アメリカ南部の深~いおはなし。①
皆様お元気でしょうか?この前の「なんとなーくの南部っぽい州旗の見分け方」の記事は覚えていらっしゃるでしょうか?
今回は「ところでアメリカ南部ってどこやねん」という方に向けてのちょっとした小噺をちょこちょこいたします。
で、「アメリカ南部ってどこ?」
アメリカ南部と言っても結構広いです。説明のためにこの前に使った南部の画像にちょこちょこっと付け足したものを貼り付けます。
個人的に「南部」と言っても色々です。
①深南部(The Deep South)
私の体感だと、深南部、いわゆるディープサウスは
*アラバマ州(地図の②)
*ミシシッピ州(地図の⑥)
*ジョージア州(地図の⑤)
*アーカンソー州(地図の①)
上記4つを指します。
以前の記事でも指摘したように州旗に南軍旗っぽさが残っている州でもあります。
この深南部4州はガチで保守派が多いです。大統領選でも余程なことが無い限り共和党が勝利しがちな風土です。
ノーベル文学賞を受賞したフォークナーもミシシッピ州出身です。彼の著作を読むと「南部白人男性ならではの葛藤」が非常に克明に描かれています。
深南部のメンタリティとは?
まあ、このnote界隈にもガチアメリカ文学専攻が居そうなので滅多なことは書けませんが、この「葛藤」というのは簡単に言えば
①自分が南部人であることを誇りに思っているし、南軍旗も家に飾ってある。南部訛り(サザンアクセント)も誇り。
②南部白人なだけに、西アフリカからのアフリカ系の元奴隷の家系に対して差別的な視線を持っている一方、「もしかしたら自分にも黒人の血が流れているのではないか」という脅迫観念を抱きがち
③民主党がバックについているようなGAFAに代表されるグローバルテック系企業は信用できない
①の南部訛りで面白い動画があったので貼っておきます(ちゅうか夜のテレビショーなので南部訛りがネタになってますがw)。南部訛りは私にとっては割と身近なので普通に左の女性(エリザベス・クックさん)の南部訛りは非常に耳障り良く聴けます。彼女含め、カントリー系、バスカーフィドル系のミュージシャンの女性の南部訛りは柔らかくて好きです。
②なんかは手塚治虫の『アドルフに告ぐ』でヒトラーが「自分にはユダヤの血が流れているのではないか」と疑心暗鬼になったエピソードがありますが、南部白人男性はもっと過激です。
今でもこの深南部の州の一部の郡では「黒人の血が一滴でも入ってたらそいつは見た目がどれだけ白人でも黒人の仲間でしかない」みたいな「一滴の血理論(ワン・ドロップ・ルール)」が存在します。
ワン・ドロップ・ルールで一番有名なものは(一応昔の法制度でも実在してましたが)「31分の1以上、黒人の血が混じってたら黒人」なんだそうです。
わかりやすい例を挙げると、オバマ元大統領は「黒人」と言われますが、父親がケニア人で母親がアメリカの白人です。白人の血が半分入っていても「黒人」と言われるものなのです。なお、アフリカ系と呼ばれるアメリカの黒人の95%以上は白人との混血です。だから、生粋のアフリカ人とアフリカ系アメリカ人は顔つきが違うんです。
「何で31分の1という変な分数になるのか」というと、「5代前に黒人が一人いる程度の血なら白人」なんだそうで。そらこんな厳格な考え方してたら自分がいくら見た目白人でプライド持ってても「もしかしたら」と神経衰弱のような状態になる男性は多いんじゃないでしょうか。その辺りの葛藤についてフォークナーは非常にうまく描いています。
そして、①の南軍旗と同じ扱いを受けているのが南軍の軍歌であったFrom Dixie with Love(ディキシーより愛を込めて。現在は演奏禁止になってます)を敢えて屋内で演奏したミシシッピ大学(オール・ミス)のブラスバンドの演奏の前のスネイブリー博士の0:45辺りまでのしゃべり方は非常に南部っぽいしゃべり方になっています。(最後だけちょっと標準的な北米アクセントになってます)
From Dixie with Loveは「ロックンロールの王様」ことエルヴィス・プレスリーも歌っていて、そのメロディに聞き覚えがある人もいるかもしれません。
そして日本では「ちょっとやんちゃな方々」のことを「ヤンキー」と言いますが、語源的にはYankeeは「北部人」のことであり、南部人は「ディキシー」と言います。よって南部の特に年配の男性に対して「ヤンキー」と言ったら怒る人も割といますのでご注意ください。
①と③の複合技のようになりますが、「最近深南部ですら南軍旗がグーグルマップで見れない」という現象は生粋の誇り高い南部人はグーグルのようなグローバル企業は大嫌いです。だからグーグルカーを立ち入らせない集落や住宅地を形成していたり、「グーグルカーを見かけた」という情報があれば敢えて星条旗に換えるか、撮影されてしまった場合は「南軍旗はモザイク入れてくれ」と注文してたりします。
ついでに言うと、南軍旗自体、最近は公共の場所で掲揚することを深南部の諸州でも法令で禁止しているので(南北戦争関連の記念日などは例外)、観光写真としてはガチで南軍旗が映っていても、Googleマップには載りません。
また、深南部の州でも最近はBLM運動などの余波を受けて南軍旗は忌避されがちです。まあアフリカ系住民からみれば「自分らの先祖の憎い奴隷主の旗印」なんで当たり前なんですが。
「じゃあなんであのGame Knackさんの動画でフロリダとアラバマの州境辺りにがっつり南軍旗が映ってたんだよ」という話になりそうですが、あの辺は湿地帯であり、かつ刑務所が近い、ということもあって、普通の南部人の場合は立ち寄るのも避けています。そういった場所だったからこそ逆に堂々とグーグルカーが入って行けてしまって南軍旗ががっつり映ってしまった、というのが大体の私の予想です。
南部男性のメンタリティとは?
これは私が出会った南部のガチ保守の複数男性の大体の属性です。
①南部人であることを誇りに思うが故に「自分たちは過去に北部に負けた南部人の子孫なのだ」と思いがち(リー将軍を尊敬していて肖像画を飾ってたりします)
②「自分は保守派だから」とGAFAを忌避しがちで共和党支持
③ハコ車オーバルレース(NASCAR)がアメフトよりも好き
①に関しては私は面白い経験をしています。
わりかし多くのアメリカの白人(男性女性問わず)はアジア系に対して差別感情を抱いています。白人の方全体で言うと2割ほどはガチでアジア系が嫌いでこっちがどんだけ北米アクセントで話しかけても全く相手にしてくれません。(逆にチカーノと呼ばれるメキシコ系アメリカ人やアフリカ系アメリカ人の方々はめちゃくちゃ丁寧に接してくれます。)
しかし、私が南部で偶然に出会ったガチ南部メンタリティの男性(複数名)は、私が日本人だと判るや、「俺たちは『負けたもの同士』だから仲間だ(自分たちは北部ヤンキーに対してだが、日本も北部ヤンキーに負けたと解釈している)」と言われてすごくよくしてくれたことがあります。「いや知らんがなwwww」と思いつつも、日本人に対しては本当に親切にしてくれる人が結構いるので、別の白人から差別に遭っていても、何だか救われた気分にはなります。
②についても、今でこそスマホを南部人でも持つようになりましたが、基本的にGAFA系の機器には居心地悪さを感じているようです。トランプ元大統領もそうですけど、結構保守派独自の検索エンジンやら動画サイトを作りがちです。
それこそインターネットの黎明期であった1990年代後半だと、南部の男性の多くが「僕は保守派だからパソコンは持ちたく無いんだよね」と言ってました。「判らないから持たない」のではなく、「己のプライドや信条に反するから持たない」ということらしいです。
よってGAFAの多くが本社を構えるカリフォルニア州やオレゴン州・ワシントン州などと深南部の州をジオゲッサーで間違えると南部人はめちゃくちゃ怒ります。
そして、上記西海岸3州は民主党が結構強い州なので南部と間違えると今度は西海岸の連中がめちゃくちゃ怒ります。
ホントGame Knackさんの動画が日本語で良かったー(泣)。
③が上に関する大体の理由として該当します。彼らは自動車は大好きなのです。車いじりとか、それこそ自前でやってしまえるほど、マシンについては精通しています。だから「パソコンが操作できない」訳では全然ありません。
ハコ車オーバルで有名なのはデイトナ500とかですかね。とにかく彼らはNASCARを見るためにはキャンピングカーで1週間以上レーシング会場の駐車場に泊まり込む、ということを当然のようにやります。最近だと「キャンピングカー用の駐車場」がめちゃくちゃ広く面積が取られているので、レースシーズン以外の時はかなーり閑散としています。
それが一転、NASCARの会場となった場合は近隣の市街地の道路がむちゃくちゃ渋滞します。この時期ばかりは「歩いた方が速い」を実感します。
なお、INDY500はF-1系のレースなので若干経路は違いますが、観客が押し寄せるのは変わりないようで、5キロ以上離れた住宅街にも無断駐車する輩が現れるために警察が取り締まりに大忙しです。
②テキサス州(最初の地図の赤い星の部分)
テキサス州の州旗はこちらです。
上を見ても判るように、テキサスの州旗は「星が一個である」ということが重要です。
それもそのはず、テキサス州の愛称は「ひとつ星のくに(Lone Star State)」と言われ、現在でも州旗や州の紋章にもひとつ星はばっつり入っています。州旗の歴史をちょこっと見てみましたが、大体の時代でひとつ星です(地は赤になってる時代もありました)。
ただし、テキサス人は自分たちを南部にくくられるのは「なんか違う」と思っています。その理由は「テキサスは合衆国建国の最初の時期からの南部ではないから」という歴史的背景が存在します。だから彼らのアイデンティティは「南部人」ではなく「テキサス人」なのです。
テキサスが合衆国に組み入れられるまでの大まかな経緯は以下の通りです。
①アメリカ先住民の居住地~フランス植民地の時期(後期旧石器時代~西暦1800年)
②スペイン領テキサス~メキシコ領テキサス(1690年~1836年)
③テキサス共和国~南北戦争~戦後復興期(1836年~1870年)
テキサスという言葉はスペイン語読みすると「テハース」になるように、テキサス州内にはこれでもかと言うように地名にスペイン語が②~③の時期に入ってきています。
代表例(人口の多い都市):
サンアントニオ San Antonio→スペイン語で「聖アントニウス」という意味
エルパソ El Paso→スペイン語で「峠」という意味
アマリロ Amarillo →スペイン語で「黄色」という意味
この③のテキサス共和国の時期がわりかし合衆国のほかの州とも違う歴史を持っているためにテキサス州の人々にとっては「テキサス人であること=プライドのよりどころ」になっています。
後で「ジオゲッサートラップの例」として記事を書きたいのですが、テキサス・ロード・ハウスというステーキのフランチャイズチェーンはそれこそ全米どころかフィリピン・韓国・台湾にまで進出しているのでテキサス州旗が見えたからといってテキサス州では全然ありません。
③ルイジアナ州(上の地図の水色の星の州)
ルイジアナ州の州旗はこちらです。
親のペリカンさんが3羽の雛ペリカンちゃんに餌をやってます。
個人的には州旗の中で一番ほっこりした気分になれます。
ミシシッピデルタ含め、南部の大きな川のデルタ地帯や、その他南部の海岸部の湿地帯にはペリカンさんの群生地があって、湿地生活を送りがちな鳥さんがいっぱいいます。(ただしペリカンさんやらフラミンゴさんは肉食のため、糞の臭いがすごいので、野生の彼らを見る場合は双眼鏡によるバードウォッチング推奨です)
「ペリカンさんの親子の州旗」はルイジアナしかないのでジオゲッサー攻略法として覚えておいても良いかもしれません。
④ニューオーリンズ(ルイジアナ州最大の都市)
ニューオーリーンズ、といえば地理が好きな人であれば「ミシシッピデルタ」という言葉が出てきますし、文化や食べ物が好きな人であれば「ケイジャン料理」や「マルディグラ」が出てくるかと思います。
ここも南部っちゃあ南部なんですが、まず州名のルイジアナ(Louisiana)自体が「ルイ(歴代ブルボン朝のフランス国王)の土地」という意味が語源的にあります。
それほど、ルイジアナとフランスの結びつきは深く、「マルディグラ」と言えば本来はフランスのカトリックのお祭りなのですが、フランス本国ではフランス革命の後のゴタゴタのせいで宗教戦争が起こったりしていたため、アメリカ合衆国どころか世界で最大のマルディグラが行われる場所がニューオーリーンズとなっています。
もちろん深南部の州でもマルディグラを行う地域はあるのですが、ニューオーリーンズほどの規模ではないので「ルイジアナ=フランスの香り」と覚えて問題ありません。
なお、ニューオーリーンズの市旗はこちらです。
市旗を見ても判るように、ニューオーリーンズ、並びにルイジアナ州全体としてフランス系住民は「クレオール(ルイジアナ・クレオール)」と「ケイジャン(ケイジャン・クレオール)」に分かれます。(※「ケイジャン・クレオール」は正式な名称ではないのですが、なんか知りませんが私の中では「ケイジャン」と来ると勝手にその後に「クレオール」がついてきます)
④-1 「ケイジャン」とは?
「ケイジャン」と「クレオール」では同じフランス系ながら、若干違います。
ケイジャンは、元々は現在のノバスコシア州(カナダ最東端の州)に住み着いていたフランス系移民がイギリス系移民に追い出されてニューオーリーンズにたどり着いた、という歴史を持っています。
ケイジャン(Cajun)という単語自体、ノバスコシアの旧名であるアカディア(Acadia)が訛りに訛ってアが取れて英語読みして「ケイジャン」になったようです。
ケイジャン料理もさることながら、私にとっての「ケイジャン」はミュージシャンのジョン・バティステです。昨年リリースのFreedomのMVはこれでもかとケイジャン要素が含まれていて「あー、ニューオーリンズのケイジャンってこんな感じよね~」とめちゃくちゃ納得できます。
見て判る通り、南部とはいっても割と開放的で、白人と黒人の間の壁はほかの深南部の州に比べると低いです(皆無とは言いません)。
私にはケイジャンの知人がいましたが、本当に友好的で親切でした。ただし、ケイジャン・フレンチという独特のフランス系クレオール言語を話す人もいるので、そういう人と出会うと若干リスニングが難易度高くなります。
④-2 ルイジアナ・クレオールとは?
上記のケイジャン以外の、フランス系、スペイン系、もしくはドイツ系の移民でルイジアナに住むようになった人々のことをルイジアナ・クレオールと言います。
こちらもクレオール料理がニューオーリーンズの名物です。
ケイジャンとの違いはといえば、
①クレオール料理とケイジャン料理では主に食材にするものが若干異なる。
②ルイジアナ・クレオール語は、ケイジャン・クレオール語に対して、より多くハイチ語からの影響を受けている。ケイジャン・クレオールは英語・スペイン語・ケベコワフレンチ(ケベック州のフランス語)・ハイチ語など、より多くの言語に起源があることが多いです。(例外もあります)
⑤サウスカロライナ州(最初の地図の黄緑色の星の部分)
サウスカロライナ州の州旗はこちらです。
パルメットヤシと三日月。パルメットヤシはバハマ原産でフロリダに多いので一瞬フロリダ州の州旗かと間違えそうになりますが、「いいえ、青でヤシの三日月はサウスカロライナ」ということで。
シュロがヤシ科なのに北海道の石狩平野辺りまで普通に生えてるのがジオゲッサートラップともなっているのと同じ現象ですのでご注意を。
ここも人によっては深南部に入れる人もいます。
コロナ禍の前は私、割とちょくちょくアメリカに行ってたり住んでたりしてた+自家用車やレンタカーで自由に走り回っていたので、わりかし合衆国に関しては「マジゲッサー寄り」なのかもしれません。(いやジオゲッサーをそこまで根詰めてはやってませんが)
ちなみに私がガチでリスニングできなかったのが、
①サウスカロライナの内陸部の農場見学に行った時のおっちゃんの激烈南部訛り
②アパラチア山脈寄りのケンタッキーの山奥に迷い込んだ時のおっちゃんの山岳部民訛り(マウンテニア・アクセント)
③割と小規模なアメリカ先住民族博物館に行ったときの売店の先住民のお姉さんの訛り(おそらくナバホ語系の言葉が混じっている)
④ニューヨークのハーレムやブロンクスにいるハイチ系の住民のハイチ語(ヘイシャン・クレオール)
①と②は最初の地図で私が白クレヨンを描いた部分にいる地方の人たちです。ただし、彼らはアジア系である私に対しては本当に素朴で親切でしたよ。
この4つは下手をしたらEU加盟のヨーロッパの各国の非英語圏の方々が話す英語よりも聞き取りづらいです。
(「なんでそんなおかしなとこまで足伸ばしてるんだよww」というのは敢えて「いや案内人やら知人がいたし私アメリカの某州の運転免許持ってたので」としか言えません)
私はあまりサウスカロライナは深南部には入れる意識はありません。この前の記事の墓地の話題でサウスカロライナ州最大の都市のチャールストンのニュースを入れた関係で南部ではあるのですが、チャールストン自体はなんとなーくニューオーリーンズと同じ空気感があるんです。多様な民族・人種が植民地時期当初から入ってきているので元々の宗主国はイギリスですが、色んな文化が残っているからです。
「サウスカロライナの一番美しい文化遺産は何か」と聞かれれば、私は「チャールストンの町並みとガラ語だ」と答えます。
もちろん、ガラ語はノースカロライナからジョージア、フロリダ北部に至る海岸部に住む人々が話す言葉ではあるのですが、サウスカロライナの沿岸部のアフリカ系のお年寄りが一番ガラ語が達者だと個人的に思っています。
何でか知らんのですが、私はガラ語が聞き取れます。おそらく知人友人にアフリカ系が多かったからというのもあるのでしょうが、下の動画の0:37ぐらいから聞けるガラ語は字幕なしでも大体何言ってるかは判るのですが、人によっては「何言ってるかはひどい日本語訛りの英語並にわからん」と言われそうです。
ちょっと文章が長くなりすぎました。すみません。ほかの南部の州についてのおはなしは次回にしますね。