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『最愛なるキミの最期のキロク』


【まえおき】
 親愛なる愛猫の命日に。
 ずっと共にしてきた家族が星になった直後に、
 思いのまま書き綴ったものを
 あらためて記しました。



【13:38】
キミは最期わたしの膝の上にいた。
 

【11:00】
もう呼吸することさえままならなくなった。
小さな鼻で空気を吸うことが難しくなって、
咳き込むように断続的に口を開いては、
酸素を取り込んでいた。
撫でると思い出したように息をした。
わたしは何度も何度も繰り返し歌を歌った。
涙が止まらなかった。
それでも、キミはわたしの膝の上で、
わたしの歌を聴くのが好きだったから、
泣きながら歌い続けた。
音楽が聴こえるとキミの耳や首、小さな手が動いた。
 

【10:00】
明らかに手足に力が入らなくなり、もがくように首や指先を動かしていた。
ずっと同じ姿勢をしていたせいで、関節がかたくなり、
もう立ち上がれなくなっていた。
だからせめて、ずっと家の中で生きてきたキミが
毎日の楽しみにしていた窓から見える景色を一緒に見た。
 

【8:30】
予約していた病院に、病院まで体力が保たなそうである旨を伝えた。
その状態で何か出来ることがあるか訊ねた。
返ってきた応えは予想通りだった。
あとはわたしが決めるしかなかった。
頑張り続けるキミの鼓動が止まるその時まで、
寄り添うことだけを決めた。
お医者さんは、最後に何度も
「いつもいる場所で心に負担をかけずに過ごせるように」
と言っていた。
けれど、5回も引っ越しをし、いつも姉妹猫と居場所の争奪戦をして、
今となっては本能から冷たい場所を求めて這いずるキミにとって、
『いつもいる場所』はいまいち思いつかなかった。
だから、唯一ずっと変わらずに存在し続けた、
わたしの膝の上をキミの最期の場所に選んだ。
 

19年6ヶ月13時間38分。
これがキミと共に生きた刻。
子供のときから一緒に育ってきたキミ。
他の誰よりも共に過ごしてきたキミ。
きっとこれからもキミへの想いは変わらないよ。
どこまでも、いつだって、
一生一緒だ。


親愛なるてんへ

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