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拝啓 全国の農家と、農林行政に関わる皆さま【後編】(3/3)

こんにちは。さがみこファーム代表の山川勇一郎です。今回はいよいよ最後【後編】になります。


4.ソーラーシェアリングが地方創生の起爆剤に

農地には、農産物の生産以外に、気温抑制、CO2吸収・貯蔵、食育体験、生物多様性保全、リラクゼーション、貯水機能、防災など、多面的な機能があります。

私たちは、さがみこベリーガーデンを「人が集う場」と位置付け、体験型の教育で地域外から人を呼び込み、農地の環境に触れ、体験してもらう取り組みをしてきました。こうした取り組みを通じて、地域に雇用を生み出し、地域の外からお金を地域に落としてもらい、地域内外の人の交流によって地域に賑わいが生まれつつあります。

太陽光発電は電気とお金を生み出します。ただ、それだけだと、事業者の利益にはなりますが、経済波及効果(特に雇用創出効果)は限定的です。

発電事業のお金を農業に還流させ、そのお金を原資に農業のみならず教育・観光などの視点で事業を起こすことで、地域に関連雇用や、農業・観光収入など、一石何鳥もの効果を生むことができます。「地方創生」の観点から考えると、ソーラーシェアリングは地方創生の起爆剤なる大きな可能性があります。

「植民地型」太陽光発電と「地域共生型」ソーラーシェアリングの地域経済波及効果の違い

5.ソーラーシェアリングの未来は農業者の手に

①FITが終わったら太陽光発電はおしまいか?

FITの買取価格が下がって既に事業性を失っています。私たちは今年、生活クラブさんと共同で低圧2基のオフサイトPPAの発電所を建設し、既に運転を開始しています。2基の発電所はいずれも非FITですが、このようなやり方は可能で、今後主流になっていくものと思われます。

ただ、実際は言うほど簡単ではありません。非FITだと採算的にまだまだ厳しく、しかも、小売業者の同時同量の負担や、発電量課金制度など、事業の障害になる制度が一方であり、事業者の立場としては、政府はとても再エネを広げようという動きではないと感じます。また、ソーラーシェアリングは、経産省(発電、系統連系)、農水省(農地利用)、環境省(温対法、地域脱炭素)、国交省(建築基準・生産緑地)、総務省・内閣府(地方創生)と複数省庁にまたがっており、その狭間で、どこがイニシアチブをとるのか未だにわかりません。

中央官庁のみなさんはそれぞれの利害で動くのではなく、大局を見て、政策を立案してほしいものです。その際に、ぜひ現場に足を運んでほしい。現場を知らないと的外れな政策になり、税金の無駄遣いになります。

地方自治体レベルでも、できることは多くあると感じます。環境省の脱炭素先行地域や促進地域の指定はその後押しになるでしょう。そうでなくても、域内の農地で発電した電気を公共施設が積極的に使用したりすることもその気になれば十分可能でしょう。全ては意識次第です。

私は、再三申し上げているように、ソーラーシェアリングには大きな可能性があると思っていますが、ネガティブ面がクローズアップされると結果的に業界全体が縮小し、イノベーションの可能性は萎みます。

世界では欧州、アジア、北アメリカ、アフリカにもソーラーシェアリングは急速に広がっています。「元祖」である日本のソーラーシェアリングは、今まさに岐路に立っていると言えます。

②ソーラーシェアリングは農業用設備になりうるのか?

私は、本来的にはソーラーシェアリングはビニールハウス同様、農業用設備であるべきだと思っています。そうすれば一時転用許可手続きは不要になります。一時転用手続きをやったことがある人は分かると思いますが、とにかく面倒です。そして「一時転用の不許可リスク」がファイナンス面での大きな障害になっています。

「太陽光架台がブドウ棚を兼ねる」というような考え方は、農業用設備である分かりやすい例と言えます。ただ、実際やろうとすると、ブドウ棚は1,000㎡あたり最大2-3tの荷重がかかるため、太陽光架台の強度計算をし直す必要があります。言うほど簡単ではなく、保険適用外になるケースもあります。

そもそも太陽光発電が農業用設備でないのは「売電が農業ではないから」という理屈ですが、私たちのハウス横の発電設備は、まずハウスで自家消費し、余ったものを系統に流す「余剰売電(非FIT)」方式です。電気を農業に使っているのだから農業用設備と言えなくもないですが、実際にはそれより先に解決すべき課題があり、議論がそこまで行っていないのが現状です。

私は、将来的にソーラーシェアリングが農業用設備として認められ、農業の一部として普通に取り入れられるようになるのが理想だと思っています。

③ソーラーシェアリングの主役はあくまで農業者

農地は基本的には農業者しか利用も所有もできません。従って、農地を使うソーラーシェアリングは本来的に言えば農業者が主役になるのが筋です。現在は発電事業者主導のシェアリングが多く、資金力が強い事業者が当然発言権が強くなり、農業者は単に「営農を委託される側」の立場になっているケースも多く見られます。ただ、それは本来的な姿ではないと思います。

農地の所有者は農業者です。ソーラーシェアリングがいまひとつ広がっていないのは、農業者がソーラーシェアリングをやってみたいと思えるメリットがそこまで感じられないからだと思います。ただ、実際、農業を取り巻く環境は急速に変化し、ソーラーシェアリングによるメリットは益々大きくなっていると当事者として実感します。そして今後、様々な角度から実践と研究を進めることで多くのメリットを新たに創出できる気がしています。現場でできることもありますが、事業環境を作るのは行政の役割です。

農業者が事業を行う際の資金を融通する金融機関の存在も重要です。現在発電事業は農業に該当しないため、トラクターを買うような融資の対象ではありません。ただ、農業者がソーラーシェアリングに取り組む場合、政策金融公庫などの政府系金融機関、農林中金やJAなどの農業系金融機関、地銀・信金などが、農業者主体の事業を融資対象とすれば、事業推進の強烈な後押しとなるでしょう。

農業者にとってソーラーシェアリングは、激変する農業環境の中で、安定した売電が事業収入の下支えになります。パネルの日陰は強烈な太陽光から農作物を守り、農業者の夏の農作業負担を大幅に軽減します。架台が農業用設備を兼ねればコスト削減になります。農福連携、アグリツーリズムの拠点、カーボンニュートラルな農業経営を農作物のブランド価値向上につなげられる可能性もあります。農業参入を検討する企業にとっても、それは次なる成長の可能性のある事業になると思います。

私は、農業とは世の中で最も創造性に富んだ仕事だと思っています。事実、農地は農業者の創造性の結晶であると感じます。自然に向き合い、自分の知恵と体を使って作物を作るというのはとても尊いことです。私は、農業者は自らの創造性を発揮して、ソーラーシェアリングを自分のものにしていけると勝手に思っています。

農業者のみなさん、農林行政に関わるみなさん、みなさんの意識次第で世の中は大きく変わります。農業者が積極的に取り組み、農業行政の本流が動けば、ソーラーシェアリングは日本発で世界に誇る産業になれると私は本気で信じています。ぜひ、農地から未来を創造していきましょう!

6.さいごにちょこっと予告

2024年秋、地域共生型ソーラーシェアリングの新たな取り組みをスタートします。これまでの取り組みを土台に、生活クラブ生協と協働で中山間地に2MWクラスのソーラーシェアリングを展開します。近日中に第1弾の計画をリリースします。年明けからクラウドファンディングも実施予定。ご期待ください!

「食とエネルギーのテーマパーク構想」

最後までお読みいただきありがとうございました!感想もお待ちしています♪

【前編】https://note.com/sagamico_farm/n/n0c45b21115b9

【中編】https://note.com/sagamico_farm/n/ncb7f079edb8a

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