僕の裏詠みonリリック one life / the pillows
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「青いはなびらのケシ・・・メコノプシスは、ヒマラヤとかの高山地帯が原産なんだそうです。それはそれは可憐な綺麗な花が咲くらしいんですよね。今は、栽培の方法が色々開発されているんで、難しいは難しいけど、日本でも栽培されているらしいんですよ。やっぱり、長野とかそういうところで」
男は一呼吸をおくかのように、一旦、下を向いたが、そのまま、一気に言葉を続けようとした。
「どうも厳密にはケシではないらしくって、メコノプシスってのが「ケシっぽい」って意味なんだって。とにかく綺麗らしいんで良かったら今度、一緒に見に・・」
・・・しかし、最後までは続けることはできなかった。
オンナが、急に中空を見つめてつぶやいたからだ。
「ケシっぽい・・・でも、ケシではない。ごめんなさい。結局、それは何なのかしら」
男は想定外の女の食いつきに、まごついた。
それは「食いついてくれた」という嬉しさではなく、「え・・そこ?」という逡巡が頭を巡ったからだ。
やれやれ・・・これはどうも、口説き落とすことは難しくなった。
男は鼻の頭を人差し指でそっと掻いた。
オンナは中空をまだみつめている。切りそろえた前髪が妙に艶を感じさせた。
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象徴的繰り返しのギターリフと一歩一歩のように刻まれるビートが一言目を煽る。
「ケシっぽいけれども、ケシではない、青い可憐な花を、
僕はそこで見ていたのかもしれない、さっきまで。
風が吹いてないのにその花が揺れてるとしたら、覚えていないんだけれども・・・それ、僕のため息のせいだと思うんだよ・・・」
という「おいおい・・どうした?」なイカれた独白が始まるこの曲の中で、
一貫して見られるのは、「自由の不自由さ」そして「自己に対しての嘘っぽさ」を見つめる視線だと思う。
決して明るくないボヤっとしたスポットライトが、
ケシっぽいけれどケシではない青い花を照らし、そして自己の足元を照らす。
今、そこにある自らの軌跡の端っこをみつめる。
「・・・・僕はどこをどうやって歩いてきたかわからない」
一人で生まれ、そして、一人で生きていく(誰から生み落とされ、誰のおかげで育つとか・・・そういうのは一旦置いといてください)。
そんな当たり前のことが、当たり前じゃないのは、
他の「一人で生まれ、一人で生きていく」人達と半ばぶつかり合うように、
その道が交差しているから。
また、逆にまるでニアミスすることないがゆえに、客観的に回りの飛び回る姿が視界に飛び込んでくるから。
その様々な軌道や軌跡を見つめる中で、どこまでが「自分」の範囲なのかは、実は曖昧だ。
自分の生きる道は、誰かと共有されている、または、
誰かと自分は、影響を与え合っている・・・という幻想とも事実ともつかない・・・・
そんな目の前の現象を心のどの辺りに据え置き、どこから淡い光を当てるのかによって、風景は変わる。
それは必然的に、どの部分にどれほど暗い影をおとすのかの違いにもなって現れる。
「暮らしの中で、特別な出会いがあるように、特別ではない出会いもある。」
「いやいや、どれもこれも特別な出会いなのさ。」
「O.K.・・・どれもこれも特別なものなどなく、過ぎ去っていく。」
それぞれ、こうしたスタンスをある意味、自由に選ぶことができる。
心で、本能で、理屈で、得る利益により、いかようにでも。
だからこそ、人は迷う。戸惑う。
自由にしてよい、選択してもよい、さぁ、世界は君が作れるのだ・・・という、どこからともない生温い声があれば猶更。(温かい環境は、時に残酷だ)
そんな時、自らを見詰めることで、世界との落しどころをみつけようとする。
「自分が人を押しのけてまで生きる、その正当性はどこにあるのか」
自分が社会から疎外された気持ちになった時や疎外される扱いをうけた時、
(敢えて、または無意識に)、自分自身の内面や欲望への眼差しを伏せてみる。
それも一つの世界の歩き方だ。
だけれど、一旦伏せた眼差しを再び自己に向けるには大きな勇気が必要になる。
そうこうするうちに、世界をみつめる目は少しずつ曇る。
ぼんやりと見える世界。それはとても綺麗でもあり、また、はかなくもあり。
社会に傷つけられたという想いが自己を蝕むのは、そうした時かもしれない。
「自分の輪郭がわからない。」
その時、自らの曇った視界に飛び込む閃光の様な出会いは、
そこから歩き続ける中での大きな道標になるかもしれない。
それは「存在」そのものの「有難み」でもあり、
そういう「有難み」そのものの「存在」でもある。
それこそ、再び自己をみつめる勇気になるのだろう。
内省を止めてしまったことで曇り続ける視界をクリアにする光。
内省に閉じこもることで世界を見据えることを諦めた視界に飛び込む鮮烈な風景。
青い、青い、青い、青い花たち。心に沁み込む青と青と青と、そして青。
蝸牛は、ゆっくりと進む。歩みの後方、粘膜は乾き、そこに彼の軌跡を残す。
重たい鎧は置いてきたよ。ナメクジと呼ばれても、雨に打たれて擦り減るとしても。
歩き続けることができる限り、歩みは止めないよ。君という光が、視界に蘇る。
形のない記憶だとしても。それは蘇る。
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「僕は世界と「訣別」することに決めたのだった。
歩みが止まったら、そこまでが、僕の軌跡で、僕の輪郭なのだから。
世界は、僕のはるか後方にある。
僕の目の前には、青いケシの花が咲いている。
ケシっぽいけれど、ケシじゃない花だろ・・・って?
なるほど。しかし、僕はこう考えるんだ。いいかい?
そんなことは僕が決めればいいことだ。
だって、考えてもみろよ。世界はもう、はるか僕の後方にあるのだから。」
ケシの花は、風に揺れていた。今、ここで。君がほほ笑むように。そっと。