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建築の「GX」はどう進む? これからの業界に不可欠なCDEとは

みなさん、こんにちは、相楽です。この記事をご覧いただきありがとうございます。
私は建築DXやBIMに携わる中で、「カーボンニュートラル」や「建築GX」の重要性を強く感じるようになりました。そこで今回は、建築業界の脱炭素化を支援する“CDE(Common Data Environment)”がどんな役割を果たすのか、考えていきたいと思います。

はじめに

近年、地球温暖化対策として カーボンニュートラル(脱炭素社会) の実現が世界的な課題となっています。日本でも、2050年カーボンニュートラル宣言を受け、あらゆる産業で温室効果ガス削減に向けた取り組みが求められるようになりました。

その中で大きな鍵を握るのが、 建築・建設業界 です。なぜなら、建築物はライフサイクル全体で多くのCO₂を排出しているから。一般的に、建物を建てるとき・壊すときに使う材料やエネルギーだけでなく、建物が使われる間の運用エネルギー(冷暖房や照明など)も含めて考えると、実に世界のCO₂排出量の3〜4割を建築関連が占めているといわれています。

そこで注目されるのが、建築GX(グリーントランスフォーメーション) という考え方です。つまり、 設計・施工・運用・解体のすべての工程でCO₂削減を図り、持続可能な建築物づくりを実現する ということ。それを実行するためには「デジタル技術」と「業界全体の連携」が不可欠です。


建築GXとデジタル化の必要性

これまで建築業界は、他の製造業などと比べてデジタル化が遅れていると言われてきました。設計図面は紙のまま、工事現場では口伝やFAX、エクセル管理などが残っているケースも珍しくありません。
しかし昨今、BIM(Building Information Modeling) をはじめとするデジタル技術の導入が進み、設計から施工、維持管理までを統合して考える「ライフサイクル思考」が一気に広がりつつあります。

たとえば、建物全体の3Dモデルを使い、どの部材をどれだけ使い、どのくらいのCO₂が排出されるかをシミュレーションできるようになったり、実際の工事現場で燃料消費をリアルタイムに計測して記録するようになったりしてきました。

ところが、データを扱う環境(仕組み)が十分整備されていない、という課題があります。部材情報はサプライヤーのシステム、設計情報は設計事務所の独自サーバー、施工時の電力使用量はゼネコンの社内システム…と、データが分断 されてしまうことが多いのです。


そこで登場、「CDE(Common Data Environment)」の役割

この 分断されたデータを一元管理し、誰もが必要な情報にすぐアクセスできる ようにするのが「CDE(Common Data Environment)」の役割です。海外ではBIMを活用した建築プロジェクトではCDEが当たり前になりつつあり、日本でもISO 19650(BIMマネジメントに関する国際規格)の普及とともに、その重要性が認識され始めています。

CDEのポイント

  • プロジェクトすべてのデジタルデータを蓄積・共有
    図面、3Dモデル、見積、工程表、検査記録、IoTセンサー情報などをまとめる。

  • コラボレーション促進
    設計者、施工会社、サプライヤー、オーナーなど、複数のステークホルダーが同じプラットフォームでコミュニケーション・意思決定できる。

  • バージョン管理・履歴追跡
    どの段階で誰が何を変更したのか、きちんとログが残る。

  • 情報セキュリティと権限管理
    見積コストや契約情報など、機密データはアクセス権を細かく設定して保護する。

CDEは、単なる「データ保管庫」ではありません。
複雑な建築プロジェクトを円滑に遂行するための “情報の中核” といえる存在です。


なぜCDEが建築GXに不可欠なのか

1. ライフサイクルCO₂排出量の「見える化」

建築GXでは、建物のライフサイクル全体でどれくらいCO₂を排出するかを算出し、削減策を検討することが重要です。

  • 材料製造時の排出

  • 工事現場のエネルギー消費

  • 建物運用時の電力・ガス使用量

  • 解体・廃棄時の処分

これらの情報を 統合的に可視化 できなければ、どこをどう改善すればいいのか分かりません。CDEを介して設計データ(BIM)やサプライチェーン情報、実際のエネルギー使用量などをつなぎ合わせることで、トータルの排出量 をリアルタイムにモニターする基盤が生まれます。

2. スピーディーな設計変更・材料選定

「もっとCO₂排出を抑えられる材料はないか?」「構造を少し変えて重量を減らせないか?」といった案を検討するとき、従来は複数のエクセルや関係者へのヒアリングを繰り返す必要がありました。CDE上で BIMと建材データベース(EPDなど)を連携 させれば、別案のCO₂排出量シミュレーション が格段に速くなります。

3. 行政・認証対応をスムーズに

カーボンニュートラル達成に向け、国や自治体で ZEB/ZEH制度省エネ法温対法 の報告義務などが強化される流れがあります。CDE上で必要な情報を一元管理し、自動的にレポートを生成 できれば、手続きや認証対応の負担 が大幅に軽減されます。


弊社が目指す「建築GX対応CDE」のイメージ

1. BIM・施工情報・運用データを一括管理

  • RevitやArchicadなどで作られたBIMモデル、施工進捗の写真やドローン映像、建設機械の燃料使用量を記録するIoTデータを 同じプラットフォーム で集約。

  • リアルタイムでデータを見られるため、異なる拠点からも 常に最新の情報を共有 できる。

2. CO₂排出量算定機能との連携

  • 国内外の LCI(Life Cycle Inventory)データベース環境製品宣言(EPD)のデータ とBIMを連動し、使われる建材・部材のCO₂排出量を自動で積算。

  • 設計変更や材料変更をすると、瞬時に排出量の変化を計算 できるダッシュボードを用意。

3. レポーティング・認証支援

  • CASBEEZEB/ZEHLEED などの認証スキームに合わせて排出量や省エネ性能をまとめ、提出用の書類を半自動で生成する機能を提供。

  • 各種行政手続き に必要なデータも、CDE上で整理された状態で出力可能。

4. コラボレーション機能の充実

  • 単にデータをアップロード・ダウンロードするだけでなく、CDE上でコメントやチャット、タスク管理を行い、プロジェクトメンバーがスムーズに意思決定 できる仕組みを用意。

  • 権限管理 を細かく設定し、施工会社やサプライヤーが閲覧できる情報を必要最小限にコントロール。


今後の展望:CDEがもたらす建設業界の変革

建築GXの動きは、これからさらに加速していくでしょう。CO₂削減の規制強化や、省エネ技術・再生可能エネルギーの普及が進むと同時に、建設業界が抱える 人手不足生産性向上 の課題にもCDEが有効だと考えています。

  • データの共有と活用が進む と、ミスやムダが減り、現場の効率が上がる。

  • 設計から解体までの情報を一貫管理 することで、メンテナンス計画やリノベーションも最適化でき、建物の延命や環境負荷軽減につながる。

  • サプライチェーン全体 が同じ情報基盤を使うことで、部材の在庫や廃材のリサイクル状況などもリアルタイムで把握可能になり、循環型社会の構築にも寄与。

弊社は、このような デジタルプラットフォームによるGXの推進 を強く意識し、建築・建設業界の皆さまが「CO₂削減」を経営戦略の柱として取り組めるよう、新しいCDE の事業化を進めています。


最後に

建築業界におけるカーボンニュートラルの実現は、もはや 「やらなければいけない」 という段階を越え、業界のビジネスチャンス としても捉えられるようになっていると思います。
GX対応CDE は、その重要な基盤となるはずです。

  • 「自分たちのプロジェクトでどのくらいCO₂削減効果があるのか?」

  • 「ZEB/ZEHやCASBEEなどにどうやって対応すればいいのか?」

  • 「長期間の運用データを蓄積し、将来の改修や解体まで見据えたい」

こうしたニーズに応えられるCDEこそが、これからの建設業界にとって 不可欠なツール となるでしょう。弊社は、業界の知見と最新のデジタル技術を組み合わせ、誰もが無理なくGXを実現できるプラットフォームを目指します。ぜひ これからの弊社CDE にご期待いただきたいです。

私たちはいつでも、一緒に建築GXを実現していけるパートナーを探しています。興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください!

株式会社サグブレイン CEO 相楽賢哉


用語説明(Glossary)

EPD(Environmental Product Declaration)
特定の製品やサービスが、どのくらいの環境負荷(CO₂排出、資源消費など)をライフサイクル全体で持っているかを定量的に示す「環境製品宣言」のこと。信頼性の高い第三者検証を経て発行されるため、製品選定の際に比較・評価指標として活用される。

ZEB/ZEH制度(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル/ハウス)
建物の断熱や設備の高効率化、再生可能エネルギーの活用などによって、一次エネルギー消費を大幅に削減し、実質的にエネルギー収支をゼロに近づけることを目指す制度。ZEBはビル・オフィス向け、ZEHは住宅向け。国土交通省や経済産業省などが普及・支援施策を行っている。

CASBEE(建築環境総合性能評価システム)
日本で開発された建築物の環境性能評価システム。省エネルギーや資源循環、防災性、室内環境などの項目を総合的に評価し、建物の環境性能をスコア化する。行政の条例や補助金などとも連携している。

LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)
アメリカの非営利団体USGBC(U.S. Green Building Council)が運営する、建築物の環境性能評価システム。省エネ、資源利用、水使用、室内環境などの観点から建物を認証する国際標準で、世界中で幅広く利用されている。

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