弟が変だ。
2017年5月。ひとつ年下の弟が「海外旅行に行ってもいいよ」と言い出した。
弟は大の旅行嫌いだった。
学校の修学旅行以来40年近く、どこにも行ったことはなかった。
弟は独身だったし、それで問題はなかった。
飛行機に乗ったことないんでしょ?
じゃ、パスポートを取りに行こう。
洋服も買いに行こう。
私はなんにも知らないで、ソウル行きのチケットを取った。
よーく考えてみれば、誠に変な話だったのに、まったく気づかなかったが、あれは、弟の考えたお姉ちゃん孝行だったのだと思う。
教訓として、
誰かが今まで絶対にやらなかったことをやり出したら、なにかあるのかも?と思っていいと私は思う。
友達と3人でソウル観光。弟は韓国人と英語でやりとりしたりして、美味しいものを食べて、楽しく過ごしていたが、
最終日に弟はお腹を壊してしまった。
私と友達は同じものを食べて何でもないし、まして胃腸が強い弟なのに、なんでお腹を壊したのかなと不思議だったが、
鈍感な私にはわからなかった。
約一年後、久々に会う弟にあんパンを買ってあげたら、
「もう、胃が痛くて食べられない。葬式はしないで。戒名も要らない」といきなり言うから
「胃が痛いくらいで、バカバカしい」と笑ったが、
「本当に痛いんだよ」と顔も見ずに言う。
午前中だったので、すぐに病院に行った。
胃カメラの検査をしたら
「問題ないですね」と言われて
弟は「え?」と驚いていた。弟は胃になにかのトラブルがあると思っていたようだった。
CTも撮り、診察室に呼ばれた。
「胆管がんですね。腹膜のほうにも転移していて、余命は半年から一年です」
診察室を出たら、父が来ていた。
3人で待合室のイスに座って、ただ、ただ呆然とした。
つづく