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伝えたいこと(1)高尾の森の5年間
誰もが辿る道とはいえ、現実は厳しい。“現場現物主義”を掲げてはばからなかったこの私が、現場に立てなくなってしまった今、自分のできることは何なのだろう。考えた末たどり着いた結論は、かつて自分が携わった異分野での経験を後進に伝えるという事でした。あの日あの時、全力で取り組んできた人生のひとこまひとこま、その中に埋もれているものを評価してもらえるなら、すべてを余すところなく伝えたいと思います。
私は中学、高校、大学を通じ山岳部に属し、社会人になってからも職域の山岳部に籍を置いて山登りを続けてきました。そんな中で、年々変わりゆく山岳環境の変化を目の当たりにして、会社生活を終えたら山岳環境問題に本気で取り組みたいと思っていました。そんな私が日本山岳会の自然保護委員会で最初に取り組んだのが森づくり活動でした。今回はその時の経験について話したいと思います。
東京の奥座敷高尾山から小仏城山、景信山に続く南高尾山稜と関場峠を挟んで相対する北高尾山稜の間を小下沢(こげさわ)が流れており、この一帯はスギ、ヒノキの植林地が広がっています。
自然保護委員のひとりに林野庁関係者がいて、小下沢上流域右岸斜面170ヘクタールを対象に日本山岳会で森林ボランティア活動をやらないかという話が持ち込まれていました。この広大な場所に広葉樹を植え、針広混交の森にするという野心的なプロジェクトでした。当初3年間は国土緑化推進機構からの助成金の支給もあります。
私が関わったのは立ち上げからの5年間(4,5年目は自然保護委員長兼務)だけでしたが、以下は、その間、事務局長として私が考え実行してきた主要事項です。
■ 森づくりは100年のしごと
誰もが最初に考えるのは助成金や寄付金をフル活用して運営することだと思いますが、私はそうは思いませんでした。いっときのイベントではなく森づくりは100年のしごとです。確かに、国土緑化推進機構からは立上げ資金として3年にわたり助成金が出ますが、3年を過ぎた後どうするのか、この活動の意義を訴えれば相当額の寄付金も集まると思いますが、毎年継続的に寄付を集めるのは至難の技です。私が考えたのは助成金や寄付金に頼らないで継続的に資金が集まるしくみを作ること、ボランティア活動をしたい人達が自主的に集まるしくみを確立することでした。それが出来なければ森づくりはできないと思いました。
■ まずはネーミング
当初「小下沢国有林森づくりの会」という案が有力でしたが「高尾の森づくりの会」にしたのは、多くの人達に親しみやすい名称にしたかったからです。
■ ホームページをつくる
四半世紀前のことです。今でこそホームページを持たない会社や団体を探す方が難しい時代になりましたが、当時はホームページを持つボランティア団体はほとんどなかったと思います。パソコンをロクに操れない人間がよくぞやったと思うのですが、IBMのホームページビルダーを購入し、マニュアル片手にパソコン教室に通って、ホームページを自作しました。事務局として広報、連絡の近代兵器が欲しかったからです。
■ 法人会員制度の制定
国土緑化推進機構からの助成が終わった後どうやって運営していけばいいのでしょうか。活動に参加してくれる個人の会員から大きな会費をいただくわけにはいきません。
時代は大きく変わりました。環境が企業評価の尺度として大きなウエイトを占めるようになったのです。社員のボランティア活動のフィールドを提供することを条件に法人会員を募ったところ十数社の大企業の賛同を得ることができたのです。企業の場合、寄付金だと非課税限度額を超えると課税対象になってしまいますが、一口幾らの年会費なら経費扱いです。加えて、社員が環境ボランティア活動に参加することで企業評価が上がります。当会にとっては、継続的に収入が得られるだけでなく、作業参加者増にもつながります。
Win-Winの制度でした。
■ 京王電鉄との関係をつくる
年間250万人が訪れる高尾山は京王電鉄にとって企業基盤ともいえる宝の山です。その一角で展開する森づくりの活動に関わることは京王にとって大きな意味があります。当会にとっても京王がバックについてくれればこの上ない力になります。何としても相思相愛の関係を作りたいと思いました。
幸い、当時京王電鉄の副社長だった加藤奐さん(そのあと社長を経て会長)が私の慶応中等部時代からの山仲間だった関係もあり、特別支援団体として迎えることができたのは会の基盤づくりに大きく寄与できたと思います。資金的援助のほか植樹祭の苗木の提供、子供キャンプの共催など大きな力になってもらってきました。
■ 助成金の継続
国土緑化推進機構からの助成金は3年で打ち切りになります。3年を超えても助成が受けられる方法はないだろうか。詳細は割愛しますが、国土緑化推進機構と京王電鉄に働きかけ、3者ともメリットがある方法で助成が継続できる仕組みを提案し合意を得ることができました。
今から20年以上前の話です。今日現在どうなっているかわかりませんが、森づくりは100年のしごと、必ずや未来につながる形で進化し続けていると信じています。
(2025.2.22 山川 陽一)