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マルエフのプロモーションは全部間違っている
失敗した理由をあれこれ人は詮索するが、成功したものを「もっと成功したはず」と詮索する人は少ない。
アサヒのマルエフは2021年に復刻し大ヒットとなったが、もっとヒットするポテンシャルを持っていたと思う。
敗因は、「スーパードライ」との妙な差別化だ。
おじさんが好む辛口の定番ビールに対し、若者向けにまろやかさが売りの新しいビールに見せたかったのか、マルエフは可愛らしいパッケージデザインをあしらい、新垣結衣が「日本のみなさん、おつかれ生です」と囁けば、業界人が「さすが」と褒め称え、戦略の見事さをこぞって皆が分析する。
商品ごとの差別化は必要だが、正直やりすぎに思う。またはチグハグ。元はキレコクが売りのビールであったのに、まろやかさが強調されてるところも。
マルエフのプロモーションはどこか、大人が大人に使う赤ちゃん言葉に見える。
実際の購買層はわからないが、ターゲットが若者であり女性を意識していることは明白だ。
現実社会で僕のようなおじさんに「お嬢ちゃん、これおいちいから飲むでちゅよ」と言われたら女の子は即通報すると思うが、木村拓哉的イケオジから「お前若いけど大人っぽいから、こっちの方が合うんじゃね」とスーパードライを勧められた方が喜ぶのではないか。
つまり、わざわざ若者に歩み寄る必要はなかったのではないか、ということ。
通称や略語を自ら名乗ってしまうところも粋さを感じない。
「不死鳥のように甦る」というコンセプトからフェニックスの「F」を丸で囲んだ開発記号が由来だが、
(本来は「P」という間違いに気づき、のちにFORTUNE PHOENIXに変更)
マクドナルドの略称が関東と関西で「マック」「マクド」と違うように、呼称は消費者に自由に遊ばせるのがポイントで、おそらくマルエフはサッポロの「赤星」を意識したんだと思う。
1877年サッポロビールの前身・開拓使麦酒醸造所から発売された、日本で最も歴史あるサッポロラガービールの目印、赤い星のマークは、いつしか「赤星」と呼ばれるようになったが、これは決して商品名ではない。
そんな赤星のような位置づけを狙ったからか、赤星との差別化もより考慮し、若者寄りにシフトしたのではないか。コロナ禍で家呑み需要を狙ったこともあり。
マルエフは、今WBCで歓喜している団塊の世代に好まれた、本来粋なビールであった。
アサヒビールなのにユウヒビールと揶揄されるほど落ち目だったアサヒが、復活を縣けて臨んだ第一弾がマルエフであり、第二弾のスーパードライが売れすぎたため第三弾の「Z」と共に影を潜めたが、復刻させるのであれば、スーパードライの兄として、もっと無骨に打ち出した方が良かったように思う。
デザインを一新する必要もなく、スーパードライと兄弟に見える当初のものをベースにアップデートすれば良かったし、新垣結衣ではなく、映画『沈まぬ太陽』のときの渡辺謙さんや、ドラマ『不毛地帯』の遠藤憲一さんのようなイメージ。
USJをV字回復させた、森岡毅さんを筆頭とする株式会社刀が出掛けた、西武園ゆうえんちのリニューアルコンセプトは古き良き昭和だったし、邦画名作の常連『三丁目の夕日』然り、WBCに見る野球人気然り、昭和に根付いた文化の強さは圧巻だ。
それはただの懐古主義ではなく、「良いもの」が昭和にたくさんあったことの証明でもある。
新たなコンセプト商品の開発は大いに取り組むべきだが、それはマルエフじゃなくても良かったのではないか。
そんな、好きになれないマルエフのデザインを睨みつけながら、今日も呑む。
8割の流儀・鷺谷政明
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