チップについて ※マジックをする人へ
今回は伝えたいことがあるのでだいぶ長いです。
しかし、
マジックをちゃんとやっている人、これからプロを目指す人など
必ず読んで頂きたい内容です。
いきなりですが、あなたはチップを払ったことがありますか?
ヨーロッパや欧米などで、例えばレストランやタクシーなどに
お会計とは別に支払われる少額のお金ですね。
海外旅行に行くと、いったい何にいくら払ったらよいのか迷いますよね。
マジックをやっているとお客様からたまにチップを頂くことがあります。
これは嬉しいですね。テンション上がります。
先日MAGICシマにご来店されたお客様から
こんな話を聞きました。
そのお客様が数人で居酒屋に行ったとき、
テーブルにマジシャンがやってきてマジックを披露したそうです。
内容はまぁまぁだったとか。
マジックが終わった後、マジシャンがこう聞いてきました。
『マジック面白かったですか?』
お客様はこう答えました。
「面白かったです。」
(まずどんな人でもこう答えるでしょう。)
それを聞いたマジシャンは続けてこう言ったそうです。
『面白かったならば、それを形でいただきたいのですが。』
お客様は「はっ?」と思ったそうです。
つまりマジックをやった分チップを払ってくださいという意味ですね。
そのお客様はしぶしぶチップを払いました。
そしてもちろん気分は良くなかったと。
最近こういう話よく聞きます。
レストランや居酒屋などで、店舗からは出演料は出ない分
お客様からチップを頂いてそれを出演料の代わりにするという場合があります。
使う店舗側では出演料を払わなくていいし、
マジシャン側でもこういう条件のもと店舗に掛け合えば
入れる可能性が高いということで、
こういうマジシャンの使い方をしている店舗やイベントなどあります。
このタイプのマジックで問題が起きているのです。
最初の質問に戻ります。
チップを払ったことはありますか?
質問に言葉を追加します。
日本でチップを払ったことはありますか?
ほとんどないはずです。
日本にはチップという文化はないからです。
まずチップとは何か?
そこから確認していきましょう。
海外のチップは”サービスの対価”というわけではなくて、
”文化”であり”賃金の一部”です。
チップをもらえるような仕事についている人は、
そもそもそのチップ分も賃金の一部として、
その分給料が少なく設定されています。
つまり海外のチップは、サービスうんぬんより払うのが普通なのです。
一方日本は、サービス料は給料にすでに含まれています。
なのでわざわざチップとして別に払わなくてもいいということですね。
もちろん良いサービスにチップを払うのも全然OKですが、
一般的にお会計以外の料金を払う習慣は日本にはありません。
あと、お金の形も違います。
例えばアメリカには1ドル札がありますね。
これはお札ですが日本円で100円くらい。
これをチップ用でみんないっぱい持っています。
チップの金額は大体お会計の15~20%くらいとのことですから、
レストランで3000円分食べたとしたらチップは400~600円くらいですね。
一方日本では一番小さいお札は1000円です。
いくらでもいいとはいえ、チップ=お札なイメージがありますね。
でも1000円を人にあげるのって、結構悩みます。
正直払いたくはないでしょう?
つまり日本のマジシャンは大前提として、
チップというものが海外と日本では
意味合いが全く違うということを理解しなければいけません。
最初のエピソードに戻りますが、何が問題かというと、
まずチップについて最初に説明していないということです。
だって日本はそういう習慣がないんですから。
マジシャンがテーブルに来てマジックを披露し始めたら、
誰でもお店のイベントかと思いますよね。
それにチップを払おうなんて、
仮にどんなに素晴らしいマジックだとしても思わないのが普通です。
で、後になって『チップが欲しいんですけど。』
なんて言われたら
「えっ、お金払わなきゃいけないの?」
「無料じゃないの?」
となるに決まっているじゃないですか。
勝手にマジック見させられて、
実はそれにお金がかかると後で知らされるなんて、
そりゃーお客様が気分悪くなるに決まっています。
そもそもテーブルマジックではお客様との距離が近いので、
最後にチップを払ってと言われて、
いやだとしても非常に断りづらい状況になりますからね。
結局お客様はしぶしぶ払うことになって
イヤな気分しか残りません。
だからまずチップが必要な場合は、マジックを演じるのも含め、
必ず最初にお客様に許可を取りましょう。ということをこの記事で伝えたいわけですね。
「マジックを披露したいのですが、楽しんで頂けたならチップを頂いてよろしいでしょうか?
いくらでもお好きな金額で構いませんので。」
マジックを見るのもチップを払うのもお客様の自由です。
なので、「マジックは見たいけどお金は払いたくないからいいや。」というのも自由。
マジックを最後まで見て、いくら払うかも自由、
つまらなかったらお金は払わないというのも自由です。
それでも最初にそういう許可を取ったうえでマジックをすることが、
お客様を不快にしない最低限のルールです。
そしてそれを最初に説明をしたうえでマジックを演じれば、
マジックが面白ければお客様はちゃんとチップを出してくれます。
少なくともお客様が気分悪くお金を払うことはないはずです。
そもそもチップが当たり前だと思っているマジシャンが多いんです。
練習した成果を披露しているのだから、
何も言わなくてもその分の対価をチップとして支払ってくれるのが当たり前だと。
確かにプロである以上お金を頂くということは重要です。
でもそれとこれとは話が別です。
普通は出演料の契約をしてからの仕事ですからね。
勝手にやってから金をくれというのは、
ただの押し付けです。
さらにマジシャンも日本で生活しているならチップなんて払ったことないはずなんですからね。
それなのに自分がマジックをやったらチップがもらえると思うのはおかしいでしょ?
テーブルマジックの場合、
環境にもよりますが1テーブル15分くらいでしょう。
そしてちゃんと演じれば経験上お客様1人あたり1000円頂けることも多いです。
でも冷静に考えてください。
僕はお客様からしたら
いきなりテーブルに来た見ず知らずの他人ですよ!
そんな人間に会って15分後に1000円払うんですよ!!
これ、めちゃめちゃすごいことだと思いませんか!!!
1000円で普通にご飯食べられますよ。
お菓子とか結構買えますよ。
ちょっと遠出だってできますよ。
それをこんな僕に払ってくれるんですよ!!
初めてチップで1000円頂いた時、マジックすごいなと思いました。
そしてこれを当たり前と思ってはいけないんです。
お客様がお金を払うことはとっても大変なことです。
そしてマジシャンは、
お客様にとって気持ちよくお金を払うに値する人でなければいけません。
マジックのチップはどちらかというと”おひねり”や大道芸の”投げ銭”に近いものです。
強制ではなく完全にお客様の任意ですが、
お客様は「応援したい!」とか「面白かったよ!」という感情をお金に換えてくれるのです。
ちなみに最初のエピソードのマジシャンは、
使っているカードも汚く、
服装もそれ程きれいではなかったと。
態度も偉そうだったとか。
そんなマジシャンにお金を払いたいですか??
応援したいとか思いますか??
面白かったって気持ちよくお金払えますか?
確かにチップもらったらマジシャンは嬉しいですよ。
でもお客様が不快なチップに、何の意味があるんですか。
実際にマジックをしていてチップを頂けることは多いです。
だからそれが当たり前のように思っているマジシャンがいます。
チップがもらえないのはケチなお客だからだとか、
こんなにマジックしてやっているのになんでチップ払わないんだとか、
全てをお客様のせいにするマジシャンがいます。
それでお客様が不快になってトラブルになるマジシャンがいます。
そんなの全部マジシャンのせいですから!!!!
チップについてちゃんと事前に説明しなければいけないし、
チップを頂いたことに感謝しなければいけません。
チップを頂けなかったら自分のどこがいけないのか考えなければいけません。
仮にチップを頂いても、それは本当にお客様にとって気持ちの良いチップだったのか考えなければいけません。
つまらなかったけど気を使ってチップを払ったということも考えられます。
そう思ったらきりがないけれど、
本当にマジックを楽しんでくれているのかにもマジシャンは敏感にならなければいけません。
これは根本的にはマジックをする人の自覚の問題です。
チップも含め、お客様が楽しんでマジックを見るために
考えてもきりがないくらい考えないといけません。
マジックをしているのであれば、マジックが好きなはずです。
でもお客様は不快な思いをしたら、
その1回の経験だけで全てのマジックやマジシャンのことを嫌いになってしまうかもしれないんですよ!
そんなお客様を増やしたくはないでしょう。
マジシャンは、マジックを楽しんでもらいお金をいただくのが仕事です。
だったらお客様がお金を払っても心から「楽しかった」と言ってもらえるような、
そんな環境つくりをするのも仕事のはずです。
だったら気持ちよくチップ払ってもらいましょうよ。
そのためにマジシャンは頑張りましょう。
”マジックでチップをもらう方法”みたいなモノは少なからずあるし、
僕もたまに相談されるのですが、
その背景にあるマジシャン自体のことについてはあまり触れられていないので、
長々と書かせて頂きました。
それらについて学んだところで、
根本的に理解していなければ
結局不快になるお客様は減らないのですから。
雑文になりましたが、ぜひマジックやっている方はよーく考えてみてほしいのです。
結局マジックも人なんです。
何をやるかではなくて、誰がやるか。
お客様はマジックにお金を払うんじゃなくて、
マジシャン自身にお金を払うんですよ。
最後にこの言葉を。
やっぱりマジシャンである以上この言葉を思っていなければいけないなぁ。
『観客は紳士にだまされるのであれば悪い気はしないものだ。
もし彼らが君をひとりの人間として気に入ってくれたら、
君の演じるマジックも気に入ってくれるよ。』
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