「外国会社」の登記義務と訴訟手続きの円滑化
1 外国会社と外資系日本法人
外国会社とは,外国の法令に準拠して設立された会社をいいます(会社法第2条第2号)。
たとえ“外資”であっても,日本の会社法に基づいて設立された会社は,外国会社ではなく“外資系”日本法人です。例えば,カリフォルニア州のGoogle LLCは「外国会社」です。同社が日本の会社法に基づいて日本で設立した子会社「グーグル合同会社」は日本法人となります。
2 日本における代表者の設置と登記義務
会社法上,「外国会社」であっても,日本において継続して取引をしようとするときは,日本における代表者を定め,かつその登記をしなければならないとされています(会社法第817条第1項)。日本における代表者は,日本人に限りませんが,日本に住所を有する必要があります(同項)。
3 日本政府からの登記の要請
令和4年4月15日,「政府、海外IT大手に登記要請 訴訟手続き円滑化」という報道がなされたことは記憶に新しいと思います。
これは,法務省と総務省が連名で,グーグル,ツイッター及びメタ(旧フェイスブック)など海外IT大手48社に対し,海外本社を「外国会社」として日本で登記するよう要請したというものです。
グーグルについては前述のとおりですが,メタやツイッターも日本法人は設立されています。これに加え,「外国会社」たる米国本社についても,これまで怠っていた日本代表者の設置と登記を求めたものですが,これには会社法の遵守のほかに「訴訟手続きの円滑化」という目的もあります。
4 訴訟手続きの円滑化
一般論としてこれらの日本法人は管理や営業などの業務は行っていますが,基幹となる検索サービスGoogleやSNSとしてのTwitterの提供は行っておらず,これらのサービスは,アメリカ本社が行っています。そのため,GoogleやTwitterによって名誉を毀損されたとして訴訟を提起する場合,日本の裁判所に申立ては可能ですが,日本法人を被告とすることはできず,アメリカ本社を被告とする必要があるのです。
実はこれが厄介なのです。
これまでGoogleやTwitterなどのアメリカ本社は「外国会社」として日本で登記されていなかったため,アメリカ本社を東京地裁で提訴する場合,代表者の資格を証する書面(日本では会社の登記)をアメリカから入手し,かつ訴状をアメリカ本社に送達する必要があって途方もない手間と時間がかかるものでした。
そのため泣き寝入りする被害者が多かったのですが,これは,GoogleやTwitterなどの有名企業が,日本で事業を行っているにも関わらず,会社法上の義務である「外国会社」の登記を怠っていたが原因ということもできます。
もし,GoogleやTwitterなどが会社法上の義務を遵守し,日本の代表者を定めた上で,その登記をした場合には,代表者の資格を証明する書面はこの登記で足り(当然,日本で取得できます。),訴状なども日本に居住している代表者宛てに送達すれば良いことになり,日本法人に対する訴訟と変わらないことになります。
法務省と総務省が連名で,グーグル,ツイッター及びメタなどに対し,海外にある本社を「外国会社」として日本で登記するよう要請した意義は,ここにあります。
東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。