10年ぶりの出逢い(2)
「その前にちょっとタバコ吸ってきてもいいですか?わたし吸うんですよ」
「あぁ、僕も吸うんでご一緒しましょう」
おっと、スモーカーか! これは良い!
実はオレもスモーカーだ。
立ち上がり彼女をエスコートする。
入口を出た傍に喫煙コーナーがあることは、入店時に確認ずみだ。
暮れかかった街並みを眺めながらふたりで紫煙を燻らす。
「最近タバコ吸いは肩身が狭いですよね。どこもかしこも禁煙ファシズムで」
「ほんとですよね。吸えるお店も少なくなりましたね」
この喫煙タイムで距離は一気に縮まった。
いまやスモーカーは少数派。特に女性の場合はタバコ嫌いが多いので、そろってスモーカーであることは親近感を高める大きな要素だ。
お互いにビールを追加し、ピザをつまみながら後半セットを聴く。
来場者は女性ヴォーカルのファンが多いらしく、客からの花束を受け取った歌手がアンコールを2曲歌ってお開きとなった。
終演後も店は続いているので、お互いにハイボールを追加して会話が続く。
こちらの質問に快活な表情で応答してくれるし、オレに少し興味を持ったのか仕事のことなどを質問してくる。そしてお決まりの名刺交換。
名前は〈飯島紗栄子〉。なんと、カタカナ名の会社の社長!小さな人材派遣会社を経営しているという。社名を聞いたことはない。従業員は彼女含めて4人。女性スタッフの派遣がメインの会社だという。人材育成についての講師なども引き受けており、 たまに地方の経営者団体などから講演依頼があるという。
時間は21時を回った。グラスも空いたしピザも食べ終えた。そろそろ店を出る時間。彼女もそう思ったのか「実はこのあと知り合いがやってるスナックへ顔出そうと思うんですけど、もし良かったらお越しになりませんか? タクシーですぐなんです」とのお誘い!
もちろん「ああ、いいですね〜 ぜひ」と快諾。この時点でオレの気持ちはかなり彼女に傾いていた。
たまたま相席になって話をしただけ男を誘うとは…
男についてやり手なのか、それともオレがよほど気に入ったのか、それとも誰にでもそうなのか…ちょっと不思議な女性だ。
話は知的で上手だが、嫌味なところがなく、相槌の打ち方を含めレスポンスがとても良い。
小さいながらも経営者だけあって、マナーも悪くない。
変に男に媚びたようなところもない。
まぁ、オレはよく女性に〈話しやすい〉とか〈感じがいい〉とか言われる。
自慢しているわけではない。
そう心掛けてはいるが、特に無理しているわけでもないし、特別な下心を持ってそうしているわけでもない。
〈苦み走ったいい男〉とか〈ニヒルな男〉を演じようと思ってもできないだけだ。
どうせ明日は土曜で休みだ。少しくらい遅くなっても構わない。
(つづく)
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