僕の裏詠みonリリック 椎名林檎
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『 同じ夜(1999)/椎名林檎』
『閃光少女(2007)/東京事変』
『キラーチューン(2007)/東京事変』
『自由へ道連れ(2014)/椎名林檎』
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同じ空を明日ははじめてしまう。 例え私が息を止めても。
女は、歌う。
一人でそこに立つ。煽情的に。
しかし、一人でそこに立つようにみえて、
決して、そこにいるのが一人だと感じさせはしないのだ。
その声の奥行をみれば、不思議とたくさんの風景や男の足音が、
近づいてはまた遠ざかるのが見えるのだ。
視界が歪む。光と影のメリーゴーラウンド。
そして、女は歌う。
強い言葉と弱い言葉を舌先に載せて。
その姿をみた男は、思わず、近づいてみたくなるかもしれない。
でも、おい、気をつけろ。
女は、同じ強い言葉と弱い言葉を、その尖った靴先にも仕込んでいるのだから。
その歌う様を、ただ、一定の距離をあけて、見つめるのが一番良い。
きっと、近づきすぎると、その爪先は金的を蹴り上げる軌道を描く。
一生モノの傷が残る。抉られる。
甘美とは程遠い、永遠にもにた苦悶。
しかし、男はまた、
女の強い言葉と、弱い言葉を味わいたくなるのだ。
次こそは・・・と一定の距離を保ちつつ、舌先の言葉を狙う。
そう思いつつも、彼は悶絶を準備する。
そして、女は、
五線紙の上の音符と音符をつないだ、かすがいの様なスラーを流し目で確認すると、
また新しい強い言葉と弱い言葉を用意した。
声にならない、音にならない、言葉にはできない「溜息」と共に。
曲の終わりと曲の始まりを繋ぐような長い溜息と共に。
切り取ってよ一瞬の光を
写真機はいらないわ 五感を持っておいで
女は、歌う。
一人でそこに立つ。煽情的に。
煌びやか、鮮やか、艶やか・・・・だけではない、この世の色の色々。
黒と白を繋ぐグレーや血の色の赤さ、したたり落ちる、土の上に。
それもまた、歌うのだ。
女の目にうつる風景は、次から次に切り替わる。
女は浮世を目に移し、柔らかな甘さも、ハッとさせる厳しさも、
煽るような淫らさも、くるくると舌の上に載せては、吐き出してみせた。
今の瞬間を切り取り、天下独特の感性にさらした後、
ノーバウンドで癇癪玉を投げ込んでみせた。0.5歩だけ時代の先に配置するように。
たった今、世に溢れた熱狂を作り出したのは誰だったか、
音の歪み、一瞬の光、先を示す言葉、敢えてつくる声の揺らぎ。
ジャンヌダルクは誰だったか、
魔女狩りにあう前に、時代ごと、刈り取っていくスタイル。
「今」の煌めきを作り出すのは、「今」ではなく、
これまでに経た世界、風景、
これまでに貢がれた豊かな感性、愛情、
これまでに獲得した自らを信じる強さ、
そうした、これまでを結集させて、火をつけたから。
その輝きは、世の満たされなさというガスの中では一層、強く輝く。
閃光の中心には既に、その姿はみえない。
次の瞬間に・・、次の起爆地点に・・、その時には、既に姿はみえない。
目をこらすと、きっと、足跡だけが残っているだろう。
そして、アウトロが流れていく・・・。
「今日は一度切り」無駄がなけりゃ意味がない
女は歌う。
その世界を謳歌する歌を。
一人でそこに立つ。
時に煽情的に。
しかし、時に無邪気な姿を見せる。
決して一人ではないことを示すように。
一人でそこに立つようにみえて、
決して、そこにいるのが一人だと感じさせはしないのだ。
女がコックを捻ると、
溢れるように格好の良いベースが、彼女を護るように立ち現われ、
おどけるように鍵盤は表情を確かめながら、心地よい音で埋める。
無邪気な謳歌と、煽るスタイルの切り替えを一緒になって切り裂くのが
心優しいギターであり、
一切合切、一体の連動を取り仕切る女は、満足そうな心持ちで、
あえて、唇を尖らせてみせる。
その姿は、
煩悩の数だけ、この世には満たされない思いがあることを示し、
同時に、
煩悩の数だけ、この世に解決策があることを示し、
また同時に、
煩悩の数よりもたくさんの
心を埋めていく、満たしていく、様々な試みへの情熱を示す。
女は歌う。
燃焼させよ、と。
女は拡声器をつかい、こう叫ぶのだ。
燃焼させなさい。完全に。
現代のジャンルダルクは、決して処女ではなく、
決して淫売なのではない。
処女にみせ、そして、淫売にみせる。
その声を世に届ける為に、
ありとあらゆる言葉のエッジを効かせ、
ありとあらゆるエフェクトを使い、
そして、脳に直接働きかけるのだ。
燃焼させなさい。完全に、と。
同じ空を明日ははじめてしまうのだから。
確かめてほら、自由に秒読み
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