたりと
「もう神様が、漫画はやめろ。と言っているのかもしれない」
と思っていたところでした。
その当時はweb漫画がネットで読めるようになっていた頃で
せめて今まで描いた分くらい、ネットに上げておこうと
「サイ」というハンドルネームで「サイコロン」というサイトを立ち上げました。
ぼちぼち作品をアップしているうちに、ウェブ漫画サイトのアップ主さんとお友達になれました。
それまで全くのぼっちで漫画を描いていた身としては初めて漫画を描くお友達が出来たのです。
「楽しいなあ…」
と、しみじみ嬉しがる43歳だったのでした。
ウェブ漫画も本当に面白く…ある日、好きなサイトを巡っているうちに
たからもも。さんの「星の光、新世界。」という素敵な作品を読みました。
見ると、「ネーム大賞」という賞で大賞を受賞したと書いてあります。
「ネーム」とは、漫画を描く元の段階で、ペン入れなどはしていないけれど
セリフ、ストーリーともに出来上がっている漫画の設計図のようなものです。
私は友人から「あんたは漫画家じゃないけどネーム家だね」と笑われるほど
ネームを書き溜めていました。
気になって調べてみると、ネーム大賞とは漫画家佐藤秀峰さんが主催している
ウェブ漫画サイト「漫画on Web」が行っている漫画賞で、ネームで応募できる賞だということが分かりました。
しかも、大賞の賞金は50万円!
見ると、すごくしっかりした講評も書いてもらえています。
手がまだ少し痛かった私ですが「ネームくらいなら」と、出せそうな作品はないかネームの束を引っ張り出しました。
投稿作品としては、ありえないほど長いページ数の作品ばかりでしたが、
その中で、50ページの「蝕の日、僕たちは舟に乗り」が目に留まりました。
私が一番気に入っている作品だったのですが50pは投稿としてはやや長すぎる上
話の内容も投稿向きでなく、お蔵入りのままだったのです。
…
でも、『星の光、新世界。』に大賞をくれる賞だったら…
もしかして、大賞とまでいかなくても…などと淡い期待が心をよぎりました。
手が痛い時期が続いてバイトもままならぬ当時の私はお金がとても欲しかったのでした。
そのままスキャンして投稿したかったのですが、絵がものすごく古臭い!
賞金を目指すならせめて少しは今風の絵に書き直さないといけません。
話も、見ると粗が目立ちます。締め切りは1か月後です。
そこから一カ月、家事もそこそこにネームを切りなおしてみたら
なんと70pに増えました‼
こんなの、読むほうも大変です。
しかし、何というか、我ながら会心の作になっていました。
久々の作品作りに燃える当時の私は「絶対1ページも削れない!」と思ったのでした。
一ヵ月、毎日描いてはスキャンして仕上げているうちに不思議と手の痛みが引いていきました。
いいリハビリになったのだと思います。
「蝕の日、僕たちは舟に乗り」は、第2回ネーム大賞でありがたくも大賞をいただきました。
そして審査委員であった佐藤秀峰さん、鍋島雅治さんをはじめ
武富健治さん、古泉智治さんから、すばらしい講評をいただきました。
この作品を読んで書き込んで下さった方からの感想も全て読みました。
この時もらった言葉のありがたさは新しいランタンの灯となって、
今でも私の心に灯っています。
話が長くなりましたが…
私が今、漫画を描いているのは
この作品がネーム大賞を頂けたお陰なのかもしれません。
狭い肩身が少しだけ広くなり頂いた賞金から新しいパソコンを買い
新しいランタンと古いランタンをかざし、漫画をまた、描き始めました。
生きていると感じます。
当時のネーム大賞のスタッフさんたちに
心からの感謝を。
2019年12月25日のクリスマス
「築地魚河岸三代目」他の漫画原作で知られる鍋島雅治さんがお亡くなりになりました
私が誰かの作品に対して、言葉を紡ぐときに、鍋島さんが私や皆に果たしたような役割を
少しでも果たす事ができますようにと、願わずにはいられません。
サポート頂いた分は全て制作費にあてさせて頂いております。 Twitterフォローも大感激します https://twitter.com/saicoron2010