拝啓 全国の農家と、農林行政に関わる皆さま【中編】(2/3)
こんにちは。さがみこファーム代表の山川勇一郎です。
前回に引き続き、今回は【中編】です。
3.太陽光パネル問題あるある
【前編】では、ソーラーシェアリングにまつわる誤解と、激変する環境で常識が非常識になる現代について書いてきました。その中で、太陽光発電そのものに対するネガティブ意見についても少し触れましたが、これについては結構根深い問題もあり、改めて【中編】で取り上げておこうと思います。
太陽光発電に対してネガティブな人や懐疑的な人から、よく聞かれることとして、下記のようなことがあります。
①景観問題
ギラギラとした太陽光パネルが風光明媚な行楽地の道沿いに並ぶ光景を見るとげんなりしますね。残念ながら、事業者は景観のことなど考えていないところがほとんどで、地方自治体が条例等で規制をしても「時すでに遅し」。既に設置されたものを後から動かすことは不可能です。
ソーラーシェアリングの場合、パネルは地上約2.5~4m程度の高さに設置されるため、人間目線から外れ、野立ての発電所より比較的気にならないという声もあります。ただ、いくらかマシであっても、柱や梁はアルミの銀色で直線的なフォルムで、環境との調和という点では限界があるのは事実です。
景観は人々の主観によるところが大きいので、ある人は気にならないけれど、ある人は気になる、そういうものです。完璧な解決策はありません。
ただ、「人は”慣れる”生き物」である、というのもまた事実です。ビニールハウスも当初は、農村景観の中にこんな人工物が建つのは許せない、という声があったでしょうが、数十年経てば農村景観の一つとして認知されるようになりました(今、ビニールハウスに文句を言う人はあまりいませんよね)。
個人的には、エネルギー生産という意味では「葉っぱ」が理想形だと思っており、太陽光発電設備ももっと自然色のものであったり、曲線的なフォルムであったり、なるべく自然と調和したものが出てくることを願っています。
②パネル廃棄問題
この事業をやっていて、最もよく聞かれる問いが「パネルの廃棄はどうなるの?」ということです。太陽光パネルの原材料の一部には有毒物質が含まれており、全国各地に設置された太陽光パネルが使えなくなった時にゴミが拡散するという指摘です。
まず、世の中に出回っているパネルの90%以上はシリコン系のパネルで、この中で有毒な物質は、はんだづけで使われる「鉛」です。重量の99%はアルミフレームと強化ガラスでこれらはリサイクル可能です。
技術的にはEVA(封止シート)とセルアレイ(半導体)をどう剥離するかがポイントで、複数の事業者がしのぎを削っていますが、技術あるものの、まだ汎用化されていないというのが正確なところです。廃棄パネルが増えるのはまだ先なので、時間的猶予はあります。適正に処理されれば、車などと比べてもシンプルで使える部分が多いのが太陽光パネルであると言えます。
なお、「誰が処理費を払うのか」「不法投棄されずにどう回収するか」という点については、仕組みの問題と言えます。処理費問題は源泉徴収のような形で売電収入から天引きする形になりました。不法投棄されずにどう回収するかについても「家電リサイクル法」に相当する法律と仕組みが必要です。これらはこれから整備されていくことになるでしょう。
③中国製パネルは国益を損なう
太陽光発電に使用する機材は主に太陽光パネル、架台、パワコンですが、10年前までは日本メーカーががんばっていましたが、今はほぼ撤退し、ほとんどが中国産になっています。従って、太陽光発電所を建設したら、機器代は中国に流れることになります。残念ながらそれは事実です。
ただ、20年間事業を行ったと仮定して、事業全体で生み出されるお金と比して機器代は10%程度ですので、富の流出は、原材料を全て輸入に頼る化石燃料とは比較にならないほど小さなものと言えます。
…とはいえ、国内産業育成の観点でも、サプライチェーンを日本企業が持つことは非常に重要です。その点では、事業者努力はもちろん、政府の役割が極めて重要です。最近は「ペロブスカイト」という日本発の技術がようやく実用化フェーズに入りましたが、ペロブスカイトも、昨今中国が生産を強化しており、日本メーカーがサプライチェーンを確立できるかは未知数です。歴史は繰り返すのでしょうか?
太陽光発電は脱炭素の有力な汎用技術で、これから更に普及が見込まれます。国内の太陽光産業をしっかり育ててこなかったは、日本政府の産業政策の失敗と言えます。この教訓からどう学ぶかが重要だと思います。
④氾濫するデマを見抜く目を
最後に一つ付け加えたいのは、太陽光発電に関してYoutubeを中心にデマが氾濫しています。これらに惑わされず、エビデンスベースで判断してほしいと心から願っています。信頼できる情報ソースを以下に記載しておきます。
❶東京都 新築太陽設置「解体新書」》》》とてもよくまとまっています。
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/240830kaitaishinsyo
❷東大の前真之先生の太陽光ファクトチェック
❸新建ハウジングさんのサイト
お読みいただきありがとうございました!この後はいよいよ最後【後編】になります。
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【後編】の目次
4.ソーラーシェアリングが地方創生の起爆剤に
5.ソーラーシェアリングの未来は農業者の手に
①FITが終わったら太陽光発電はおしまいか?
②ソーラーシェアリングは農業用設備になりうるのか?
③ソーラーシェアリングの主役はあくまで農業者
6.さいごにちょこっと予告
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