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【Vol.18 成果は意志に】家業倒産、大学中退、派遣社員から年収1600万リーマンになるまでの話
成果はモチベーションに
アクセサリー販売の、社内コンテストが始まった。
僕のグループは、3人。
ツン姉さんと、僕と同時期に入った派遣男性。
ここでは、ニノとする(90%目をつぶれば嵐のニノに見えるため)。
ニノは僕より4つ年上だったが、指導役の僕に非常に懐いていた。
彼は両親が健在の中、なぜか祖母のもとで育つという変わった人生を送ってきたらしい。
アラサーだったが、キャリアに特筆すべきものはなく、前職は清掃業だった。
しかし、その祖母に愛情を持って育てられたからか、非常に気持ちのいい男だった。
常に明るく素直で、年上であることを微塵も感じさせないコミュニケーション。
そんな彼に、僕は販売法の全てを教えんとした。
もちろん100%コピーできるわけではなかったが、彼は愚直に実践して力をつけていた。
成長に必要なのは、何でも試す素直さと、アウトプットの量であることの証左だろう。
そんな彼は、アクセサリー販売コンテストでも奮闘した。
僕はすでに、どんな商材でもそれなりに売れる術を身につけていた。
商材によって難易度は変わるものの、人が何かを購入・契約するときの心理はほぼ変わらない。
したがって、売る側が行うことも、本質的には変わらないのだ。
そんな2人のスタートダッシュで、グループは首位を快走していた。
数日経ったある日、ツン姉さんが1番の高額商材であり、店にとってドル箱のSDカードを大量に売っていた。
しかも最も大容量のものを、最も売っていた。
通常、松竹梅があると、竹もしくは梅が最も売れる。
SDカードもそうだった。
正直なところ、僕は最大容量の高額を見せておいて、その次の容量を選択してもらうトークを行っていた。
なので、ほとんど最大容量は売れていない。
その中で、最も高額な物を売りまくっている。
純粋に、すごいと思った。
「ツン姉さん、すごいじゃないですか!どうやって売ってるんですか?!」
とはしゃぐ僕。
「あんたらが売るから、私もやらなあかんようになったやん。これで1位逃したら、気まずいやろ。」
とぼそっとつぶやくツン姉さん。
質問の答えにはなっていなかったが、その言葉は嬉しいものだった。
他人である僕たちがどう感じるかを想像し、悲しませないように行動してくれた。
もしかしたら、その状況に陥った際に持つ罪悪感を避けたかったのかもしれない。
いずれにせよ、他人に無関心ではないのだ。
そして、その気になれば高額商材を売れてしまう販売力。
これは、いい意味で誤算だった。
僕もツン姉さんに負けないように、大容量SDを売るのに注力した。
店舗内で負けそうになる経験は、これまでのところなかった。
ツン姉さんが売る度、僕は声をかけていた。
当初賞賛だったが、実績に差がなくなると「負けませんよ」という競争心を、そのまま言葉に出した。
後から理解したことだが、賞賛は上の立場から行うもの。
感謝などの声かけの方が、そういった立場の差が現れないらしい。
僕の当時の立場で「感謝」は違和感があるが、ライバル心を示す言葉は、相手の実力を認めているからのもの。
結果として、ツン姉さんへの敬意を示せていたかもしれない。
結局のところ、ほんの僅差で競り勝った。
競馬で言うと、鼻差くらいのもので、どちらに転んでも不思議ではなかった。
3人とも売れる僕らのグループは、そのまま首位を一度も譲らず圧勝した。
「あー、しんどかった。もう嫌やで、こんな頑張るの。」
そう口にするツン姉さんは、笑顔だった。
こんな笑顔を見るのは、初めてだった。
セリフとは裏腹に、その後もツン姉さんは販売で頑張ってくれた。
モチベーションと行動・成果は、モチベーションが先だと思われがちだ。
しかし、実際には行動・成果がモチベーションを生む。
それを実感した、最初のケースがこれだ。
僕のマネジメント哲学に、大きな影響を与えた出来事である。
「ツン姉さんって、誤解されがちじゃないですか?一見冷たそうに見えるけど、実はめちゃくちゃ人に気を遣ってますよね?しかも、そのために自己犠牲もするし。」
ある日休憩時間がかぶり、休憩室でこう言ったことがあった。
「私の何がわかるんよ」
言葉は冷たいツン姉さんだったが、ちょっと照れているのを隠せていなかった。
この日から、ツン姉さんは僕達の味方になってくれたと実感したのであった…
To be continued...