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就活に失敗した僕が人外ばかりの害虫駆除業者に拾われた件

ライトノベルっぽいキャラ小説に挑戦してみました。

どうぞお楽しみくださいませ。

あらすじ

就活に失敗し続けていた青年、有栖川 要(アリスガワ カナメ)。彼はある日突然謎の害虫駆除業者『阿久クリーンサービス』に拾われて働くことに。人外の社員ばかりが働くその会社には裏の顔があって……

本文

『害虫・害獣駆除、承り〼。阿久クリーンサービス』
 青錆(あおさび)に縁取られた看板を見て溜め息をつく。ここが僕の就職先になったのは、つい先日のことだった。
 毎日のように届く“お祈りメール”に嫌気がさして鬱屈としていた僕は、この雑居ビルの前で、ここの社長、阿久将生(あくまさき)氏に拾われた。本人は「社長なんかじゃないヨ」と言っていたが、ここが会社である以上、トップである彼を“社長”と呼ぶ他ない。「阿久でいいですヨ。あ、将生でもオーケーです。そっちの方がフレンドリーでいいでしょう?」と言われもしたが、彼の地の底に響くような低い声と、かっちりとオールバックに固められた黒髪に、彫りの深い厳(いかめ)しい顔立ちは、僕を萎縮させるには十分で、当然そんな威圧感のある彼に対してそんな度胸が湧いて出てくるはずもなく、結局のところ“社長”という呼び方を選ばざるを得なかった。
 僕の溜め息の理由は何も仕事に対するものではない。ゼロかと言われればそれは嘘になるが、デミ(人間以外の種族)ばかりであること、いや、それよりもここの従業員が個性的すぎることの方が僕にとっては問題だった。僕は今までデミとの交流をほとんど持ってこなかったし、その上余りにもアクが強い人ばかりなのだ。困惑するのも当然だ。そう言い訳したくなるほどに。
 しばらくぼんやりとそんなことを考えてから、重い足を一歩前に出し、出社の覚悟を決める。
「おはようございまーす……」
ギシギシ鳴る扉を開け、そろそろとオフィスに入った。
「あっ!カナメくん、おはよう」
さらりと揺れる黄金色(こがねいろ)のポーニーテールの向こうから、柔らかい笑顔が僕に向けられる。一番に挨拶を返してくれたのは、ここの電話番と事務全般を受け持っている、獣人の犬童好子(いぬどうよしこ)さんだった。生真面目そうなメガネ姿のイメージとは違い、気さくで優しい人で、その面倒見の良さから僕の教育係を任されている。
「おはようございます、犬童さん」
出来るだけ笑顔で応える。引き攣ってはいないだろうかと気にしたが、犬童さんが返してくれた笑顔でそれが問題ないものであることが分かった。
「ん。昨日はよく眠れた?」
「は、はい。おかげさまで……?」
昨日……入社初日から僕はある案件を任された。もちろん自分独りでこなした訳ではなかったが、しかし始めての仕事なのだからそれなりに憔悴し、昨晩は早めに床に着いたことを思い出す。
「そっかそっか。初日から大仕事だったからね。みんな心配してたんだよ?前の子みたいに一日で飛んじゃうんじゃないかって」
彼女がそう言うのも無理はない。あの時間はそれ程までに壮絶で、筆舌に尽くし難いものだった。僕の貧弱な語彙力では到底表現することは出来ないだろう。
「あ〜、新人くんだ〜。おはよう。今日も若いオスのイイ匂いだね」
 少しばかり上の空になっていると、甘ったるい声が耳に飛び込んできた。振り返ると、ピンク色の髪を耳にかけながら、八重歯を覗かせて妖しく笑う女性の姿があった。
「ランさん、セクハラですよ」
ランさん、と呼ばれた女性。サキュバスを自称する彼女は、佐久間(さくま)ランさん。どうもここの古株らしい。もちろん本人に言うと「年増扱いしないで」と酷く怒られるのだろうから口が裂けても言えない。犬童さんにも釘を刺されている。“彼女に歳の話はしてはいけない”と。佐久間さんは若く見えるがそれなりの年齢らしかった。
「何よ〜。よっちゃんも可愛い男の子は好きでしょ〜?」
「わたしはプライベートと仕事は別ける主義ですから。あとその呼び方やめてください」
「は〜い」
その態とらしく拗ねた表情と身振りは可愛らしく見えたが、やはり年齢を思うと少し残念な気持ちになる。その仕草に惑わされている僕も大概残念ではあるが。
「ごめんね。こんな女が上司で」
「何?今、悪口言った?」
「言ってませんよ」
「ホントに?」
急に視線がこちらに向けられドキリとする。彼女の妖艶な目付きは、どうにも苦手だった。
「は、はい。何も……」
「ふふ。新人くんが言うなら、そういうことにしといてあげる」
「あー、もう朝からうるさいですねェ」
 声の主は、先程まで開いたハードカバーの本を顔に乗せて転寝をしていた社長だった。
「今日は暇なんですから、皆さんゆっくりのんびりしましょうよ」
トップに立つ人間とは思えない言葉が飛び出すが、ほかの従業員からすれば慣れっこなようで、ともすれば無礼にも見える態度で言葉が返された。
「ボス、ちゃんと営業かけてます?」
優しい口調ながら、皮肉を交えて声をかけたのは昆虫のデミの大草マミさんだ。緑色のショートボブに大きな丸メガネ。彼女はともすれば地味にも見える大人しそうな容姿や佇まいとは裏腹にかなりのやり手らしく、入社して二日目の僕から見ても、その仕事ぶりは尊敬せざるを得ないほどのものだった。だから、返された言葉にも納得がいく。ごもっともすぎる言葉だった。
「失敬ですねぇ。ちゃんと見えないところでやってるんですからね?」
しかし社長はそれも意に介さずといった様子だった。これもいつも通りの光景なのだと気付かされる。この会社は本当に大丈夫なのだろうか。胸の内の疑問がより明確になるが、口には出せない。いつか僕もこんなふうになってしまうのだろうかと、不意に思った。けれども新入社員という立場故に、ただそのやり取りを眺めているだけではまるで給料泥棒のようで気が引けた僕は、引っ込みかけていた言葉を口にした。
「あの、何かやることって……」
「ああ、いいよいいよ。適当に寛いでて。今は特にやることないし」
犬童さんが答える。しかし特にやることがないと言われてしまってはどうすることもできない。昨日のように急に仕事が舞い込むことがあるとはいえ、やはりこの状況は居心地の良いものではない。
「有栖川クンは勤勉ですねぇ。良いスタッフをスカウトできて幸運でした」
そんな心中を見透かしてなのか、見るからに困った様子の僕を見かねてなのか、社長がフォローを入れてくれた。……やはり掴み所のない人だ。そう思った。
「カナメくんを見つけたのはわたしですけどね」
「おっと、そうでした」
「え、でも僕はこのビルの前で社長に声をかけられて……」
「ああ、それなんですけどネ、実は前からチェックはしてたんですヨ。キミ、ここの前をよく通っていたでしょう?面白そうな子が居ますよって、教えてくれたのが犬童さんなんです」
目をつけられていた、という言い方は少し失礼かもしれないが、そう感じてしまったのだから仕方がない。しかし“面白そう”という言葉の意味はよく分からなかった。僕をからかっているのかとも思ったが、犬童さんはそういう人ではないことは、入社して間もないとはいえ、知っているつもりだ。その意味を聞こうとして開きかけた口は、割り込んできた声に遮られた。
「それはさておき、佐久間サン、アナタいつまでそのキャラ通すんです? 正直イタいですよ?」
そう、佐久間さんはあくまでサキュバスを自称しているだけで、実際にはサキュバスではない。どうやら人間でもないようだが、それを聞いたときにはどう反応していいものか分からず、だんまりを決め込んでしまったが、その疑問は続けられた言葉によって解決した。
「だってこの方がヤリやすいんですもん。薬盛っても言い訳できますし」
ああ、この佐久間ランという人は欲望に忠実な人なのだなと、よく分かった。想像以上にストレートに過ぎる理由に、困惑すらも出てこない。ただ納得するしかなかった。
「だったら余計にここではやる必要ないよね?」
「というか、普通に犯罪なのでは……」
「合意の上ですよ~?」
「多分有栖川くんの言ってるの、そっちじゃなくて薬の方だと思うよ」
「そうなの?細かいことはいいじゃない。私も相手も好きでやってるんだし」
「先輩も、一回してみます?」
「ワタシはそのあたり困ってないので」
「そうですか。残念」
髪を耳にかけて、佐久間さんは軽く目を細めた。会話の途中でも何度か繰り返されたその仕草は彼女の癖らしい。いや、もしかするとサキュバスっぽく見せるためにやっているのかもしれないが、特に気にする必要もなさそうだった。
 そんな中、社長は唐突に犬童さんの方へ体を向けて話を振った。
「そういえば同人誌の方は進んでます? 最近イベント中止続きですけど、新刊は出すんですよネ? ワタシ、楽しみにしているんですヨ?」
「あのジャンル、最近風当たり強いみたいだけど大丈夫なの?」
「あー、なんか獣人の団体がうるさいらしいですね。同じジャンル描いてる子にもどうする?って言われちゃって。描いてる私も獣人なんだけどなあ」
 犬童さんは趣味で同人誌というものを描いている。ショタケモというジャンルで、その界隈ではそれなりに有名らしい。社長になぜか初日からそんなことを教えられた。個人情報を暴露された彼女は憤慨していたが、そんなものはどこ吹く風で、社長は飄々としていた。僕は当然戸惑うしかなかったのだが。
「好きなもの描けば良いんじゃな~い?」
「あ、その口調うざいのでやめてください」
「えー? いいじゃな~い。そうだ! 次の新刊、サキュバスものってのはどう?」
「イヤです。私はショタケモしか描かないって決めてるんで」
「だからー、サキュバスと絡ませるのよー」
「はあ……」
「資料があった方がイイでしょう?ほら、新人くんとアタシがモデルになってあげるから。ね? 新人くん?」
「え?いや、僕は……」
「ランさん、セクハラですよ。それも相当酷いです」
「確かにカナメくんは見た目は少し幼いですけどショタって感じではないですし、大体獣人じゃないですから」
佐久間さんのセクハラを咎めたと思いきや、内心満更でもないのかと思う素ぶりで犬童さんは続けた。コレだってセクハラなんじゃないかと思ったが、僕は閉口するしかなかった。
「ダメなの?」
「ダメです」
上目遣いで尋ねる佐久間さんに犬童さんが有無を言わさずと言わんばかりに食い気味で答える。
「新人くんもダメなの?」
「ダメです……」
僕も犬童さんと同じに答えた。
「あら、残念」
やはり態とらしく拗ねた態度で、佐久間さんは頬を膨らませた。

「そういえば、大草さん。旦那さんの話、最近聞かないですけど、何かありました?」
「……え?」
 自分から話を振っておきながら、さも退屈そうにしていた社長の次の標的は大草さんだった。どうやら退屈凌ぎの気紛れに過ぎないらしかった。社長らしいといえば、そうなのかもしれない。黙々とパソコンに向かって何やら作業をしていた大草さんは、突然に話題の中心にされようとして、当然というか、驚いた様子で気の抜けた声を漏らした。大草さんは所謂新婚さんで、かっこいい旦那さんがいるらしい。「マミちゃんの旦那じゃなかったら寝取ってたのに〜」とは佐久間さんの弁だ。それはともかくとして、どうも最近は旦那さんの話をしていないらしい。新婚さんだということこそ知ってはいたが、聞いてもいないのにプライベートを教えてくれるこの職場にあっても、まだ旦那さんの話は聞いたことがなかった。
「あんなに惚気話ばっかりしてたじゃないですか」
「い、いや、惚気なんてしてないですよ……!」
少しばかり顔を赤らめながら、大草さんはすぐさま否定する。
「この職場、ほんとオンとオフの壁が無いっていうか、パーソナルスペースに土足で上がり込んで来ますよね……」
すっかりこの職場の空気に馴染んでしまったのだろうか。うっかりそんな言葉が口を衝いて出てしまった。
「新人くん、そろそろ慣れた方がいいわよ? アタシが教えてあげよっか~?」
「あ……いえ……結構です……」
いつもの仕草で佐久間さんが僕に声をかけるが、適当な返事をする。なんだか佐久間さんのあしらい方まで慣れてきた気がする。案外、僕の適応能力はそれなりに高いのかもしれないなどと自惚れてしまいそうになるが、すぐに否定する。だったらここまで就職に苦労することもなかっただろうから。
「ちぇ〜。ノリ悪いなあ~」
僕と佐久間さんのやりとりを横目に、問い掛けの中身には一切触れようとしていない大草さんに、社長は尚も声をかけ続けていた。
「で? どうしたんです? 悩みごとあれば聞きますよ? 一応私も既婚者ですし」
「えっ⁉︎ そうだったんですか?」
話したがらない大草さんを見かねてか、単純に興味が湧いただけなのか、その真意はよく分からないが、犬童さんは態とらしく驚いていますと言わんばかりの声をあげて割って入った。
「あれ?言ってませんでしたっけ? かわいい奥さんいるんですヨ、ワタシ。写真、見ます?」
「見たいです見たいです!」
「本当に見たいですかー?」
「見せてください!」
「どうしてもー?」
「じゃあ良いです」
「いや、そこはノってくださいヨ。はい。これが私の奥さんです」
犬童さんとの茶番の後、ジャケットの胸ポケットに手を入れると、彼は一枚の写真を取り出した。その場にいる皆がそれに注目した。その写真には、細めた目の端に届きそうなくらい口角を上げた阿久社長と、その奥さんと思しき異形の姿が写っていた。赤黒い肌に手足にあたるであろう無数の触手。背から伸びる刺々しい一対の翼。ヤギのような頭部には食虫植物のように裂けた口とその両端の口腕。その顔面に目にあたる部分は見当たらず、おおよそかわいいとは言い難い姿だった。
「……想像はしてましたけど、やっぱり悪魔なんですね」
「当然」
社長は然(さ)もありなんといった表情で答える。
「かわいい……んですか?」
「かわいいでしょう?」
社長の声には少しばかり威圧感が滲んでいるように感じられたが、思わず本音が出そうになる。
「そうは見えな……」
「かわいいです! かわいいです!」
言いかけた僕を、犬童さんの声が遮る。
「そうでしょう? 自慢の奥さんです」
気を良くしたのか、社長は写真の中の彼と同じ笑みを浮かべた。
「いや、私の奥さんのことはどうでもよくてですね」
しかしすぐさまいつもの表情に戻り、未だ答えられていない大草さんへの問いを繰り返した。
「で、結局のところ、どうなんですか? 上手くいってないとか?」
「あぁ、えっと、まあ、そんなところです……」
まるで誘導尋問のようであったが、繰り返しのやりとりに折れたのか、大草さんは重い唇を開いた。
「なんだかずっと一緒にいるせいなのか……同じ人間とは思えなくなっちゃって……」
なかなかに深刻な答えであった。夫婦の実態というものがよく分からない僕には、その中身は検討もつかなかったが、しかしそれが重大な悩みだということは日を見るより明らかだった。
「貴女そもそも人間じゃないでしょう」
「そういう意味ではなくて……」
「どうも気持ち悪くなっちゃったり、今までの夫と違うような気がしてしまって……」
大草さんのその言葉に、一呼吸置いて社長はその表情を緩め始めた。それを見て佐久間さんもハッと何かに気付いて、同じように目を細めた。二人を除いた僕たちは、その真意が分からずに戸惑う。堪らず大草さんが声を発した。
「え? 何ニヤニヤしてるんですか?」
「ん? いやぁ、ねェ?」
「え? え? なんですか?」
「あれ? 皆さん分かりません?」
社長の問い掛けに誰も答えなかった。佐久間さんだけがくすくすと笑いを堪えている。
「え? 何なんですか?」
「いや、これ言っちゃって良いんですかネ?」
「えっと、なんですか……?」
話題の中心、そしてこの答えを一番求めているであろう大草さんは、意を決した様子で社長に回答を求めた。
「多分ですけど、貴女、妊娠してますヨ。おめでとうございます」
オフィスが一瞬静まり返る。答えが分からなかった三人で顔を見合わせ、殆ど同時に笑顔の張り付いた二人に向き直る。そして一同の目線は大草さんの方を向いた。
「えっ⁉︎ そうなんですか⁉︎ おめでとうございます!」
「え? いや、いやいや、そんな、検査とか、してないですし」
気の早い祝福の言葉に、大草さんは戸惑いを隠せない様子だった。それも当然だろう。この場にいるほぼ全員が驚いていたのだから。
「まあまぁ、どっちにしろ診てもらった方が良いと思いますヨ。大切な従業員ですからね。何かあっては困りますから」
仕切り直し、とでも言うように、ポンと手を叩いてから、社長は大草さんにそう告げると、今度は僕たちの方に向き直り、
「というわけで、今日から外の仕事は大草さん抜きでお願いしますネ」
と言った。大草さんを除く全員がしっかりと頷く。僕も一緒になって頷いた。
「え、でも……」
急な通告に大草さんは戸惑い、納得いかないようだった。
「ダメだよー。お腹に赤ちゃんいるんだからー」
「でも、まだ決まったわけじゃ……」
「ああ、そうそう。ご飯はお腹いっぱい食べておいてくださいね。大草サンって確かカマキリのデミでしたよね?旦那さん食べちゃうといけませんから」
社長の突拍子もない言葉に、一瞬驚いたが、すぐにカマキリの習性を思い出す。確かカマキリは交尾の後、出産に必要な養分を番のオスを食べることで補うのだとか。彼の言葉もそれを危惧してのことだろう。しかしながらデミでもそんなことがあるのだろうか? 彼らとの交流はそれほど多くない僕だが、そう言う話は耳にしたことがない。
「食べません……」
「今時、旦那を食べちゃうデミなんて流石にいませんって。ねえ?」
やはり、というか、彼の言葉は冗談の一種らしかった。しかし妊婦であるかもしれない大草さんへの気遣いも感じる、阿久社長らしい言葉だと思った。と思ったのも一瞬で、またも発せられた耳を疑う言葉に、そんな思考もどこかへと追いやられてしまった。
「ワタシ、一度食べられてますヨ?」
彼の言葉で、和やかなハレの様相は一変した。と言っても、当の本人が笑っているので、その空気は暗いものではなかったが。
「え? ……そうなんですか? いや、だったらなんで生きてるんですか……」
「ワタシも一応悪魔ですからネ」
ニッコリと笑いながら社長はそう言った。不気味なその笑い方は悪魔特有のものなのだろうか。そんなことに説得力を感じているのも束の間、社長は話を続けた。
「ウチの奥さん、つい私のこと食べちゃったらしくて。でも目玉が嫌いなんで残してたらしいんですヨ。まあそこからひょっこり再生したってわけです」
「悪魔ってほんとよく分かんない生き物ですね……」
「私からすればアナタ達の方がよっぽど分からないですけどネ」
 阿久社長だけが笑う中、唐突に電話のベルがなった。
「あっ、電話ですよ」
「よっちゃん電話取ってー」
「はいはい。っていうかその呼び方やめてくださいって……」
「お電話ありがとうございます。『アク・クリーンサービス』でございます」
応対をする犬童さんを見ていると、その横では、皆立ち上がって各々準備を始めていた。
「さて、仕事の時間ですかね」
黒手袋をキュッと嵌め、乱れていたオールバックを撫で付けて阿久社長が呟く。その声は先程まで和やかに話していたとは思えないくらいに、低く静まったものだった。その響きに背筋が伸び、身体が強張るのを感じる。他の皆に習って、僕も準備を始めた。
「承りました。直ぐにそちらへ向かいますので、安全なところへ避難してくださいね。それでは、失礼致します」
仕事の受注を終えた犬童さんはメガネをクイっと上げると、僕の方へ向きにっこりと笑った。
「新人くん、今日もよろしくね?」
「あ、は、はい」
「昨日みたいにチャチャっとやっちゃえば大丈夫だから、ほら、肩の力抜いて」
いつもの調子の彼女に、少しばかり緊張が解ける。しかし、今から向かう現場を想像して、兜の緒を締め治す。昨日の仕事の内容を思えばこそだった。
「あ、マミちゃんは出たらダメよー。お留守番よろしくー!」
「で、でも……」
お祝いムードの中で告げられた通り、大草さんにオフィスに残るように佐久間さんが釘を刺す。
「大丈夫だって。外の仕事は久しぶりだけど、わたしも一応経験あるんだから」
「それに、頼もしい新人くんもいるもんねぇ〜?」
「ランさんはいちいちしゃしゃり出なくていいから」
そんな二人のやりとりに、大草さんは少しの溜息と共に、仕方ないなとばかりに眉を下げた。
「よいしょっと。ええと、運転はワタシですかね?」
 身支度を終えたらしい社長が、僕たちに声をかける。彼の横には銃器が詰め込まれた巨大なジュラルミンケースがある。
「さて皆さん、得物は持ちましたか?」
かけられた言葉に応えて、各々手に持った武器を掲(かか)げる。佐久間さんの手には豪奢な装飾がなされた巨大な槍。犬童さんの手には鋭く太い鉤爪のついた籠手。留守番を頼まれた大草さんもいつもの癖か、一対の鎖鎌を持って手を上げている。僕も同様に、武器を手にした腕を掲げた。
「ええ、ええ、準備オーケーですね」
手には小振りなダガーナイフ。昨日から引き続きの、即席の得物。他に比べれば見劣りするが、それでも昨日の仕事は遜色無くこなせたのだから、きっと不足はない。
「それでは」
ナイフの柄を、ガッチリと握り込む。
「仕事にかかりましょうか」
僕たちは車に乗り込み、『駆除』へと向かった。


謝辞

この作品はツイッターで行なった、キャラクター設定を頂いて、それを盛り込んだ小説を書くという企画から生まれました。

お題をくださった皆様と頂いたキャラ設定をクレジットとして表記させていただきます。

紫恒 様

カントキ鷹宮崎 様

Oh!Yeah!健三郎 様

幺幻 様

以上、4名の皆様、誠にありがとうございました。
また執筆に1ヶ月以上かかってしまったことを陳謝致します。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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おまけ

執筆のときに使ったキャラの名前と呼び方のメモ書きです

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キャラシートは頭の中に作ってたのでありません。次からはちゃんとお見せできる状態で作ります。



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