私がnoteで伝えたい「はたらく」その②祖母の起業力
さて、そんなわけで祖母の住む田舎の小さな村に引き取られ、私は新生活をスタートさせました。最初に感動したのはお米と野菜の美味しさ。そして3食ご飯を食べられる幸せでした。何しろ父親との父子家庭時代は夏休みなどの長期休みは昼ごはんはなく、ずっと1日2食でしたから。
今、子どもの貧困問題がクローズアップされていますが、まさに報道を地でいく生活でした。
ご飯がきちんと食べられるって、本当にありがたいことです。
齢70歳を過ぎて私を引き取ってくれた祖母は、村一番の起業家でもありました。その昔、太平洋戦争が終わり、当時の満州から引き上げてきた祖父母は、生活するために駄菓子屋やアイスキャンディ屋、煙草屋などいろんな起業をしていました。今でいうスタートアップ企業ですね。しかし、あまり長続きはせず、祖父は知人の口利きで東京に大学の講師の職を得て、そこから長い単身赴任生活に入りました。驚くべきことに、祖父はそこそこの収入を得ていたにも関わらず、一切家にお金を入れなかったのです。祖母は子ども達を育てるためにどうしようかと考えあぐね、また起業を思いつきました。
当時、村には洋品店が一つしかありませんでした。しかも田舎らしいちょっとイケてないお店です。独身時代、東京に勤めに出ていたハイカラな(イケてる)祖母は、東京の洋服問屋から仕入れて、村で売れば確実に儲かると思い、当時の最新の衣料品を扱う洋品店を開業しました。しかし、当時の日本橋や神田の衣料品問屋街は一見さんお断り。なんのツテも知識もない女1人、誰もまともに取り合ってくれません。追い払われたり、からかわれたりの日々。それでも祖母は「どうかおたくのいい商品を売らせてください。」と毎日通いつめて、根負けした店の人が少しずつ卸してくれるようになりました。仕入れには自分で大きな背負子を背負い、毎月東京まで電車で丸1日かけて(当時は新幹線や特急電車がなかったので、片道10時間以上かかったようです)通っていました。今のようなスマホもPCもない時代。東京の流行の服が小さな村で手に入るわけですから、たちまち大人気店となりました。
祖父は相変わらず仕送りは一切せず、東京で自由気ままに暮らしていました。絵画を描くことが趣味でそこにお金をすべてつぎ込んでいたようです。祖母は二人の子どもを自分のお店の経営をしながら育て上げました。さらに、70歳まで40年近く続けたお店を畳むと同時に、私を引き取り、私も東京に進学するまで育ててくれたのですから、大正時代の田舎の女性としては、かなりタフネスな人だったのではないかと思います。
私が田舎に住んでいたとき、1時間に2本くらいしか中心地へ行くバスがないような場所で、祖母は運転はできませんでしたから、普通に考えたら、移動は不便なはずなのですが、そこはまったく困りませんでした。なぜなら移動手段として、祖母には控えのアッシー君(古いですね。年代がばれます。いつでも利用できる車を運転してもらえる人、という意味です)が何人かいて、私や祖母が出かける時、よく電話一本で迎えに来てくれたからです。祖母は色々な人にちょっと助けてもらえるお願い事をするのが上手な人でした。
このように行動力のある祖母の背中から私が学んだことは、「女性が自分の生活をしていく糧(仕事)を得ることの大切さ。周囲に協力者を増やすことの大切さ」です。まあ、これは人それぞれではあると思いますが、私の場合、この学びがあったおかげで、その後離婚しシングルマザーになっても、自分を悲観することがなく、様々な助けを得ながら、子どもに必要な教育や海外留学も行かせることができました。
そして、この祖母の洋品店の起業から学んだことは、以下の5つです。
①人の必要に答える。ニーズを探る。(起業でも雇用でも、その現場のニーズにどうしたら答えられるのかという視点がある、ないで仕事の取り組みは大きく変わります。)
③自分の直観を信じる。(これだな、と感じたことや物や人に関してはその直観を大切にしてみる。そこに世間体や“一般的には”といったものを挟み込まずに、自分の直観を信用する力を身に着けるということです。)
④受援力。人から支援してもらえる力を身に着ける。(ひとりで抱えるのではなく、必要なヘルプをしかるべきときにどんどん出す、人の助けを借りることができて一人前ということです。)
⑤借りたカリは必ず返す。(借りたカリ、つまりお世話になったことに関しtてはきちんとお礼をする、「ありがとう」の言葉や、お礼状、などの心使いを忘れないことも社会人のマナーとして大切なこと。)
⑥細かいことは気にしない。(いざ仕事を始めたら、その「はたらく」業務以外の細かいこと、直接業務に関係のないこと、ネガティブキャンペーンなどは気にしない。軸をしっかり持つ、ということです。)
祖母の行動力はすごいし、胆力みたいなものってすごい。現代でも通じるものがあると思いますし、わたしの「はたらく」を作った原点でもあります。
何かみなさんの「はたらく」のヒントになれば幸いです。