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「まぁるい日本 国家安全保障(ビジョン2100)」No5~Ⅰー2:脅威(その1)~
Ⅰ-2 脅威
■全般
国益を追求することを阻害し、国の秩序やシステムの機能発揮に影響を与える要因には、どのようなものがあるか。
危機管理は、通常のルールを超えた事態を予想すること、つまり「考えられないことを考える」ことから始まる。
その要因を国内で生じる脅威と国外で生じる脅威に区分した。
国外で生じる脅威が我が国の安全保障に影響を及ぼす事態になるには、何らかの情勢の変化をともなう。
そこで、多分そうなるであろうと予想する蓋然性の高い情勢を基調となる情勢としてあげ、次いで、その情勢が変化して我が国に脅威をもたらすシナリオを考察した。
ここで列挙したシナリオもまた、基調でしかない。
このシナリオに基づいてシミュレーションし、我が国に脅威を与える情勢を分析する。
情勢が変化する際の兆候(何かが起きるときの兆し、前触れとなる事象)、脅威発生の兆候を把握することが、情報収集活動の焦点になる。
兆候を把握したならば、情勢変化の連鎖を断ち切るため、危機の芽を摘み取り、脅威発生を予防する。
国民生活の“日常”を破る事態に備え、対応手段、事前の対策、処置を用意する。事態が発生した際にはできるだけすばやく対処して、新たな法律を作ってでも、国民の安全と自由な社会生活を回復する。
これを実現するためには、情報を収集、分析、評価して、情報に基づいて安全保障政策を決定する意思決定システムと、それを実行するシステムが必要である。
これについては、統治機構の項で述べる。
脅威は、心理的に認識され、絶対的なものではない。
例えば、冷戦時代でも、ソ連の存在を脅威だと考える人もいたし、そうでないと考える人もいた。
また、ソ連という巨大な脅威が崩壊した途端、ソ連が元気なときには問題にされなかった北朝鮮や中国が、脅威として認識されるようになった。ソ連がなくなったというだけで、北朝鮮や中国に大きな変化が見られない段階から、脅威として取り上げられるようになったのである。
脅威認識は、科学技術の進歩や社会生活の変化に影響される。
インターネットの発達によって世界中に張り巡らされた情報通信網は、生活に必要不可欠なものとなったが、今やインターネットに接続しているすべての人々がサイバー攻撃の危険にさらされている。個人の情報が流出するだけではなく、秘密が暴露され、企業の知的財産が侵され、国の安全が脅かされ、国の組織機能が麻痺させられる恐れが出てきた。
交通網の発達による人と物の移動の迅速性は、世界のどこかで発生した感染症がまたたく間に世界中に拡散し、バンデミックを引き起こす危険性を高めた。
脅威の受け取り方は、人や国によって異なる。
例えば、麻薬の流入に関して言えば、中国ではアヘン戦争の記憶があって非常に厳しく取り締まっている。同じく、アメリカでは、国内の治安維持やパナマ運河通行権確保の問題などと絡んでのことではあったが、麻薬の密輸は戦争行為に等しいと断じ、一九八九年にはパナマに約六万人の軍隊を派遣して対処した。
戦争のとらえ方は、時代によって変化する。
九.一一のテロ以降、それまでは犯罪者として取り扱っていたテロリストの取り締まりは、テロの根絶を目的とした戦争に変化した。世界中が協力して“対テロ戦争”をすることに同意した。
それは、国際的なテロ組織とそれを支援する国に対して、世界中の国が一致団結して対処することによって、国際社会全体に及ぼす大きな脅威を排除するという極めて大きな意義があった。
しかし、以前はロシアや中国で抑圧され迫害されていると見なされ、国際的な人道支援を受ける対象となっていた少数民族の活動は、当該政府に敵対するテロリストの活動として取り扱われることになった。
チェチェンや新疆ウイグルやチベットで人権を抑圧されていた人々は突然、外国から人道支援を受ける立場を失って、犯罪者として扱われるようになった。
これにより、犯罪が戦争になり、非人道的な活動が国際的な戦争犯罪人の取り締まりになり、第二次世界大戦後、混乱のなかで拡張された国家の領域に疑義を唱えることがなくなった。
脅威への認識は、常に変化する。
国にとって何を脅威として取り上げなければならないかは、国益と国民意識の変化に照らし合わせて、常に見直さなければならない。
そのような意味も含めて、国内情勢が安全保障に及ぼす影響を列挙した。
国民の意識や政治家の意思決定に影響を与える目に見えぬ脅威として、諜報活動及び謀略をあげた。
これらは平時に、軍事力に頼らず政治目的を直接達成する手段として、あるいは有事に、戦争の勝利達成を確実にする有効な手段として用いられる。
これらの脅威に対して平時から関心を持って封じ込める努力をしなければ、国民の国家意識を希薄化させ、気付かぬうちに闘う気概を失わせ、戦わずして敗戦の憂き目を見ることになる。
サイバー攻撃の真の脅威は、通信情報ネットワーク・インフラに対する直接的な障害よりも、電子的スパイ行為、遠隔操作、偽情報などによって、諜報活動や謀略という目に見えぬ脅威に結びつくことである。
孫子曰く、「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」であり、「故に上兵は謀を伐つ」である。
■脅威
1 兆候のない脅威(国内で生じる脅威)
(1) 自然による脅威
ア 大規模震災
イ 天候気象関連災害
ウ 伝染病などの疾病
(2) 人為的な脅威
ア テロなど(国際秩序に大きな影響を与える)犯罪行為
イ サイバー攻撃
ウ 交通、情報・通信、電力など、社会インフラ関連事故
エ 原子力関連事故
オ 領域警備事案など不法行動
(3) その他の脅威
ア 諜報活動
イ 謀略
2 兆候のある脅威(国外で生じる脅威)
(1) 間接的脅威
ア 日本に大きな影響を与える地域の不安定化、または紛争
(ア) 中東
(イ) インド周辺
(ウ) シーレーン周辺
イ 同地域での特定の国家の軍事的影響力拡大
ウ 地政学的に重要な地域や米国の重大な関心地域の不安定化または紛争
エ 大量破壊兵器の拡散
オ バンデミック
(2) 直接的脅威
ア 東アジアにおける紛争
イ 日本への攻撃
(ア) ミサイル攻撃
(イ) ゲリラ・コマンドゥ攻撃
(ウ) 着上陸侵攻
a 全面侵略
b 限定侵略