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「サガン鳥栖らしさ」について考える

サガン鳥栖らしさについて

サガン鳥栖はJ1昇格後、初めての降格が決まりました。2025年度シーズンは久しぶりにJ2の舞台での戦いとなります。厳しい挑戦ではありますが、目標は当然ながら「1年でのJ1復帰」。その道のりは険しいでしょうが、成績面の目標を掲げつつ、経営陣にはサガン鳥栖の運営環境の改善にも注力してほしいと願っています。

さて、私は鳥栖フューチャーズの頃からこのチームを見守ってきた古株です。1997年3月8日、サガン鳥栖が設立して最初の試合であるナビスコカップ浦和レッズ戦を、感動と興奮の中、スタジアムで観戦しました。サガン鳥栖創設初戦の観客7,021人の中のひとりが私です。

30年近くにわたる観戦の中で、記憶が薄れていく部分もあります。古くから応援しているからこそ、経営難や解散危機といった苦い思い出が増幅されてチーム存続に対して臆病になったり、逆に、その中で見えた小さな希望が時間を経て美化されてノスタルジックな気持ちになったりする自分を感じることもあります。

とはいえ、『昔は良かった』と縋りつくつもりはありません。むしろ、今の環境の方がはるかに良いと感じていますし、過去の出来事を何かの勲章のように語らないようにしなくてはと思っています。ただ、鳥栖スタジアムでは胸を打つような試合があり、それを楽しみに試合当日はワクワクしながらスタジアムに足を運んでた時から比べると、ここ最近は、そういった「試合を見に行きたい」と心から感じる瞬間が少なくなってきたなと感じるのも事実です。

それは試合に勝てない事が原因ではないとは断言できます。
なぜならば、サガン鳥栖はもともと勝てないチームだったからです。

1997年にサガン鳥栖が創設されてから、初めて勝ち越したのは2006年。それまでには、2003年の年間3勝という壮絶なシーズンも経験しました。そのころは、サポーターも少なく、監督や選手たちも身近に感じられましたし、がむしゃらに走る小さな選手たちが、強靭なフィジカルとテクニックでサッカーをする大きな選手たちに全力で立ち向かう姿を見ることに自分の姿を重ねていたのかもしれません。その頃、私は転勤で鹿児島に住んでいましたが、試合がある週は特急「つばめ」に乗って鹿児島から鳥栖まで通っていました。今振り返ると、自分でも驚くほどの熱量だったと思います。

2005年からは株式会社サガンドリームスに経営譲渡され、クラブの運営体制が改善されたこともあり、サガン鳥栖は徐々にJ1昇格を目指せるチームへと成長していきました。しかし、思うように昇格を果たせず、J2設立時の初年度からリーグに参加していたチームの中で、最後までJ1昇格を果たしていないクラブとなってしまいます。それでも、ついに2012年、サガン鳥栖は悲願のJ1昇格を成し遂げました。

J1初年度と3年目には5位という好成績を収めましたが、その後はほぼ毎年、残留争いに苦しむシーズンが続くことになります。それでも、勝利を重ねることが難しいシーズンであっても、選手たちはそのひたむきなプレーで、観る者に明日へ向かう勇気やエネルギーを与えてくれました。どんな状況でも、スタジアムに足を運ぶ楽しみがあったのです。

しかし、そうした過程を経てきたものの、ここ最近は胸を打つような試合が少なくなり、チームに対する陶酔感も薄れてきたように感じていました。サガン鳥栖が好きで、応援したいという気持ちはまったく変わりませんが、試合当日になるとどこか足が向かない自分がいることに気づきました。
その原因を探る中で、
「サガン鳥栖らしさ」を感じられなくなっているのではないかと思うようになり、そして、同時に、「サガン鳥栖らしさ」というものが人によって解釈の異なる概念であることにも気づきました。
そこで今回、良い機会だと思い、自分の中にある「サガン鳥栖らしさ」を整理してみることにしました。もしよろしければ、皆さんの中にある「サガン鳥栖らしさ」と私の考えをすり合わせていただければ幸いです。

サガン鳥栖らしさの定義

これまでのサガン鳥栖の歴史を見てきた中で、また、監督、選手、スタッフの方々が残してきた言葉を通じて、私は「サガン鳥栖らしさ」というものをこのように捉え、解釈しています。サガン鳥栖らしさとは、「クラブの一員としてどう行動するか」という規範であり、以下の言葉に集約されるものだと思います。

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さぼらず、惜しまず、諦めず、
全ては仲間のために、
全てはサポーターのために、
全ては鳥栖のために、
全力で最後までやりきる気持ちと行動。
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この言葉がサガン鳥栖に関わるすべての人々のあるべき姿や振る舞い、そして献身的な姿勢を示しているのかなと。そしてこれは、まぎれもなく坂田先生の思いから始まり、これまでサガン鳥栖に携わってきた方々がさまざまな場面で私たちに伝えてくれた言葉であり、後世に残してくれた大切なギフトだと思っています。

サガン鳥栖というチームを大事にし、仲間と共に戦うひとつひとつの試合を大事にし、ピッチに立つ誰もが何とかしようと考え抜き、走り切り、味方を鼓舞し、相手に一丸となって立ち向かう。そして、その姿にサポーターも呼応し、スタジアムに一体感が生まれ、数々のドラマが生み出されていく。
そこには、戦術や走行距離といった数字では表現できない
「仲間のために」
「サポーターのために」
「鳥栖のために」

という思いが強く感じられる行動があり、その行動から伝わってくる、熱い情熱、ほとばしる気迫、一瞬一瞬の興奮と緊張感、それらを目の当たりにしたとき、勝ち負けに関係なく、サガン鳥栖らしさを心から感じることができるのではないかと思っています。

みなさまにとってのサガン鳥栖らしさとは何か、ぜひ考えてみてください。そして、私がここで述べたものと、みなさまが感じる「サガン鳥栖らしさ」をぜひ比較してみていただければ幸いです。

サガン鳥栖らしさの位置づけ

では、このサガン鳥栖らしさとは、いったい、チーム運営において、どこに位置づけされるのでしょう。

組織運営において、理念、ビジョン、そして行動指針を明確に定めることは重要です。理念は組織の存在意義や価値観を示し、ビジョンはその理念を基に描かれる未来像、そして行動指針は理念とビジョンを実現するための具体的な行動基準を示します。この三つがそろうことで、組織全体が一貫した方向性を持ち、メンバー全員が同じ目標に向かって進むことが可能になります。

サガン鳥栖においても経営理念は既に示されていますが、クラブの未来像を明確に描くビジョンや、日々の行動を具体的に規定する行動指針については、まだまだ十分に示されていないのが現状です。このような中で、「サガン鳥栖らしさ」がクラブ全体の行動や価値観を統一する重要な役割を担っているのではないかと考えます。

「サガン鳥栖らしさ」は、単なるスローガンや精神論ではなく、クラブに関わるすべての人が体現すべき姿勢や価値観を示すものであり、行動指針そのものといえる存在ではないかと考えます。サッカーの戦術や作戦は試合に勝つための可変的な手段であるのに対し、「サガン鳥栖らしさ」は試合の勝敗や状況に左右されることのない普遍的な行動基準としてクラブ全体を支える土台となるべきもので、それを常日頃から体現することで、クラブ全体の一貫性や信頼性を高める役割を果たすのではないでしょうか。

試合中においては、「さぼらず、惜しまず、諦めず、仲間のために全力でプレーする」という姿が「サガン鳥栖らしさ」として体現されます。しかし、それだけでは不十分です。試合外の場面――例えば、練習場での振る舞い、地域活動への参加、ファンイベントでの交流、インタビューやコメントでの情報発信――においても、この「サガン鳥栖らしさ」が一貫して示されることが、クラブ全体の信頼を築き上げ、サポーターとの絆を深める上で不可欠だと思います。

さらに、選手やスタッフが日ごろの生活の中で模範となる行動を心がけることも重要です。スポーツクラブとしての責任は、試合の結果やパフォーマンスにとどまらず、社会の一部として誠実に振る舞うことにも及びます。過去にクラブが直面した問題から学び、再発防止のための具体的な取り組みを行うことはもちろん、日常の中でコンプライアンスを重視し、高い倫理観を持つことが、クラブのさらなる発展につながります。

「サガン鳥栖らしさ」とは、ピッチ上のプレーだけでなく、日常生活や社会との関わりの中で信頼を築き、地域に愛される存在であり続ける事も大事で、その姿勢が、結果的にスタジアムを訪れる人々に感動を、子供たちに夢を与え、クラブとサポーターの間に揺るぎない絆を生み出すのだと思います。

クラブの未来を考える上で、経営理念に基づいた明確なビジョンを示し、それを実現するための行動指針を策定することは、今後の課題であると言えるかもしれません。しかし、既に「サガン鳥栖らしさ」という形で、クラブ全体の方向性をある程度示す基盤が存在していることは、非常に心強いものです。「サガン鳥栖らしさ」を行動指針として位置づけ、クラブ全体で一貫して体現していくことができれば、それはサポーターにとっても地域社会にとっても誇らしい存在となり得るでしょう。

サポーターは、試合中の選手のプレーだけでなく、クラブ全体の行動や姿勢から「自分たちが応援するクラブがどのような価値観を持ち、それをどう実践しているか」を感じ取ります。その結果、クラブの理念や行動と自分たちの価値観が一致したとき、強い共感と一体感が生まれます。それこそが「サガン鳥栖らしさ」が持つ本質的な力であり、クラブとサポーターをつなぐ絆の原点なのかもしれません。

新体制発表会でも、アイデンティティという言葉を多くの関係者が発信されていました。今後のサガン鳥栖が、「サガン鳥栖らしさ」をさらに深く掘り下げ、それを全員で共有する行動指針として明確に位置づけることで、クラブが一貫した方向性を持ち、地域やサポーターにとってさらに愛される存在へと成長していくことを期待しています。

おわりに

「サガン鳥栖らしさ」という言葉には、それぞれの人がそれぞれの考えや物差しを持っていると思います。どんな場面でそれを感じるか、どのように解釈するか、そしてどれほどその価値観を大切にするかは、人それぞれです。それが「サガン鳥栖らしさ」の魅力であり、奥深さではないでしょうか。

私自身も、これまでサガン鳥栖を応援し続けてきた中で、時にうれしい瞬間を味わい、時に苦しい場面に立ち会ってきました。その中で感じるのは、やはり「サガン鳥栖らしさ」を体現している人たちへの強い共感や信頼です。逆に言えば、私も一人の人間ですから、「サガン鳥栖らしさ」をチームから感じられなかった時、発揮していないと感じる人やその価値観に背を向けるような振る舞いをする人には、どうしても共感できず、応援することが難しくなることがあります。それは、サガン鳥栖というクラブを長く応援し、その成長や姿勢を見守ってきたからこそ感じてしまうものなのかもしれません。

2025年、クラブのシンボルプレイヤーであり、「サガン鳥栖らしさ」を体現してきた豊田陽平さんがスタッフとして戻ってきてくれました。豊田さんは選手として、ピッチ上での全力のプレーや仲間を鼓舞する姿勢で、サガン鳥栖らしさを私たちに示してくれた存在です。そして、今後はその経験を活かして、高橋義希さんと共に、クラブの未来を支える役割を果たしてくれることでしょう。彼らのように「サガン鳥栖らしさ」を具現化してきた人がクラブにいることは、これからも私たちがその価値観を大切にしていくための大きな力となるはずです。

だからこそ、新しくサガン鳥栖に興味を持った方々には、ぜひ一度「サガン鳥栖らしさ」とは何かを考えてみていただきたいと思っています。それは、今回私が述べたような具体的な行動指針かもしれませんし、試合中の選手たちのひたむきなプレーや、地域に根差したクラブの姿勢の中に見出せるものかもしれません。何を感じ、どう受け止めるかは人それぞれで自由です。

ただ、その価値観を共有できる方が増えることはとても喜ばしいことです。これまでサガン鳥栖を応援して来られた方や、新しくサガン鳥栖を好きになった方が今回の内容に触れ、「サガン鳥栖らしさ」に共感し、もっとサガン鳥栖を好きになっていただけたら、これほどうれしいことはありません。

サガン鳥栖は、決して大きなクラブではありません。しかし、その中で積み上げられてきた歴史や、クラブに関わる人たちが示してくれる「サガン鳥栖らしさ」には、大きな誇りと価値が詰まっています。その価値をこれからも守り、広げていくためには、私たち一人ひとりが「サガン鳥栖らしさ」を大切にし、それを次の世代に伝えていくことが必要だと思います。

最後に、みなさまそれぞれが感じる「サガン鳥栖らしさ」を大事にしていただければ幸いです。そして、これをきっかけに、クラブへの共感や理解がさらに深まることを願っています。

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さぼらず、惜しまず、諦めず、
全ては仲間のために、
全てはサポーターのために、
全ては鳥栖のために、
全力で最後までやりきる気持ちと行動。
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