「三県境殺人事件」【ショートショート】
群馬県警に通報がはいり、刑事が現場に向かった。
そこは埼玉県、群馬県、栃木県の3つの県の県境が重なる地点、いわゆる三県境で、死体が発見された
当然、各都道府県の警察が出動し捜査を始めたが、捜査権で揉めていた
埼玉「ご遺体の2/3が埼玉なのでウチで引き取ります」
群馬「いえ、凶器と思われるナイフが群馬側に落ちてますので、我々で」
栃木「足跡が栃木側に伸びてますので、栃木県警が捜査します」
三者とも成果を上げなくてはならないため譲らなかった。平和を喜ぶより、事件を取り合う皮肉な世界だと刑事はため息をついた
そこに鑑識から連絡が入る
「被害者のケータイに、しきりにかかってる電話番号があり、市外局番は、千葉県です」
「被害者の身元が判明、神奈川県在住の会社員、、、」
三県でもややこしいのに、千葉県警、神奈川県警も絡み出し、刑事はあと東京かと思ったところで案の定、都内を管轄する警視庁から
「どうやら、先週都内で起きた殺人事件と同一犯の可能性が出てきました。東京に本部をおきますので、各県警も集合するように」
との連絡が、こうなったら、手柄どころではない。
刑事は、48都道府県巻き込んでやろうとフルコンプを目指すことにした
「被害者の出身、愛知県。被害者の祖父母、福島県と岐阜県、被害者の出身大学、大阪府」
次々と地図を塗り潰していく
被害者の仕事は出張が多く、主要都市はすぐ埋まり、取引先に九州のとの繋がりが多く、西側は順調に埋まった。
大学時代、自転車で四国を巡る旅をしていたという情報を刑事特有の足で稼いだ時は、少し喜んでしまった。
そうして、数ヶ月聞き込みを続けると、残すところは、岩手のみとなった。もはや秋田や青森は、あきたこまちをよく買う、りんごが好きという薄い理由で埋めてしまったが、岩手がそんなものもなかなか見つからなかった。
このとき、刑事はもはや何のためにしているのかは忘れ、必死に被害者と岩手の繋がりを探していた。探すというより、連想してこじつけていた。
それから何日も考えていると、そこに犯人逮捕のニュースが
岩手の山小屋に潜伏していたという
「何で気づかなかったんだ。」と刑事は我に帰った。